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黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー   作者: 浅木夢見道
第4章 夏休み編 無名と著名と、夢の国と希望の国
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163 デイブレイク、再集合


 真也は絶え間ない出動の中、デイブレイクの召集を受け、学園へと戻る。

 夏休みに入ってから一月も経っていないというのに、非常に久しぶりに思えた。


 人の(まば)らな学内を歩き、アンノウンのラウンジへと向かう。


「……意外と、人多いな」


 すれ違う生徒たちは部活動などのユニフォームではなく、皆、軍服かオーバードスーツだった。

 デイブレイクのラウンジへ続くエレベーターに乗り込むと、真也は壁にもたれかかり、癖の独り言を呟く。


「……なんか、緊張するなぁ」


 遊園地での一件以降、真也は西へ東へと様々な殻獣災害地域を飛び回り、デイブレイク隊の面々やレイラはもちろん、まひるとすら、顔を合わせていなかった。


 しばらくしてエレベーターが開き、真也は気合を入れて一歩踏み出す。


 真也がラウンジに飛び込むと、すでにデイブレイク隊全員が集結しており、担当官の園口が今まさに資料を配っていた。

 集合時間は未だ先だったが、他の皆を待たせたと焦る真也は大声で挨拶をする。


「お疲れ様です! お、遅くなりました!」

「安心しろ、まだ集合時間前だ」


 わたわたとエレベーターから降りてくる真也を、園口は頬の端を少し持ち上げながら落ち着けた。


「真也」

「レイラ!」

「……こっち」


 真也の姿を認めたレイラは、ソファから立ち上がって自分の隣を指差す。

 真也は少し顔を赤らめながら、レイラの指差した場所へと腰を下ろした。


「みんな、久しぶり」

「お疲れ、間宮」

「ま、間宮さぁん! お、おひさしぶりですぅ……」

「会うの、遊園地以来」

「そうだね……みんなの方はどう?」

「ボクは稼がせてもらってるよ」

「あはは」


 久しぶりの再会に盛り上がる中、ソファの後ろ、併設されたカウンターから真也に声がかかった。


「間宮、久しぶりだな」

「九重先輩!」


 レイラや伊織、美咲たちよりもより久しい光一との再会に真也は頬を綻ばせる。


「真也さん」


 光一の横には、にっこりと微笑む苗の姿もあった。

 苗は真也の方へと近寄ると横へ屈み、ソファの腕おきに可愛らしく手を置く。


 その顔は、同じ部隊員というには、そして先輩と後輩というにはとても近い距離にあり、少し上目遣いに見上げられた真也はどきりとする。


「真也さん。何故か、とても久しぶりにお会いしたような気がします」

「そんな、前に武装を預けに行ってから2週間くらいですよ」

「そうですね……でも、お顔がとても力強くなられました。多くの現場を経て、経験を積まれたのでしょうね」

「ええ、その、まあ……がんばって、ます……」


 すぐそばに迫る苗の顔に、真也は頬を赤らめさせ、視線を逸らす。


「それと……父から聞きました。助けてくださったようで、ありがとうございます」

「い、いえ。そんな……」


 苗の言葉に、真也は言葉を濁らせる。

 ホテルでの災害にて会った衛護に対し、真也は上手く言葉を返せなかったことを思い出す。

 真也の中で未だ衛護は『苗を追い出すかもしれなかった人』であり、どこか苦手意識を持っていた。


 苗が衛護に対し、どんな感情を持っているのか分からない真也の歯切れ悪い言葉と対照的に、苗は真也の手を取り、少し頬を紅潮させる。


「父が無事で、本当に安心しました。『また』真也さんに借りができてしまいました」


 近づく苗の顔と、手に返ってくる暖かさに真也がドギマギしていると、膝の上にどん、と軽めの衝撃を感じる。


 驚いて膝の上を見ると、まひるがソファの前に座り込み、真也に抱きついていた。


「お兄ちゃんっ!」

「まひる」


 まひるの顔は少し不機嫌そうであり、真也は眉を下げてまひるの頬を撫でる。

 真也が葬儀屋(アンダーテイカー)として活動し出してからというもの、ほぼ家に帰ることもなく、他の面々と同様に災害現場を飛び回っていたまひるとも、久々の再会だった。


「ごめんね、ひとりにしてて」

「ううん。大丈夫。お兄ちゃんこそ、大変だったでしょ?」

「まあ、ね。ちゃんとご飯食べてた? ちゃんと作ってる?」

「え? うん……タベテルヨ? ツクッテルヨ?」

「……まひるぅ?」


 真也の責めるような視線に、まひるは降参したようにえへへ、と笑う。


「ごめんなさーいっ!

 でも、お兄ちゃんの作るご飯が美味しいんだもん!」


 誤魔化すように膝に飛び込んできたまひるの頭を真也がひと撫ですると、まひるは頬を緩めて真也の腹に顔を擦り付けた。


 ラウンジでの久々の再会を喜ぶ中、園口が手を叩き、告げる。


「さて、話したいことは多いだろうが、そろそろ時間だ。始めるぞ」


 真也は時計を見上げる。いつの間にか、集合時間となっていた。


 園口は準備していた資料を配り、真也も一部受け取る。

 資料には『特別部隊結成式、および第一号作戦について』と書かれており、『極秘』『持ち出しの禁止』『共有後は即時の破棄命令』といった文字が並んでいた。


「先ずは、みな、連日ご苦労。そんな中集まってもらってすまんな」


 全員の手に資料を渡し、園口は部隊員たちを見回す。


「だいじょうぶっス! 全然平気っスよ!」

「むしろ、やっと肩が温まってきたくらいです」


 連日の激務が続く中、透やルイスの力強い言葉に園口は満足そうに頷くと、言葉を続ける。


「さて、足早だが、もう本題に入らせてもらう。

 本来なら二学期から活動する予定だった『アンノウン』について、だ」


 『アンノウン』について。園口に視線が集まり、全員の表情が真剣なものへと変わる。

 世界的に新学年が始まる9月に始動するはずのアンノウンとしての活動だったが、先日起きた世界規模の汚染災害によってその活動に変化が見られるのは皆に予想できるものだった。


「今回の全世界同時多発バンに対して、アンノウンの結成式と軍事行動の開始が早められた。

 五日後の8月16日、0800(マルハチマルマル)に学園港の第二待合室に集合してくれ。移動時間を利用して結成式を行い、部隊練度を上げ、そのまま初作戦となる。

 全てを兼ねた期間を3週間として設定しているが、多少は前後があるだろう」


 アンノウンの活動が早められることは予想できたが、五日後、三週間という逼迫した状況に真也は驚く。


「五日後……三週間も……長いなぁ」

「いえ、真也さん。部隊練度を考えるのでしたら、短すぎるくらいです」

「三週間でも厳しいですが……作戦期間を考えるのであれば、もっと短いですね」


 真也がボソリとこぼした言葉に苗が反応し、ルイスも彼女の意見に賛同する。


「無謀と言ってもいいだろう」


 光一の、隊長の言葉と思えない発言にみな驚き、視線が光一へと集まる。


「しかし、それほどの無理を承知の上で行う価値のある作戦だということ。

 ……ですよね? 園口少佐」


 光一は『そうでなければ隊員たちを危険に晒したくない』という意思を込めて、園口を見つめる。

 それに対して園口は首肯し、言葉を引き継いた。


「ああ。九重の言う通りだ。

 この作戦が成功すれば、これ以上被害が出る前に、人型殻獣を——『フェイマス』を殲滅できると司令部は考えている」


 『フェイマス』の一掃。世界同時多発バンの収束。それは全世界にとって切願のもの。

 そして『世界』にとって必要なこの作戦は、『世界規模』だからこそ、足並みを揃えるのが難しい。


 正に『無名(アンノウン)』が、必要な作戦。


「激しい戦闘が予想される。『死ぬ覚悟』と『殺す覚悟』を要するものになるだろう。

 集合の日は、万全の準備で来てくれ」


 園口から出た『覚悟』の言葉に、真也は静かに拳を握りしめる。

 初陣から一週間、『葬儀屋』として災害現場に何度も出動したが、どの現場にも人型殻獣はいなかった。

 しかし、今度の作戦では間違いなく『人型殻獣』とやり合うことになる。


 一方、横に座るレイラは、緊張の面持ちで拳を固く握る真也を盗み見て、心の奥底にトゲが刺さるような感覚を覚えた。 


「さて、何か質問は? 答えられる範囲であれば教えよう」


 園口は隊員たちを見回す。最初に手をあげたのは修斗だった。


「行き先は?」

「機密だ」

「やろうなぁ! 分かっとったわ!」


 ラウンジの中に笑い声が溢れる中、おずおずと真也が手をあげる。


「少佐、ひとつ……いいですか?」

「なんだ、間宮」


 全員の視線が集まる中、真也は言葉を繋げる。


「あの……三週間って……その間、日本は大丈夫なんでしょうか?」


 真也は多くの現場に急行し、なんとか災害の拡大を凌いできた。

 他の面々も、数多くの現場で必死に人々を守っている。そんな中、急に三週間もいなくなって大丈夫なのだろうか。


 真也の不安そうな顔に園口は笑いかける。


「心配するな、『葬儀屋(アンダーテイカー)』特務官。君がいなくとも、日本にもまだまだ有能な正規軍人たちが残っているさ。

 それに、今作戦を遂行することが、今後の平和につながるのだ」

「で、ですよね! すいません!」


 真也は失敗した、と顔を赤くして手を引っ込める。

 よくよく考えれば、真也は『俺がいなくても日本は大丈夫なのか』と言ったのと同じだと気づき、顔から火が出るような思いだった。


「お、調子乗ってる? 葬儀屋(アンダーテイカー)さん」

「ごめんって! ていうか伊織、その呼び方やめて!?」

「しゃーないやろー。葬儀屋(アンダーテイカー)さんは、日本のヒーローやからなー。そら不安よ」

「おい修斗、それくらいにしろ。葬儀屋(アンダーテイカー)さんも流石に怒るぞ」

「せ、先輩たちまでっ! そ、その、せめてさん付けやめてくださいっ!」


 みんなに『葬儀屋』、『葬儀屋』と囃し立てられた真也は、レイラたち3人の予想通り顔を真っ赤にした。




 連絡事項が済み、園口はラウンジを後にする。

 各々が帰り支度をする中、光一が静かに口を開いた。


「アラスカ」

「……隊長?」

「おそらく、作戦はアラスカで行われる」

「国外、ですか」

「理由は?」


 修斗から上がった疑問に、光一は眼鏡をかちゃりと持ち上げ、答える。


「アンノウンが……司令部がどこまで把握しているかわからん。故に詳しくは話せぬが、根拠は『九重の情報網』だ」

「なら……まあ、アラスカやろな」


 他でもない『九重家』が得た情報なら、それに相違はないだろう。


「本当に、世界規模の戦い……なんですね」


 真也は拳をまたもや強く握りしめていたことに気付き、ゆっくりと開く。

 じんじんとした血の巡りは、作戦が……戦いが始まることに対しての武者震いのように感じられた。


 レイラはソファから立ち上がりながらボソリと呟く。


「じゃ、長袖を、準備しない、と」

「わ、わたしもコート出しときますぅ!」

「いや、いらないでしょ……レオノワが言った長袖、ってのは寒さ対策じゃない。森歩いててうるしにかぶれたくないだろ?」

「あ、あぁ……なるほどぉ……」

「じゃあ、蚊取り線香とかもいるかな?」

「あー、天幕に欲しいなぁ。刺されるってことは無いけど、寝とる時うるさいのとか勘弁やわ」

「ボクも。確かに必需品じゃん」

「殻獣よりも、蚊に注意するって……せ、先輩たち、剛気っスね……」


 緊張の面持ちのまま頬をひくつかせる透に、光一は笑いかける。


「いや、大切だぞ。肉体的に強化されている我々の支柱は、心だ。睡眠の質は如実に作戦に影響する。

 ……せっかくだ。暫し残って、対策を話し合おう」


 光一の言葉に皆が頷き、そのままラウンジでは『対アラスカ対策講習会』が始まった。


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[気になる点] へへっ、ちょうど切らせてたんだよありがてぇ
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