幼馴染みと浮気現場
「真琴さん起きて下さい。学校遅れちゃいますよ。」
「んー…。」
あれから数週間が経った
「…今何時。」
「もう七時半です。私はそろそろ行かなきゃ。朝ご飯とお弁当は用意してありますからね。」
そう言ってキッチンに消えていく彼女の後姿を見ながら「新妻かよ」なんて、独り言を漏らす。
母は未だに見付かっていない。
警察による捜査は今も続いている。
あれからすぐに手続きなどを済ませて彼女はうちで暮らす事になった。
「…いいお嫁さんになれるな。」
「え…?」
手際よく後片付けをしている彼女を見て思わず口をついて出た言葉。
「なんでもない。」
なんだか照れ臭くて頭をぽんぽんと二回軽く叩いて私も身支度を整える。
「なんだか最近ずっとぼーっとしてますな~。」
そんな声と共に頬を突かれる。
「…なにすんだよ。」
その手を振り払い睨み付けた。
「わーまこちゃん怖ーい。」
「まこちゃん言うな。」
「なんかあった?」
「…別に。」
こいつのこういう妙に鋭いところは苦手だ。
なんだか全てを見透かされている様で目を逸らす。
「まあ、話したくないならいいけどさ、なんかあったら言ってよ。力になるからさ。」
「…ありがとな。」
「…。」
「な、なんだよ。」
「まこちゃんがデレた~!」
「薫ーっ!!」
遂に堪えられなくなって思わず叫ぶ。
「望月!相川うるさいぞ!」
「す、すみません!」
案の定怒られて二人して謝る。
「あーあ…追い出されちゃったじゃん。どうすんだよ。私明日もあの人の講義あるんだけど。」
「私もある。」
「…はあ。」
「学食でお茶していこうか。この後も講義あるから帰る訳にもいかないし。」
「仕方ないか。」
学食に入るとちらほら生徒が居る。
「どこ座る?」
「どこでもいいよ。」
「じゃあ窓際~。」
そう言って薫は窓際の空いてる席に座る。
「お前窓際好きだな。」
「そうかなー。」
「ファミレスとかバスとか大体窓際座ってるぞ。」
「暖かいからかな?」
「いや知らんけど。」
なんて話しながら買ってきたコーヒーを飲む。
「真琴はコーヒー好きだねー。」
「別に好きって訳じゃないけど…まあよく飲むかな。」
「それ好きって事じゃないの?」
「そうなのかな。」
「うんうん。」
わざとらしく頷いてみせる薫の手元にはココア。
「薫は甘いもの好きだよな。」
「うん好きだよー。」
「…ふーん。」
反応がいまいち面白くなくて適当に相槌を打つ。
「あ、今適当に流したでしょー!」
「反応がいまいち面白くなくてな。」
「まこちゃんひどーい!」
「だからまこちゃん言うなって。」
頭に来て足を踏み付けた。
「痛い痛い!」
ふと薫の後ろに視線を向けると見慣れた顔が。
「あれって…。」
「どうしたの?真琴。」
「いや、なんでもない。」
「ふーん?ていうか足めっちゃ痛いんだけど!そろそろやめて!」
「ん?ああ、ごめん。忘れてた。」
足を退けて尚も考える。
あれってやっぱり…。
「なあ薫。」
「なに?」
「お前の彼氏って今なにしてんの?」
「え?今日は普通に学校来てると思うけど…たしか午後からだったかな。それがどうしたの?」
「いや…。」
そっか。
薫の彼氏は私達が追い出されて学食でお茶してるの知らないのか。
だからこんな所で無防備に他の女を連れていたのだろう。
最低な奴だ。
それを薫に言えずに居る私も最低なのかも知れない。
「真琴?」
「…そろそろ次の講義はじまるだろ。戻ろう。」
少し早口になってしまった。
「え?う、うん。」
あいつの浮気現場を見るのなんてこれがはじめてではない。
その度に薫に言えない自分が嫌になる。




