表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
if√if  作者: 北口
【IF世界編】Fork Of The One
20/21

俺にだけ。

…ちいっ。

決定打足り得る一撃を与えることができず、灰は小さく舌打ちをした。

全力を出せば…あの雷を全開にすれば、勝負は一瞬。

だが…。


まだ…足りねぇ。


どうして、こいつが“こっち”で俺が“向こう”なんだ。


その理由に…まだ、達することができていない。


投影と投影とがぶつかり合う。

それはつまり…それを構成する想い同士がぶつかり合うということ。

…衝突した瞬間に、何か…水のような形をした“何か”が流れ込んでくる感覚があった。

一撃、一撃がぶつかり合うたびにそれは流れ込み…そしてまた、流れ出しもして…脳裏に見たことの無い光景が映る。


それは…自身が辿ることのなかった記憶。

笑って喜び、抱きついてきてくれた、彼女の姿…。


「っ…ああああああああああ!!!」


想いが溢れ出す。

無限に湧き出る赤黒い雷が身体中を包み込み、その剣を更に加速させるーー。


1度目。アッパーカットのように斬り上げるとも、仁のナイフはそれを防ぐ。

しかし2度目。上に投げ出された右手は、次いで繰り出された剣舞を防げはしなかった。


肉を貫く音。腹を突き刺したその剣はそのまま上へ。

肩の骨を真っ二つにして通り抜け、剣の軌跡を辿るように、彼から血が噴き出す。


「っぐぁ……ぁ……」


自分は存外にしぶといらしい。

魔力を腕に集中し、その光る手で傷を抑え、なんとか血を止めようと足掻く。


「…この世界がどうなろうといい。ここまでしようが灰身滅智を深めないなら…それがお前のエンディングなんだろ」


剣をくるりと一度回し血を飛ばし払うと、牙突の構え。


……。

息を吸い、吐く。

緊張しているわけではない。


…体が悲鳴をあげているのか、手が痛む。

だが、そんなことはどうでもいい。


地面を全力で蹴り飛ばし、体をロケットのように急加速させる。

踏まれた草が空に舞うが、彼の意識にはない。


風が吹き、髪を撫でる。

…何故かそれは、優しかった気がする。

…最期に頬に触れてくれた、彼女の小さな手を思い出した。


放たれた音速の突き。

心臓へ向けて放たれたそれを、仁は刀身を両手で掴み、止める。

しかし力の拮抗はやがて終わり、刃は肉の奥へ入り、心臓まであと数cm…。仁は痛みで力が入らないながらに、それでも生きてみせようと、なんとか必死にもがき続ける。


まさに死の直前…それでも仁は、灰とは化さない。

筋力差は歴然。力がまたも拮抗し、剣が震えていたが…じりじりとそれは押され、仁の心臓へ進んでいく。


…左手の指が悲鳴をあげていたが、知ったことじゃない…っ!決めてやる…!


どくり、どくりと、心の早まった音が届く。そしてそこへついに…。



…紅だ。

紅い、赤い、朱い…血。噴き出したのは、どこから…?

…灰の左手。そこにあった筈の人差し指が宙を舞い、血を出して落ちた。

そしてもう一つ…舞う指の隣に、光る何かが同じく、寄り添うように飛び…灰はそれを、人差し指の無くなった左手で掴んだ。

今がチャンスと剣を押し返され、灰はされるがまま、2、3歩後ずさり…そして、握った左手を開いた。


…掴んだのは、赤い線の走る鉄の塊。それは血を全身に帯びていた。

それは再び円形に戻り、指輪としての形をまた取ることになった。

…どうやらそれが縮まっていき、指を吹き飛ばしたらしい。


記憶が蘇る。


『じぶんを、ころさないで』


彼女の…フィーリアの最後の願い。

彼女の首輪から線が消えたのは、繋がりが消えたからではなかった。

彼女の絶対命令権が使われた…願いを、託されたからだったのだ。

新たに繋がりが結ばれていた…その事実が、彼の心に届く。


「…そうか。…約束、したもんな。…お前の頼みは、なんだって聞いてやるって」


杖を取り出し天使に、今にも死にそうな仁を回復をさせる。


そして仁に背を向け、灰は瞳を閉じた。


ーーいつかの選択。例えば俺が、命令権を使ってフィーリアを家に帰していたら、或いは家から出さないようにしてたら、彼女は殺されることはなかったのか。いいや、家が襲撃に遭う可能性だって0じゃない。

結局…全て、偶然なのだ。

イヤホンしながら自転車に乗ろうが、スピードを最低限にして常に警戒して歩いていようが…死ぬ時は死ぬ。いままでの苦労が全部泡になりもする。


…選択を間違えたかどうかなんて、後になっても分かりはしない。

同じ行動を取ろうと、結果が違う可能性だってある。

…それほどまでに、この世界は理不尽だ。

死ぬべき人間が死なず、生きるべき人が生きれない。


だが…その結果、得ることだってある。


…きっと何処かに、自分よりも幸せな自分がいる。

それでも…そいつは知らないんだろう。

俺だけが…彼女の願いを知っている。

“この俺”に対してだけ、あいつは託したんだ。


…彼の右の口角が上がっていることに気付く者はいない。


「…じゃあな」


「…ああ」


互いに多くは語らない。

落ちた指を拾い、“何処か”へしまう。

天使の残った魔力で、草原についた血を浄化、まるで“自分”がいなかったかのように。そして天使は杖へ戻り、杖もまた“何処か”へ。


灰は振り返り、自分を正面に見据える。


…薄れ行く体。


世界という闇そのものの空間で、俺と彼は、別の道を辿った。

…元にはもう、戻れない。

彼には彼の物語があるのだろう。


灰は歩みを進め…そして立ち止まらず、仁の横を過ぎて行く。


視えない壁があるかのように、2人はもう同じ道を進めはしない。


どちらからともなく同時に…右手と右手の甲をぶつけ合う。

血と血が、骨と骨が、響きあって伝わり合う。


“自分”に別れを告げる。

そうして彼が仁に背を向け歩き出すと…彼の体は風に舞う灰のように消え去った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


…いつか、語り合えたら嬉しい。


俺のとこだとこうだったんだぜ!みたいな…そんな世界があってもいいかもしれない。


…後ろを振り返ることはしない。

真っ直ぐに、自分がこれから選べる道達…そこへ向けて一歩また、進むことにした。


感想もらいました!その為執筆速度加速中…今日中にもう1話上げます。


twitter初めました

@fi_ght

更新通知などしていく予定です。そちらでの感想もお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ