女だけの異世界
そして遂に姉が意識を取り戻した。
「ん・・・う・・・智花・・・?」
自分の名前を呼ばれた妹は、思わず叫んだ。
「お姉ちゃん!」
妹は姉に抱き着く。
姉・加奈美は、自分達姉妹のすぐ近くにいる沙夜香と夕里の存在に気づき、目を丸くした。
「お前の秘術は素晴らしいな、夕里」
「いやあー、それほどでも・・・あるに決まってるわー、だって、私の秘術は世界最高だものー」
「そこは普通、謙遜する所だぞ・・・」
彼女達二人のやり取りをよそに、加奈美は智花に尋ねた。
「智花、この人達は誰?ていうか、ここはどこなの?一体何があったの?」
姉の当然の疑問に対して妹は、わかる範囲で説明した。
姉は頷きながら言った。
「それじゃあ、この人達は・・・」
沙夜香は答えた。
「我々は守護精霊だ。その書物に宿っていた」
夕里が補足する。
「私達の今回の主は、あなた達二人ってことになるわねぇ。よろしく」
「守護精霊・・・主・・・?」
困惑する加奈美を庇うように智花が言った。ついさっき、発見した書物を握りしめながら。
「この本に宿っていた、人間ではない不思議なモノ」
一呼吸置いて、続けた。
「それで合ってます?」
「まあ、そんな所だな」
「理解が早くて助かるわー」
沙夜香が追加した。
「そして、さっきの怪物は幽鬼と言って、人を襲う怪物だ。
私達の仕事は、幽鬼を倒し、主を守ることなんだ。」
そんな説明と会話を続けながら四人は、とりあえず外へ出て、少し歩き、森林を抜けた。
姉妹は、自分たちの身の上に何が起こっているのかを、沙夜香や夕里とのやり取りの中で理解しながら、そこでホッと一息つく。
目の前には商店街が広がっていたのだ。
やっと、悪夢から解放されたという気になった。
そして歩き続けたのだったが、智花と加奈美は奇妙な事実に気づいた。
「ねえ、お姉ちゃん、何だか変じゃない?」
「うん・・・この商店街・・・男の人が一人もいない」
そうなのだ。四人の目の前には大勢の人々がいたのだが、全員女性なのだ。
男が一人もいないというのは、少し不自然ではないだろうか?
困惑している姉妹に向かって、不思議そうに沙夜香が尋ねた。
「オトコ? 何だ、それは?」
姉妹は唖然とする。
続いて夕里が訊いた。
「音子さん、という人を探しているの?」
加奈美は慌てて否定する。
「違いますよ!変な冗談は、やめてください!男性がいないのはおかしい、って言ったんですよ!」
夕里は童女のように首を可愛らしく傾げた。
「ダンセイ・・・って、なあに?」
智花が狼狽する。
「もー!ふざけないでくださいよ!私とお姉ちゃんは、ここにいる大勢の人々は、どうして、みんな私達と同じ女の人ばっかりなのかって訊いているんです!」
その質問に対する答えを返した人物は、沙夜香ではなく、夕里でもなかった。
「それは、あなた達姉妹が迷い込んでしまった所、即ち、この世界が、女だけの異世界だからよ。」
驚いた姉妹は揃って10時の方向に視線を移した。
そこには、一人の女性が佇んでいた。
外見は美しいが、どこか荒んだ雰囲気の、おばさんだった。
彼女は静かな声で告げた。
「この異世界にいる人々は、私達を含めて、全員、女なのよ。男は、一人たりとも存在しないの」
姉妹は絶句した。
今回の挿絵は、主人公姉妹を描いたものです!
姉の名前は、加奈美で、妹の名前は、智花といいます。
原作者の私の画力では、このように拙い絵になってしまいますが
見てやってください。