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あなたに捧ぐ僕の週末  作者: 十月兎
週末の使い方
5/9

その5

「週末さん」

 どこまでも食い下がろうとする鈴をなんとか振り切って帰宅の途についている途中、春太が会話の口火を切った。

「僕は魔法使いなんかじゃないんだ……でしたっけ?」

「まだなにも言ってないだろ……」

 何を言うかなんて分かってますとも、と誇らしげな週末さん。

「あんなことを言ったけど、放っては置けないだろ」

「確かに万事休す!って感じでしたが……」

 週末さんはその先を言うのをためらう。

「なにか気になることでもあったか?」

「いえ……春太さんが特定個人に肩入れするなんて、珍しいこともあるものだなぁ、と」

「僕は人嫌いかなにかか……」

 しかしまぁ、思い返してみれば『誰か』のためにこの力を使うのは初めてかもしれないなと逡巡する春太。ならばなぜ、とその答えには存外すんなりと思い至った。

「ただほら、鈴とは昨日今日の付き合いってわけでもないんだ」

「それならそれでいいのですがね。昼休みもあのような場所で過ごしていらっしゃいますし、友達がいないのかとてっきり……」

「週末さんが僕をどんなふうに見てたのかよくわかったよ」

 別段春太に友達がいないわけでもない。予定が合えば週末に遊ぶような連中もいることにはいるのだ。ただ、グリモワール=オブ=ウィークエンドの力を手に入れてから春太は何となく人を避けるようになっていた。

 もし仮にこの力のことが露見した時、単に力目当てで寄ってこられるのは気に食わないというのが理由なのだが……。

 あれ?これって充分人嫌いでは?

 そんな結論を振り切るように、春太は露骨に話題の転換を敢行した。

「そんなことはいいんだよ」

「鈴さんのお店の話ですよね」

 う~ん、とうなり、考えてますよオーラを週末さんが発する。

 その声はそのまま週末さんの考えがまとまるまで垂れ流され。

「なんとかなるとは思いますが……今までには例を見ない大規模なものになりますね」

「無理矢理店に人を連れてくる、とかか?」

「仮にお店まで人を瞬間移動させるとして、それとお店でご飯を食べてもらえることとはイコールになりません」

 無理矢理人を連れてくること自体は当然のようにできてしまうのか、と益体もないことが春太の思考をかすめる。

「加えて人を運ぶ以上、この力の使い方には春太さんの体力という限界が大きな枷となります」

「残念だけど体力には自信がないからな」

 グリモワール=オブ=ウィークエンドにできることは週末一日で春太ができることの域を出ないのだ。

 となれば体力の制限ももろに受けてしまう。

「ですので、春太さんには週末を使って駅前で宣伝をしていただきます」

「人を運ぶより幾分楽そうでいいな」

「ええ。ただ宣伝をするだけですので、いかに春太さんの体力と言えどある程度の効果を望めるでしょう」

 春太の住む町には主要な鉄道三本が通る駅が存在する。それに伴って駅前もそこそこに発展しているため、こと週末ともなればそこを利用する人の数は想像に難くない。

「ただ、こちらも確実性がないことに代わりはありません」

 これからしようとすることではあくまで食事の候補としてその人の思考に上げさせることしかできないのだ。それは店の前に人を無理やり連れてくることと同様、確立をあげるだけであるのに変わりはない。しかしその分母の点において、広告を行う方がはるかに多くの数を見込めるのだ。

 春太の最大効率で行えば、ある程度の成果は得られるはずだ。

「流石に人の思考をいじるなんて真似はできないだろうし、それが妥当なところかな」

「勘違いしてもらっては困るのですが、もし春太さんに可能ならば、人の思考をいじることもできますからね?」

「さいですか……」


「しかし先ほども申しましたが、今やろうとしていることは今までの比ではありませんよ」

 週末さんが念を押す。その理由は当然春太のスタンスにある。

「いいんだ。人のためだからな」

「わたしには同じに思えるのですが」

「無償の善意と利己的な行動。確かに根っこの部分は同じでも、その上にある意義が変わってくるんだよ」

「私にはよくわかりません」

「本でも読んでみたらいいんじゃないか?あぁ、ほら、せっかくあんなに価値のありそうな蔵書ばかりの古書堂もあるんだし」

「機会があればそれもいいかもしれませんね」

 寂しそうにそうつぶやく週末さん。そんな様子に春太は何となく週末さんの核心に触れたような気がした。


 かれこれ時間は流れ、あとは寝るだけとなった春太は自分のベッドの上で一冊の本を抱えていた。

 題名を、グリモワール=オブ=ウィークエンド。

「さて、やろうか」

「要求を確認。風峰鈴の店を宣伝する。相違ありませんね?」

 本はその言葉を契機に淡い光を放ち始める。

「そう聞くとずいぶん軽そうな内容なのにな」

 直後、春太の部屋はまばゆい光に包まれた。だがそれも須臾のことであり、部屋はすぐさまいつもの様相を取り戻す。

「あとは神のみぞ知る、と言ったところでしょうか」

「それでもかまわないさ」

 鈴の店で出る料理がおいしいことを春太は知っている。ちゃんとお客さえくれば口コミなんかでおのずと売り上げも伸びていくことだろう。

「鈴なら、大丈夫だよ」

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