コーヒーと中学生
作中の矛盾点に気付き、第一話を修正し再投稿致しました。
それに伴い第二話も少しだけ修正されています。
ご了承下さい。
「実は、あれから帰ってきてないんです。」
「…え?」
目の前の少女の口から放たれたその言葉はあまりにも唐突で、あまりにも現実味がなく思わず間抜けに聞き返していた。
「先日お邪魔した日から行方がわからなくて…。」
「え…えっと…。」
口がうまく回らない。
いや、うまく回らないのは口だけじゃない。
頭がついていかない。
なんだか無性に喉が渇き、コーヒーを一気に飲み干す。
そのコーヒーはいつもより苦く感じられた。
「母は、ずっと時間がないって言ってました。」
「時間がないってどういう…。」
「それは…わかりません。」
そこまで話し終えると彼女は目の前に置かれたコーヒーを一口飲んで、咳き込んだ。
「だ、大丈夫!?」
「に、苦い…。」
「取り敢えず水を!」
急いでコップに水を入れて渡す。
「す、すみません…。」
それを受け取ると申し訳なさそうにしながら飲み干した。
「ブラック飲めないなら言ってくれればよかったのに。」
とは言ってもなにも聞かずにブラックを出した私も悪いのだが。
「すみません。ご迷惑かなと…。」
「そんな事で迷惑だと思う奴なんて居ないと思うけど…。」
「あ…す、すみません…。」
「…。」
面倒な子だな、なんて思いながら「で?」と続きを促す。
「あ、はい。」
彼女は一度咳払いをして話し出した。
「あの日…真琴さんの家を出た後、私だけ先に帰る様に言われたんです。」
「先にって…君達がどこに住んでるかは知らないけど、こんな小さい子を一人で帰すのは流石に危ないんじゃ…。」
私のその言葉に一瞬眉を顰める。
「…私、小さい子じゃありません。」
「え…?」
その言葉は今までのおどおどした態度からは想像出来ない様な鋭いものだった。
「これでも十五歳です!来年高校生です!」
「あ…ご、ごめん。」
それでも子供である事に代わりはないんだけど。
それは言わないでおこう。
「…今それでも子供だって思いました?」
「…。」
その言葉に思わず肩を揺らす。
「やっぱり…。」
そんな私に恨めしそうな目を向けてくる。
鋭いな。
「そりゃ真琴さんからすれば子供かも知れないですけど…。」
大学生ですし、と小声で零した。
「…私だって子供だよ。」
そう言うと思わず苦笑してしまう。
「で、一人で帰ってそれから?」
「…それから母は帰ってきてません。」
「そっか…。」
そのまま沈黙。
重たい重たい沈黙。
そんな沈黙が耐えられなくて飲み干したコーヒーを淹れる為に立ち上がる。
「…で?」
「?」
きょとんとしているのがなんとなくわかる。
「君のお父さんは?」
「父は…。」
そこまで言うと黙り込んでしまう。
地雷踏んだかな。
なんて思いながら淹れ終わったコーヒーと砂糖を持って座り直す。
「はいこれ。」
彼女に砂糖を渡すとそれをコーヒーに入れてぐるぐるとカップを回した。
私はそんな彼女を見ながらスプーンを渡すべきだったと少し後悔。
仕方なくスプーンを取る為にもう一度立ち上がろうとする私に「父は死にました」と言葉を投げかける。
いや、もしかしたら私に投げかけたのではなく、ただの独り言だったのかも知れない。
でもそんな事は今はどうでもいい。
今この子はなんて言った?
「え?」
理解出来ずに私はまた間抜けに聞き返した。
「父は死にました。」
どうやら私の聞き間違いではなかった様だ。




