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if√if  作者: 北口
【IF世界編】Fork Of The One
17/21

夢か現実か

「ーー…症ですね」


見たこともないインテリ眼鏡な医師にそう告げられた。

この病気の症状は2段階ある。

普段から頭がフラフラし、ある日気絶…これが第一段階。


「ここでも死にそうになるのですが、何故か100%生きています」


「ですが次に気絶した時、確実に死にます」


そう言われて…拒否権などありはせず…眠りにつかされた。


言われたのは…麻酔で約3年ぐらい眠ってもらい、病気が自然と消えるのを待つ、というものらしい。

仲間たちにも説得され…考える暇もなくそのまま眠りについた。



…そして、目を覚ます。


なぜ、病院…?


近くの机に置いてあったスマホを起動する。

自分無しにすさまじい数が飛び交っていたSNS上の会話。

パッと流し読みをしていると、その中にはフィーリアもいたものだから驚いた。

そのグループでの会話も、ある時期を境に消えてしまっている。

…恐らく、機器が変わったのだろう。

ポケベルから一般的な携帯へ、そこからスマホに変わったように。


そんな時、病室の扉が開いた。


ーー彼女の顔は、なぜか見ることができなかった。

白い光が不自然なまでに入り込んでいて…まるで本能が拒否しているようだった。


彼女の他にも友人たちが来ていて…それは完全に偶然だったらしい。


「今、何年だ…?」


そう尋ねて、お互いに見合わせて…男が口を開いた。


「…お前が眠ってから、20年経った」


……は?


あれから20年か〜、懐かしいね〜…なんて話をしている友人達。

自分の知らない間に、彼らもいろいろあったのだろう。


…20年も経てば、人は確実に変わる。


彼らは…もう全員、俺の知ってる彼らではないのかもしれない。

顔は、やはり“自分”に拒否されて見えなかったが…雰囲気、手のシワ、服装…全て、大人のそれになっていた。


「…灰様」


…どうして、マスターと呼んでくれないんだ。


声は出ない。それはそうだ、ずっと眠っていたんだから。


涙がこぼれた。


「はは、余程嬉しかったんだな」


誰かの声。

違うのに…声は届かない。


「3年だったはずなのに、おまえがずっと目を覚まさないから…」


「さぁ、また忙しくなるなぁ〜お前にはやってもらうことが山程あるんだ」


「とりあえず暫くはリハビリだろ、またそれも1年ぐらいかかりそうだが…20年に比べたらあっという間だろ?」


ははは…と軽くジョークが飛び交い、誰だか知らない皆が笑う。


…ふざ、けないでくれ。


なんで…俺がこんな目にあっている。1番頑張った俺が…どうしてこんな目にあわなくちゃならない。


いやだ。お前らは、違う…。絶対に、俺の知ってる奴らじゃない。

知り合いぶった、能力目当ての詐欺集団だろ?


自分のいない間に世界もだいぶ変わったらしい。紙一枚ぐらいの薄いテレビには見たこともない街の景色が映り、謎の流行語、何が面白いのかわからない芸人に笑いが飛んでいた。


恐る恐る…なんとか腕を持ち上げ、自分の顔に手を触れる。

…しわが、あった。感触も、ぜんぜん…“何かに侵食された”ような…。


…いや、だ。いやだ。いやだ。どうして、こんな…!


叫びそうになったその時…


…瞳が光を受ける。


………部屋の電気ではなく、窓の外からの朝の光。

視界には、いつもの天井。

眠っていたのはいつものベッド。

何が起こったのかわからず固まっていたが…暫くしてようやく頭をフル回転させる。

自分の枕元の携帯を取り、日付を確認。

…あの日から、一日と経っていない。

ホッとして、少し大きめに息を吐く。

どうやら夢だったらしい。


だが…心は冷たいままだ。

腹が…痛い。

あれは…本当にただの夢か?もしかしたら…ifの世界。或いは、未来…?

いやだ…っ!

どうしたら、どうしたら回避できる!

どうして俺があんな目にあっている!

なんで、俺、だけっ…!


一人、布団の中に包まって…流れる涙をそのままに、瞼を閉じて、心の中で叫んでいた。


…どれほどそうしていただろう。やがて…部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。


「おはようございます、もう起きていますか…?」


声は何故か、出なかった。

まるで、何十年も眠っていたかのように…喉が音を出そうとしない。

フィーリアがそっと扉を開けて入ってくる。

そして布団の内に包まって震える彼の側へ。そこでまた一言。


「おはようございます…もう、朝ですよ〜?」


そっと優しい声で起こされれば、いつもの彼ならすぐにベッドから起き上がる。


……その日もまた、それに従う。


布団から顔を出し、掛かっていた布団を上半身から剥ぐ。

重い瞼をなるべく開け、傍に立つフィーリアの顔を見ずに、零すように尋ねる。


「…マスターって、呼んでくれないのか?」


最初に出たのはそんな言葉。

起きてたんですね、というホッとしつつも首を傾げた彼女の様子を、彼はまだ見れない。


「?…マスター。おはようございますっ」


瞳の正面に捉えた彼女の姿は…いつも通りの、変わらない姿だった。

ピンクの長い髪。ロングスカートのメイド服。心配そうに覗き込んできた表情。…全てが、彼女なのだということを思わせる。


「…大丈夫ですか?昨日、灰身滅智を覚醒させたと聞いたのですが…」


「…夢を、見たんだ」


ぽつりぽつりと、夢の内容を話す。弱音も…少し。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「…たかが夢だ。だが…何か、嫌な気がしたんだ」


メンタルはすでに、弱りに弱っていた。

情けなくて…フィーリアを直視することができない。

度胸があるなら、或いはもっと弱っていたなら、腕の中に引き入れたかもしれないが…理性は残っていたらしい。


「…灰身滅智は、本来の限界を超える力です。それの更に先の力まで至ったとして…すぐに戻って来ないと、本当にそうなってしまうかもしれません」


そもそもの、所謂普通(?)の灰身滅智も、デメリットを背負っているのだ。そうなるのは当たり前の事だった。


「…ごめんなさい」


小さい、その一言には…確かに想いがこもっていた。

そして…いてもたってもいられなくなったのか、フィーリアは膝を曲げ、それを床につけようとした。

彼女が次の動作へ進もうとする気配で…何をしようとしているのか仁は察する。


「待て。…やめろ」


布団を剥ぎ、ベッドから跳び起きる。

ベッドから椅子一つ分以上離れた位置、そこに座りかけた彼女の前へ、立て膝で座る。

フィーリアの下がった肩を掴み、それを阻止した。


…彼女に、そんなことをして欲しくない。…当たり前だ。


「今後無茶をしなければいい。それに素に近づいたんだ、結果的に良しとしよう」


掴まれた肩、触れる手に視線を移す。

フィーリアはそして、彼の瞳の黒を直視した。


「マスターは、黒い瞳をしていたんですね」


「あ、ああ…」


まじまじと覗き込まれ、思わず少し後ずさった。

…慣れていないのだから、仕方あるまい。


心は痛みに震えていたが、これ以上そのままでいるわけにはいかない。

気持ちを新たに…頬が赤くなる前に、話を戻す事にした。


「謝るのは大事な事だ。だが…そんなことは、2度としようとするな」


「…はいっ」


懸命に笑顔を見せ、フィーリアは頷いてくれた。

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