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if√if  作者: 北口
【IF世界編】Fork Of The One
15/21

ーーー手を伸ばせ


彼女が目を覚ますのが視えた。


…やめろ、それは絶対に、ifにしてはいけない。


全速力で雨の中を駆ける。

雷を帯びた彼の速度は音にも勝る勢いで、さながらそれは一筋の光。

走りながらに、手にした杖に魔力を捧げる。

次の瞬間…彼の体を、白い謎の、布に似た何かが覆いだし…1度彼の体を締め付けると、彼の姿を消した。


そして其処に、彼の代わりに現れたのは…銀と金の髪を長いツインテールにした少女。その瞳には、規則正しく円を描くように動く、機械仕掛けの動く針…。

彼女の瞳は、時計になっていた。


…彼があの世界で手に入れたのは“変化の杖”。後日その経緯、少女の辿った歴史について語るが、今は省略する。


その杖が持つ力は…少女とバトンタッチする力。

そしてその少女が持つ力は…。


勢いそのままに交代した為、なんとかフィーリアの元へノーブレーキで辿り着く。

そして魔力を集中…瞳の時計の針が加速していき、内に込められた魔力が溢れ出す。

すると少女の背には大きな…長さの違う不恰好な翼が広げられた。

いや、正確には…魔力を翼にも回したことで、姿を顕現させたようだ。


そして頭上には薄ぼんやりとした、光の輪っかが浮かび上がる。

そう、少女は…別の世界では“天使”と呼ばれる種族だった。


「……。」


もう必要は無いらしく杖を横に置き、体から溢れる光をフィーリアへ放ち、包み込ませる。

その魔法は間違いなく、最上位の治療だ。

…然しそれは、モノの傷は治せない。…死んだ者は、蘇らせられない。

彼の体の主導権は現在少女に移っている。

彼は意志だけの体で、祈ることしかできない。


…そして、フィーリアは目を開けた。


ーーー


…だが、その傷が治ることは無い。

その事実が、彼の意識を激しく揺さぶり…体の主導権を強引に奪った。

少女の意識は杖に戻される。


「ます、たぁ…」


「フィーリア!なぁ、もう、大丈夫…なん、だよな…?」


彼女は自分の手をなんとか持ち上げ、感触を確認…そして、ああ…と、何か察したらしい。


…それは、奇跡。既に彼女は死んでいて…それでもまだ、彼に伝えることがあると、口を開いたのだ。


「ぁすたぁ…おねがいが、ぁり…す」

最早声を出すことも辛いらしい。

冴えた頭はもう全てを理解しながらも、必死にもがき続ける。…否定、し続ける。


「ああ!ああ!なんでも言ってくれっ、お前の頼みなら、俺は…っ!」


空に伸びた彼女の冷たい手を両手で包むように取る。

そして縋る思いで、次の言葉を待った。


「ーーーーっーーーーーー。」


フィーリアはそれを言い終えると、1度幸せそうに微笑み…彼の頬へ右腕を移動させ、愛の向くまま頬を撫でた。

そしてやがて力を無くし腕を落とし、瞼を閉じて…もう、動かなくなった。


彼女の首に巻かれた輪、それに伸びていた赤い線が…まるで繋がりが切れたかのように消えた。


「っあ…ふ……ぁ……」


道路の真ん中、雨にうたれながら彼女を抱きしめる。

…奇跡は起きた。

でも…それでも、足りない。


幾千幾万の雨音が占める世界に、1つの水音がポツリと紛れた。


…それからのことは覚えていない。

気がつくと家にいて…彼女をソファに座らせ、それをずっと立ち尽くして見ていた。


…ふと鏡を見ると、彼女が触れてくれた頬には、空気に触れて黒くなった彼女の血が付いていた。


…なんで、雨で血が落ちていないんだ?


そんな疑問が湧いたが…なんにせよ、都合が良かった。


…これは、このままにしておこう。他人にどう思われようと…いや、もう、他人なんてどうでもいい。世界なんて…どうでも。


雷は既に失せていたが…白い髪と赤い目は、もう一生失われることはない。


…来るか。


微かな外からの光のみが部屋を照らす。真っ暗な部屋で立ち尽くし、視線を中央、“世界”と手を重ねあった其処へむける。

…其処には、あるifがあった。


「…フィーリア。…行ってきます」


もう彼女の声は聞こえない。

それでも…彼はそれを言いたかった。

仁は彼女の待つ家を後に、ifへと飛んだ。

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