前編
葉月さんの隆盛 前編
お盆休み間近、世間では帰省ラッシュのニュースが流れ、高校野球の熱い戦いが繰り広げられ、各地では夏祭りが行われて、花火を見上げる男女の間でひと夏のアバンチュールがあったりして、イベント盛り沢山なこの時期・・・・、という訳で、今回の主役は八月の擬人化した存在、葉月さんである。
ドォーン。
突然の轟音と激しい光の明滅に僕は空を見上げた。夜になって暗くなった空に大輪の菊の花が咲いた。今回の舞台は花火大会である。確かに夏のイベントに花火大会は欠かせない。夏祭りの目玉とも言える一大イベントだ。
「本当にきれいね。花火大会は夏の一大イベントのひとつだものね」
葉月さんは夜空に大輪の光の花を咲かせた花火を見て満足そうに言った。そして僕らの方を振り返る。彼女は今、浴衣を着ている。花火に負けないくらい派手な柄の浴衣だが、彼女のように自信に満ち溢れていると似合っていると言うしかない気がする。
「別に花火大会くらい、七月でもするわよ」
そう言ったのは文月さん。前回の主人公、七月の擬人化した女性だ。
「あら、文月さんは海の日があるから、花火に興味はないと思っていましたわ」
余裕のある表情で葉月さんは言った。その顔を偶々、あがった花火が色鮮やかに照らす。自信満々だと、ここまで様になる物なのかと思うほど、彼女は強く美しく思えた。だが、それも当然のことだろう。八月にはとにかくイベントが多い。学生の夏休みは当たり前だが、社会人にとっても長期の盆休み、海や山や故郷や海外など、人の動きも盛んで、今夜の花火大会のような祭りもある。
「ああ、暑苦しい。気温だけでなく、あんたの存在自体が暑苦しいのよ」
そう言ったのは六月の擬人化した存在、水無月さんだ。彼女は六月に休みもイベントもないことを嘆いていた。そんな彼女がイベントだらけの葉月さんを前にすれば、やさぐれるのも当然だろう。
「だって、仕方ないじゃない。持って生まれた魅力というモノはどうしようもないわよ」
そう言って、彼女は大きく手を広げて神の祝福を受けるかのようなポーズを取った。そのとき、偶々上がった花火が彼女の両手に抱え込まれるように見えたのも、彼女の持つ強運だろうか。何から何まで恵まれていると言っていいかもしれない。
ちなみに彼女たちは月の日数で体の大きさも違っている。31日まである彼女はその点でも恵まれていた。
「そんなに満たされているのに、どうして、まだ、休みが必要なの?」と水無月さん。
「あら、何のことかしら?」と葉月さん。
「山の日のことよ!あんな、お盆休みに引っ掛かるようなところに休みが必要?ほとんどお盆休みじゃない?そんなところにわざわざ祝日を作って、こんなの、祝日の無駄遣いよ!そんなところに休みがいるなら、私に頂戴よ!」
水無月さんの訴えも当然のことと思えた。今の日本人で山の日の存在を周知している人はどれだけいるだろうか?ほとんどお盆休みの一部に収まって、祝日の意味を見失ってはいないだろうか?
「でも、六月に山の日と言ってもねぇ」葉月さんは口元を押さえて笑みをかみ殺した。
「別に山の日が欲しいという訳ではないのよ!ただ、五月の連休は五月の初め、そこから七月の海の日まで一体、どのくらい長い期間、休みがないと思っているの?過労死をなくしたいなら、私の月に休みがあってもいいじゃない!」
僕は水無月さんの力説に納得した。確かに五月のゴールデンウィークから7月の海の日まで単に一月だけでなく、二月半くらい祝祭日がないことになる。それは確かに休みの一つは欲しくなると言うモノだ。
「うーん、でも、私が決めていることでないし、6月なんてもう随分前の話でしょ。また来年にでもしてくれる?」
そう言うと、葉月さんは水無月さんに背を向けて夜空を見上げた。最大級の花火が何発も上がり、夜空に鮮やかな大輪の花を咲かせた。花火の光に照らされた彼女の横顔は自信に満ちて美しく思えた。確かに葉月さんは十二の月の中で最も美しく強い存在だったのかもしれない。




