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黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー   作者: 浅木夢見道
第4章 夏休み編 無名と著名と、夢の国と希望の国
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215 息つく間も無く


「俺のいた世界のあいつは、強盗殺人犯だった。天田亜門は——俺の世界の俺の両親と、まひるを殺した男だ」


 レイラは、急に自身の心臓が一回り小さくなったように感じる。


 衝撃的な言葉は、すぐに理解ができないとよく小説で語られていた。

 しかし、現実では真也の口から出た言葉の意味が、一瞬で理解できてしまった。


「そ、ん……」


 しかし、口からは、なんという言葉を言えばいいのかは分からなかった。であれば、やはり理解が追いついていないといえるのかもしれない。


「あの——いや」


 レイラの言葉は、またも途中で途切れる。

 彼女が吐きそうになった言葉は、彼が望むものではないと直前で気がつけたからだ。


『いま、あの男は死んでも誰も文句を言わない場所にいる』


 そんなことを言って、自分は真也に『何』をさせるつもりだったのか。

 そして、自分があの男をどうしてやりたいと思ったのか。


 そんな個人的感情は、作戦と無関係だ。


 真也自身も『前の世界と今の世界は違う』と納得しているにも関わらず、自分が一番理性を保てていないのだとレイラは反省した。


「分かった。あの男、こちらで対処、する」

「ごめん、顔を見るのも辛いんだ……」


 弱々しい真也の呟きに対し、レイラは頷く。

 レイラは、未だどうすればいいのかは分からない。正解などわからないが、それでも作戦は進む。


 世界を救うため、同時バンを起こした原因を叩かねばならない。

 間も無く敵本拠地に乗り込むことになる。殻獣を操る人型殻獣を駆除し、首謀者を捕らえなければならない中で、迷っている時間はなかった。


「じゃあ……私は、行く。真也、もう少し——」


 レイラの言葉が、今度は自分の意思と関係なく、空気を切り裂くような轟音に遮られる。


 音は一度で収まらずに幾度も鳴り響く。

 まるで雷が落ちたような轟音は同様に強烈な閃光を伴い、明け方の明るい空が音に合わせてより白く光る。

 ほどなく、真也が空の一点を指差し、轟音に負けない声量で叫ぶ。


「レイラ! 向こう!」


 真也が指差した方向は、希望の国の城壁に沿った南側。ちょうど『南門』がある方だった。

 指の先へと視線を向けると、轟音と同時に、南門の空に『光線』が見える。


「あそこには、デルタ小隊の人たちが……田無先輩と苗先輩が!」


 真也は叫ぶ。南門は、中国支部のリーダー(しゅう)紫釉(しゆ)が率いるデルタ小隊が制圧作戦を行なっているはずだ。


「あの、光……まさか」


 レイラは愕然とする。南門の方角から何度も放たれる『光線』。その様は、作戦概要の映像で見たことがあるものだった。


『アルファ小隊! 耳だけかしなさい! マミヤ、取れる!?』


 レイラの耳に、通信が届く。

 真也も急なアリスからの通信を受け取ったのであろう、耳にはめた通信機に手を添え、真剣な表情へと戻っていた。


「はい。大丈夫です!」

『デルタ小隊から緊急連絡! 見て分かってると思うけど南門にてハイエンド『突然死(サドンデス)』と接敵情報!』


 ハイエンドオーバード『突然死(サドンデス)』、ラファエル・リベラ。

 キネシスのハイエンド異能を持つオーバードであり、国疫軍に所属をしていないハイエンドオーバードの一人である。


 その異能は、『光線』。シンプルかつ強力なその力は、手から高熱量の光線を放つというもの。片手から放たれるそのエネルギー量は、優に戦術兵器を超える。

 真也や美咲、アリスとは違い純粋な破壊力に割り切った異能であり、ハイエンドの中でも殺傷能力は最高位とすら言われ、恐れられている。


 リベラは光一が真也に伝えた『圧倒的な異能者は社会的なシステムを飛び越える』という言葉を体現する人間であり、『暴力』一本で、傭兵としての地位を築いた男だった。


 そんなリベラが現れたであろう南門のデルタ小隊には日本支部から苗と修斗が参加している。

 真也は血の気が弾く思いで通信を返す。


「すぐ救援に向かいます!」

『貴方が勝手に決めないの! でも正解! すぐに行って!』

「了解です!」


 真也は先ほどまでと打って変わり、真剣な表情を取り戻していた。


「レイラ、行ってくる!」

「お願い!」


 真也はレイラの返事に頷き走り出す。棺の盾に飛び乗ると、空を裂くような勢いで飛び立っていった。


「お願い。いまは……そちらに集中、してて」


 真也の背を見送りながら、レイラは呟く。

 真也の陥っていた感情の先には袋小路しかない。彼が『戦士』になってしまうことを何よりも恐れていたはずなのに、戦地へと飛び立っていく真也の背をみて、レイラはすこしホッとしてしまった。


 真也が飛び出して行った後も、通信は忙しなく続く。


『あ、アリスちゃぁん! わ、私はどうしますかぁ!?』


 緊張した声色で叫んだのは美咲。

 美咲は東門前よりも少しだけ南側に近い『家畜小屋』の制圧を担当していた。


『ミサキも行って。二人がかりで『突然死(サドンデス)』を完全に制圧して』

『わわわかりましたぁ!』

『私は南門と逆方向にいるから一旦東門の門前確保に合流するけど、必要があればすぐに行くわ。『家畜小屋』に人員は?』

『もう兵器で基地を作りましたぁ。李さんたちがみ、見ていてくれれば平気ですぅ』

『助かるわ。東門前の様子は?』

「不審な民間人、強度1オーバード、一名。確保作業中」


 レイラは『天田』という名前を出すことも、真也の状態も明かすことなく伝える。

 真也の言葉を疑うことなどないが、先ほどの一般人が『天田』であるというのは未確定情報でもあったし、明かさなかったところで天田が民間人であることには違いない。

 レイラが端的に返すと、隊長のアリスが反応をする前に、割り込みがあった。


『確保に関しては完了した。しかし……追加情報だ。希望の国内部から、人型殻獣が向かってきている』


 声の主は、レイラが天田の拘束を頼んだ飛龍だった。


 レイラは静かに顔を歪め、奥歯を噛み締める。

 最大戦力を放出し、戦力を分散させたと同時に援軍を出す。的確でいやらしい戦法だ。


『このタイミングでッ……数は!? 接敵しているの!?』


 アリスもレイラと同じ表情をしているのだろう、苦々しげに叫ぶ。


『いや、接敵はしていない。総数1、余裕ぶって東門に向かってきている』

『その余裕の鼻を折ってやるわ! 間も無く東門に到着するから、対処可能でもこちらからは手を出さないで!』


 アリスの叫びに対し、飛龍は再度冷静に告げる。


『出すものか。アレは俺たちでは無理だ。……いや、隊長でも厳しいかもしれん』

『なんですって?』

『……あれは、俺も見たことがある。アメリカに現れた、『ハーミア』と名乗った化け物だ』


 人型殻獣乙種『ハーミア』。


 それは国疫軍アメリカ支部の記念式典をメチャクチャにし、アメリカ支部の異能者たちと、トイボックスまでも打ち負かした人型殻獣だった。


 南門ではハイエンド『突然死』が暴れ、東門では人型殻獣『ハーミア』が出現。十中八九、東門も戦闘となるだろう。

 一時確保した『天田』に関し対応する時間もなく、目が回るように物事が転がっていく。


 通信は無いが、ルイスと伊織の参加した西門も、光一とまひるの参加している北門にも、同様に罠が張り巡らされているだろう。


「先回りばかり……ユーリイの言葉は、やはり……」


 上陸から今まで、『アンノウン』は希望の国——『フェイマス』に振り回され続けている。全世界同時多発バンすら含めれば、全世界が『フェイマス』に思い通りにやられているのだ。

 その現実は、ユーリイの『敵首魁、ウィリアムには未来を見る力がある』という言葉を納得させるに十分だった。


「私が……やらないと」


 レイラは呟くと、東門に向けて駆け出した。


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