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黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー   作者: 浅木夢見道
第4章 夏休み編 無名と著名と、夢の国と希望の国
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148 アンノウン、情報共有


 アンノウンの東雲学園部隊『デイブレイク隊』ラウンジに、部隊員全員が集う。


 皆の視線はアンノウン担当官である中佐の園口と、津野崎へと向けられていた。


「皆さん、明日から夏休みなのに集まってもらってすいませんネ」

「いえ。夏季休暇よりも二学期に控えることの方が気になりますから。個人的には夏季休暇前に集合の指示が来て胸を撫で下ろしていますよ。園口中佐、津野崎女史」


 光一の言葉に、真也を含めた何人かが首を縦に振って同調する。

 それを見た津野崎は、笑いながら園口と視線を合わせた。


「ふふふ、九重さん以外にも、気になっている方は多いでしょうネ。

 今回は園口さんから発表がありますので、皆さん傾聴願いますネ、ハイ」


 津野崎の言葉を引き継ぎ、園口は手元の資料を一瞥する。


「とりあえず、各校のメンバーが出揃ったので、その報告だ。

 実働部隊は総勢162名。その他の指令部、通信、兵站、輸送の人員は480名。こちらは学生ではない。私を含め正規軍人も一部いるが、司令部と通信以外はほぼ外部企業に委託となった」


 アンノウンは国疫軍の縛りから抜け出て、各国に対し通達なしの軍事行動を行うというグレーな存在である。

 そのため、人員に関してもなるべく国疫軍の正規軍人を使わぬようにするのは道理だった。


「総司令官は、国疫軍本部のハインリヒ・ホフマン中将」

「ホフマン中将……っスか?」

「私は名前を聞いたことがあります。

 『指揮者(コンダクター)』と呼ばれる、軍略のプロと」


 透の疑問の声に答えたのはルイス。その答えに園口は首を縦に振る。


「レンバッハの言う通りだ。と言っても、諸君らと関わることは少ないだろう。

 諸君ら自身にも必要以上の情報が渡らぬように、作戦はそれぞれに通達される予定だ」


 作戦中すら、全体の情報は降りてこない。

 その事実に修斗は目に見えて眉を歪める。


「ホンマ、どこまでも秘密主義やなぁ。なんかあった時はちゃんと国疫軍がケツもってくれるんやろな?」

「その点は心配するな。決して見捨てぬし、問題が大きくなった際の火消しはするし、責任もこちらで被る。

 それに……もしも露見したとしても、『必要な存在』であるというカバーストーリーの下準備も十分だ」

「マスコミの()(かか)えも終わっとる、と……おっそろし。んで、方法は?」


 降参、と両手を挙げた修斗に、園口は笑みを浮かべる。


「それも秘密だ。秘密ついでに、大隊長や各隊の動きについては結成式で通達予定だ。今は未だ教えられん」

「もう、ウチの部隊員以外は秘密やって言われても驚かんわ」

「安心しろ、そっちはリストがある」


 ばさり、と数枚の書類を抜き出した園口に一同は驚く。

 最初に声を上げたのは隊長の光一。


「よろしければ、見せていただけますか」

「いいぞ。しかし……学校名、部隊名、人名のみのリストだ。

 それぞれの異能詳細については記されていないがそれでもいいか?」

「充分です。お願いします」


 園口から書類を受け取った光一は、ざっと目を通す。


「……やはりいたか」


 納得しながらも困惑気味に目を細める光一に、真也が質問する。


「誰か、知っている人が居たんですか?」

「俺個人の知り合い、というわけではないが……。イギリス、グラスゴーの士官学校部隊『クイーンズナイト』の一員だ。

 アリス・オルコット特練兵長……いや、今は特練准尉だったか」


 光一の口から出た名前に、メンバーはみな驚く。

 そんな様子に、真也は疑問の声を上げた。


「アリス・オルコット……特練准尉? 特別訓練兵って兵長がトップじゃないんですか?」

「異例中の異例だ。間宮には、そうだな……『道化師(クラウン)』といえば通じるか?」

「え、『クラウン』って……たしか、イギリスの……」

「ああ。国疫軍西ヨーロッパ支部、UK方面軍所属。現在唯一の『高校生ハイエンド』だ」


 『道化師(クラウン)』。


 本名アリス・オルコット。エボルブドキネシス:ハイエンドの少女。真也より一つ年上の16歳である。

 エンハンスドよりも肉体的有利が高いと言われるエボルブド、そして同じ異能強度でもマテリアルより強力なキネシス異能者であり、ハイエンドの中でも上位の実力と名高い。

 エボルブド種別が『リス』であり、ファンシーな尻尾と耳からビジュアル的な人気も高い。

 彼女の二つ名をもじって『お前は道化師(クラウン)王冠(クラウン)か』『どちらもさして変わらない』というジョークまで生まれたほどだ。


 そんな有名人の参戦に一同が驚く中、伊織はピスピスと鼻を鳴らす。


「そんなの、間宮や喜多見さんのことがあるから、もはや唯一ではないけどね! ただのハイエンドだよ! ま! どうでもいいけど!」

「そんな言い方するなって。その人も仲間なんだから」


 興奮気味の伊織に、真也は苦笑いを浮かべた。


「……他にも、有名な学生ネームドも多い。アイルランドの『落書き屋(グラフィッカー)』にアメリカの『死の豪雨(スコール)』。スペインの『殻獣使い(テイマー)』もいるな」

「外国の学生ネームドとか、よぉ知っとるな」

「ま、情報を集めるのは得意だからな。それに、知っているのは有名どころだけだ」


 光一の口から次々と名前が出てきて、真也は声を上げる。


「他の国の人も『裁縫師』と『弾丸ウサギ』が居るな、とかって思ってるですかね?」

「いや……レオノワはどうかしんないけど、ボクの名前はそれほど知れ渡ってないでしょ」


 レイラも伊織の言葉に頷く。


「私のも、そんなに……それより、『映画監督(ムービーメイカー)』と『風牙(フーガ)』の方が、有名」


 レイラが挙げた二つ名に、光一と修斗が反応する。

 二人の二つ名こそ、『映画監督(ムービーメイカー)』と『風牙(フーガ)』だった。


「うはは、気恥ずかしいわ」

「……世辞として受け取っておこう。

 それはさておき……このメンバーなら、一国どころか二、三国と同時に渡り合えそうなほどだな」


 光一の言葉に、ルイスは腕を組む。


「過剰戦力……というほどでもないのでしょうね、『あ奴ら』を相手にするのであれば」

「そういう判断なのだろう。ハイエンド3人が一大隊に集っている時点で、普通なら過剰戦力が過ぎる」


 光一はそう締めくくると書類の束をきれいに重ね直し、園口へと差し出した。


「ありがとうございます、園口中佐」

「もういいのか?」

「はい、大体覚えましたので」

「他に見たい者は? 持ち出しは禁止だが」


 園口は書類をひらひらと踊らせるが、他の誰も声を上げなかった。

 他でもない光一が確認したのだ。他の誰もそれ以上の情報が得られるとは思えなかった。


「レイラは確認しなくていいの?」

「なんで?」

「いや、ロシア支部の……」

「いい」


 真也の提案に、レイラは首を振り、そしてそのまま、ゆっくりと言葉をつなげる。


「それに……誰がいようと、私は真也と、同じ部隊」

「そりゃ、そうだけど……」

「なら、あとは、どうでもいい」


 隊長として作戦に臨む際の、様々なことに気を使うレイラとは違った、ぶっきらぼうな言葉に真也は静かに首を傾げる。

 そんな真也の視界の端に小さく肩を跳ね上げた伊織の姿が映ったが、真也はそれに気がつかなかった。


「ふむ、ほかに見たいものはいないのか。では、結成日だが」


 園口の言葉に、全員が注目する。


「こちらは追って説明する。夏休み、楽しんでくるといい」

「結局、謎ばっかりやないかーい!」


 修斗の盛大なツッコミが響き、そしてラウンジはシンと静まり返った。


「ちゃうねんちゃうやん、いまのは笑かそうと思ぉたやつやないねんで」

「言い訳が早いな」

「光一ぃ! だまらっしゃい!」


 盛大にスベった修斗と巻き込まれた園口の顔がじわじわと赤くなる。

 ラウンジに妙な空気が流れる中、透がおずおずと質問する。


「……えっと、解散って事でいいんスか?」

「大丈夫ですよ、ハイ」


 苦笑いを浮かべる津野崎の言葉に、各々が帰り支度を始めた。


「あー、ところで間宮さん、ちょっとよろしいですかネ?」

「え、はい、なんでしょう」

「ちょっとお話がありまして。この後少しお時間いいですかネ?」


 真也は『一緒に帰ろう』と約束していたまひるの方を見て一瞬思案したが、津野崎は先回りするように言葉を続ける。


「ああ、間宮まひるさんも希望されるんでしたら一緒にどうぞ、ハイ」

「じゃ、じゃあ、一緒に残ります」

「では、それ以外の皆さんは早めに退室願いますネ」


 津野崎の、『有無を言わさず』といった言葉に、他のメンバーは釈然としないながらも退室していく。

 特にレイラは、真也の両手を掴むと「なにかあったら、すぐ、呼んで」と真剣な表情で告げ、津野崎をひと睨みしてから退室して行った。


「……いやー、レオノワさんには嫌われましたネ」


 言葉の内容とは裏腹に、全く気にしていなさそうな津野崎に真也は質問する。


「ところで、話って……なんなんでしょうか?」

「……今後の、間宮さんの活動について、です。ハイ」


 初めて会ったときのようなニヤニヤとした笑みを浮かべる津野崎は、大きめの段ボールを持ち出しながらそう告げた。


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