突然の訪問と可憐な少女
作中の矛盾点に気付き、少し修正して再投稿しました。
「…なあめぐみ。」
「なんですか?真琴さん。」
小首を傾げたのが抱えられた頭越しにわかる。
「そろそろ離してくれないか。」
「嫌です。」
いつもはおどおどしてる癖にこういう時だけ妙に頑固だ。
「真琴さんはもっと甘えてもいいんですよ。」
「…なんで年下のお前に甘えなくちゃいけないんだよ。」
「甘えるのに年なんて関係ありません。」
そう言って頭を撫でられる。
この年になって頭を撫でられるとは…。
なんだか涙が出そうで、それを誤魔化す様に小さな背中を抱き締める。
すると彼女は満足したのか、「よしよし」と尚も頭を撫でてきた。
彼女と出会ったのは半年前。
一人暮らしの私の元へ突然母が尋ねてきて、これまた突然「この子はあなたの妹よ」なんて。
自分勝手にも程がある。
「私はまだあなたを許した訳じゃないんですよ。」
「母親相手に敬語なんてやめてよ。」
「あんたの事なんて母親だと思ってない!他に男作って私と父さんを置いて出て行った癖に!あれから私達がどれだけ苦労したと…!」
そこまで言ってふと我に返る。
妹だと紹介された少女は怯えた様に私を見つめていた。
「…もう帰ってくれないか。私この後学校なんだ。」
「真琴…。」
「出てってよ!」
暫くの沈黙。
「…お願いだから。少し考える時間を頂戴。」
母が行方不明になったと知ったのは、それから数日後の事だった。
インターホンが鳴る。
「またあの人かな。」
なんて考えるだけで憂鬱になる。
それでも重い体をなんとか起こしてインターホンに出る。
「…はい。」
「あ、あのっ!私です。めぐみです!」
ドアの向こうに居たのは母ではなくこの前の少女だった。
「ちょ、ちょっと待ってて。」
完全に不意をつかれて声が少し裏返る。
「お、お待たせ。」
少しして玄関を開ける。
正直私は人と話すのが得意な方ではないので、初対面の人間と話すのには心の準備が必要なのだ。
「取り敢えず入って。」
「はい。お邪魔します。」
取り敢えずリビングに通す。
と言ってもこの家には私が寝室として使っている部屋とこのリビングとの二部屋しかないのだが。
まあ、一人暮らしの大学生ならこれが普通だろう。
「…なにか飲む?って言ってもコーヒーくらいしかないけど…。」
「あ、いえ。お構いなく。」
なんて礼儀正しい子なのだろう。
こんな子が自分の妹だなんてやっぱり信じられない。
「お構いなく」なんて言われて本当に構わない訳にもいかないので、コーヒーを淹れる。
リビングにコーヒーのいい匂いが漂った。
「はい、これ。」
「ありがとうございます。」
これまた礼儀正しく両手でコップを受け取る。
本当に、自分の妹だなんて信じられないなー…。
寝室の有様を思い出しながら改めてそう思った。
「えっと…めぐみちゃん、だっけ。」
「はい。坂口 めぐみです。」
そう言って微笑む少女に思わず見蕩れてしまう。
改めて見てみるとかなりの美少女だ。
母は割と美人な方なので恐らくそれでだろう。
自分で言うのもなんだが、私だって顔だけはそこそこいい方だ。
そこだけは母に感謝している。
「私は…。」
「望月 真琴さん、ですよね。」
「あ、うん。」
名乗ろうとして遮られてしまった。
「母から…涼子さんからある程度聞いています。」
「言い直さなくていいよ。君の母さんでもある訳だし。」
「あ、はい。」
私に気を使ってくれたのだろう。
本当に、いい子だな…。
「それでえっと…あの人は?」
「母は…。」
その小さな口が言葉を紡ぐ。
しかし私はその言葉を直ちに理解する事は出来なかった。
「実は、あれから帰ってきてないんです。」
「…え?」




