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if√if  作者: 北口
【現実世界編】First Evolution
14/21

ーーー最初の、運命の分岐点

「お前達…というか俺達か。が通うあの学校は…」

その続きを遮ったのは仁だ。

いや…或いは突如として湧いた黒い穴か。

視えたのは…心臓を何かで貫かれた河野。


考えるよりも速く、タックル紛いに河野を突き飛ばし、その場から離れさせる。勢いは強く、自分も河野も地面に倒れることになったが、責められはしないだろう。

それと同時に、視えた通り、彼が元いた其処に小さなブラックホールが出現する。

そこからナイフを持った手が、河野がいるはずだった其処へ向けてナイフを突き刺した。

予想外の手応えの無さに一瞬止まるも、腕は穴の中へ引っ込み消えた。


12時は既に過ぎている。雲は更にその色を増し、光は造られたモノが全てとなっているような気さえした。


今日日、星の見えない汚い空の下で、血が見えることだけは…視ずとも確信的だった。


橋の中央の彼らの元へ、堂々と車道を歩み寄ってくる1つの白い影。20歳超えたぐらいのその男の手には二振りの少し長いナイフが握られている。


「…助けたか。やはり…お前に理性はあるらしい」


「…お前は」


灰に身を落とした人間と言葉を交わすのは初めてだった。その男に全くもって覚えは無い。

だが…勘が告げていた。

こいつは…やばい。

…そう、灰の人間達が、近寄るのを拒む程には。


ずっと視線を感じてはいた。だがそれでも特定はできず、ただのモブ的な灰と化した物だと思って油断していた。


河野と共にゆっくりと立ち上がる。突然のことに驚いていた裏神達が、その状況をようやく理解していた。


「…この力は、何か…大事な物を失う。お前は気づいているだろうか。…他の大多数の奴が羨ましい。興味を失うということは、全てがどうでもいいということ。つまらないとはなんだ、そうなっているからか?」


語り部のような、しかし狂気を感じる口調の男はつまらなそうにしながらそうポツポツと独り言のように喋っていた。


「俺が失ったのは、楽しむ心だ。楽しかった思い出はある、未知への興味だってまだある。…能力を持っているのに欲張ったからか?こんな…中途半端な代償は」


右手のナイフを人差し指と親指で、遥か上へ飛ばす。

クルクルと回転するその刃はやがて動きを止め、急降下。

刃は下を向き、男の手に刺さるかと思いきや…一瞬手を射線からからそらし、そして持ち手部分を器用にキャッチした。


「…人を…つまり、理性の持った強い奴を打ち負かす気持ちはどうだろうか。楽しませてくれ、ナァ…っ!」


限界まで上がった口角は、愉しさからか、それとも偽物か。

有無を言わさずに高速で突っ込んできた男の二本のナイフをなんとか双剣で受け止める。

男の右足元にブラックホールが出現すると、その中へ男は足を突っ込んだ。

ブラックホールは人の後ろへ。そこから伸びた脚から放たれた、技名ヤクザキックは、仁より少し後ろにいた十柏の体を後方へ大きく吹き飛ばした。


男はブラックホールから足を抜くと後退。

仁もまた、裏神とリーストの元へ。


「なにあれ!反則だよ!」


文句を垂れながらもリーストの放った光の球は、ナイフの腹で簡単に弾かれていた。

決して遅くはないが速くもないそれで決定打を与えるのは、おそらく不可能だ。


…成る程?あれはワープゾーンなわけか。だが例えば、前に投げたナイフが上から降ってくるようにワープさせることはできないと…そう願いたい。


「おい!こいつらは雑魚だ!狙うなら俺にしろ!」


雑魚って…となんとも言えない表情のリーストを他所に、裏神はただ、どうするべきか、無限の思考を巡らせる。


仁が牽制代わりに投げた剣はしかし、灰身滅智状態の男には通じようも無く、簡単に避けられてしまった。


「その雑魚に邪魔される事程つまらないものは無い。死んでくれ」


逆手にナイフを構え直すと、男はブラックホールを手の後ろに出現させ、そこへそれを入れた。


…結論の過程は、自動では発動しなかった。


一番後ろにいた裏神の背後にブラックホールが出現、そこからナイフを持った手が伸びる。

顎下に手をやり思考を巡らせていた裏神が遅れて気付きハッとするが…遅い。


「っ…!?」


間に合う…いや、間に合わないか…!?


踵を返そうとして…耳が何かの音を聞いた。普段聴くことのないであろうその音を敢えて言い表すのなら…空気の摩擦音。


音…そして、気配の正体。

彼は天を見上げた。


ナイフが刺さる直前、橋の上から落ちてきた一人のメイドが、着地と同時にその手首を掴み、それを阻止した。


「あいつの視界に入らない所まで逃げろ!というかもう帰れ!!」


突然のことにキョロキョロと慌てふためくしかない彼女達に構う余裕は無い。

焦点を男に合わせ続ける。

男はブラックホールから手を戻そうとするが、フィーリアに阻止されているらしい。


…仁は河野の話の最中、フィーリアの居場所を検索し、彼女が橋の真上にいることを知っていた。

…どうやって登ったかは知らないが。


「どうして…っ、どうして来たんだ!」


…心配を掛けまいとフィーリアに言わずに出てきたのが失敗だった。

フィーリアが念話をしてくれたなら良かったのだが、彼女は彼の思った以上に行動的だった。


「マスターこそ!夜にはもう出歩かないと言っていたのに!」


再び脳が動き出したリーストが、固まっていた裏神の手を引き走り出す。道中に倒れる十泊を助け起こすと、仁を気にしつつも走り出した。

フィーリアの手を振り払い、男はブラックホールから腕を抜いた。


「…はぁ…おいおい、勘弁してくれよ」


ため息まじりに河野が一歩引く。


「っ…あいつらを頼む」


「ああ。…やれやれ、優しいねぇ」


ジリジリと下がり、一気に逃げ出した河野を男は追いはしなかった。

男はどうやら河野達を脅威だとは感じていないらしい。


「ちぃっ…!フィーリアぁ!」


彼は彼女の予想よりもひどく腹を立てている。

確かに外に出るなと命令はしていない。

だが…それでも。

…彼女には、外に出て欲しくなかった。


フィーリアが並ぶように彼の元へ。

顔色を伺う余裕は、無い。


二人の勘は確信的だった。

一瞬でも気を抜けば…来る。

「…マスター一人では、勝てません」

「解ってるっ!」

そうだ。彼女が来なかったら、裏神がやられていたかもしれない。彼女が来たから、誰もまだ死んでない。…それでも。


それでも…それでも、俺は…っ!


ブラックホールが仁の前に出現する。中から現れた手を躱し、逆に切り落とそうとするも…それよりも数段速く手は引かれる。

間違いなく…速度的には二人よりも速い。強化を使ってやっと互角か、ぐらいだった。


「行きますっ!」


ナイフを投影、強化を足へ。

準備を完了するとフィーリアは男へと駆け出した。


姿勢をぎりぎりまで屈め、1つの線のように。空気抵抗を最低限へ。

…それでもメイド服のままなのは、あるいはそれが戦闘服なのでは無いかと彼は疑っていた。

最初は足元、次いで顔面、心臓、ブラックホールから伸びた手を、彼女は本当にギリギリで避け続ける。

自分はどう動くべきか、仁は考えていたが…そんな時に、


男へフィーリアのナイフが、あと10cmで届くぐらいの距離…彼女の頭部目掛けてブラックホールからのナイフによる突きが放たれた。

反応速度は、強化では補われない。

彼女はナイフを刺すため走り、防ぐ為のそれは用意されていない。


そのナイフを、自身の左手を盾代わりにして防ぐ。

彼女は左手に穴を開けられながらも、男の脇腹へ自身のナイフを突き刺した。

「やめろ!!」

叫び声は届かない。フィーリアは刺したナイフを引き抜き、追撃の雷を放つ。

男は傷を庇う様子も見せず、それをぎりぎりで躱すと、ナイフを彼女の腹部へ。咄嗟に防ごうとナイフの位置をずらしたが、其処へ突きは来ない。

いや…来るはずだったが、男の手は彼女の腹部ではなく、その前に置かれたブラックホールの中へ。そしてその手は彼女の眼前へ迫り……ーーー。


時が巻き戻ったかのような感覚。但し、それは感覚上のものであって、彼の能力は時を巻き戻す力でも、現実を夢にする力でもない。

起きてしまったことを無かったことには…できない。それほど便利ではなかった。


視えた光景に首を振る。

…違う。俺は結末(それ)を望んではいない…!

彼の左手人差し指、そこにある彼女との繋がり…指輪から鎖が伸びる。力一杯にそれを引き、フィーリアに迫るナイフから彼女を遠ざける。

彼女の体は宙へ浮き、スカートをたなびかせながら、吸い込まれるかのように引っ張られた。


突然の全く逆ベクトルの力に一瞬苦痛の表情を浮かべながらも、彼女はナイフを男へ向けて投げ放った。

男はそれを掴もうと右手を出すが、それは突如として左へ直角に曲がり、男の肩へ。


…しかし。


その可笑しい軌道にさえも男は反応し、ナイフを刺さる寸前で掴んだ。刃を掴んで止めた為、指から血が流れていたが、気にした様子は無い。


「げほげほっ…やっぱり、ですか…」


「どういうことだ」


引っ張られた彼女は途中で体勢を立て直し、地に足をつけ着地していた。

彼女の元へ駆け寄りながら尋ねる。


「あの方…恐らく、戦闘の心得があります」


「なに…?」


「…メイド、それは今の世にはいないものだと思ったのだがな。…興味深い。さて…俺は何の職だった?」


尋ねながら男はブラックホールを何処かへつなげ…右手を突っ込むと、ソレを取り出した。

男の左手にあるのは、フィーリアのナイフと、自身のナイフ。そして、右手には…拳銃が握られた。


「じゃあ…死ね?」


出現したブラックホールに放たれた弾丸、それが何処から現れるかなど、解るはずもない。

…彼以外には。

ーーー

100回中100回フィーリア狙い。100回中3回顔面、17回足、42回心臓、他は腕と腹。

祈るような気持ちでフィーリアの前へ自身の身を曝け出し、心臓の位置へ盾を。

弾かれた音が聞こえ、また盾が衝撃で少し揺れた。どうやら防げたらしい。

そのまま続けざまに7発。彼の能力と運は…それらを全て防ぎきった。


「ま、マスター…っ」


「はぁっ…弾は、空だっ!頼む!」


「や、了解(ヤー)!」


集中の連続で息切れをした彼の命で、フィーリアは再び男へ向けて駆け出した。

最早一切の手加減は無い。

投影で出現させたナイフ達を走りながらに投げつける。

そして、それだけではまだ足りないと、男へ高速の火の玉を放った。

銃を床へ落とし、二本のナイフを左右に持つと、飛んできたナイフ達を次々と弾いていた男だったが…火の玉は予想外だったらしい。炎が男の体を包んだ。


でもまだ…油断しません!


体を蝕む炎で武器を落とした男。フィーリアは少し長めのナイフを投影、燃え続ける男の体へ突き刺した。


………。


ナイフからそっと手を離す。男の動きが完全に止まったのを見ると、彼女は主人を振り返り…笑みを見せる。


「やめろ!!!」


未だ燃え続ける男の手元にブラックホールが現れる。そこからモノを取り出し、男はそれの引き金を引いた。


男の動く音に気付いた彼女が振り返るが…もう遅い。



炸裂音が響き渡る。

肉が飛ぶ音が彼の耳に染み付く。

水が地面に落ちる音が届き、自分の中の嫌な予感が確信に変わってしまった。



絶望が、彼の中を無音に変えた。



…体を燃やされようと動き続けられる程、灰身滅智は凄まじい力なのか。

それとも…彼女が、炎を加減したのか。

それは解らない。

男が取り出したのはショットガンだった。

片手のみでそれを使った男は反動でそれを手放し…彼女も胴を打ち抜かれ、吹き飛び、地面に体を叩きつけられた。


…あっけなすぎる。


彼女の命は…決して奪われはしないと、そう信じていた。

そうだろう?だって…優しい、正しい、彼女が死ぬのに…それよりも汚れた奴らが死なないなんておかしいじゃないか。


「…っ…ぁ……あ……ああ…!」


身体中から嫌な汗が噴き出す。心が震え出し、それは体にも響き渡った。


「ああ!ああっ…!あぁ…どうして!ああもう…いやだ!いやだ!くそ!ああっ!もう…おわりだ、ぜんぶ…おわりだ……」


目も当てられず、両手で強引に視界を塞ぎ、膝をつき崩れ落ちる。

彼に僅かに残った黒が灰に侵食され、完全な白と化す。


…まるで“世界”が悲しんでいるかのように雨が降り始めた。


「…ふざ、けるな、よ……!」


絞り出された声。

雨が頬に触れる。

なんで世界が涙を流す。このセカイが、彼女の喪失で泣いていいわけがない。

涙で呼び起こされた、内なる怒りが紅を。紅は、彼自身を飲み込んだ。


…切り裂くような雷が天から落ちる。

…いいや、違う。それは…セカイからではない。


「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


叫びと共に、天へ、セカイへ…赤黒い雷が昇った。

体を灰に染めた彼から溢れた想いが、理不尽なセカイへ向けて放たれたのだ。


瞼を覆った両手を離し、立ち上がる。

彼の体を赤黒い雷が履い、その体からは黒煙のような“圧”が溢れ出ていた。


炎に包まれていた男は虫の息だった。

降雨で炎は消えている。

フィーリアは…動いていない。

瞬間移動、そう言っても間違いでは無い速度で仁は男の元へ。

雷を纏ったその腕で顔面を右フック。手すりが凹む勢いで叩きつけられた男の顔を正面から叩き潰すと、彼は真紅の剣を投影、男の心臓を貫いた。


…投影は、想いを形にする力。その剣は…理不尽への、自分への…怒り、そして殺意。不純物一切無い、それだけで創られた、心の結晶だ。


心臓を刺しただけで…足りると?全然…足りねぇよ…


「お前は、死ぬだけじゃ、足りねぇよ…!!」


死体を殴ることに意味などない。それでも、それをせざるをえない。そうしなければ…誰か、他の人間を殺してしまうかもしれなかった。


再び拳を振りあげようとした彼の腕を、誰かが掴んで止めた。

彼が振り返るとそこには…透けていない身体の“世界”が居た。


ーー透けていて触れ合えないはずの“世界”と今触れ合えているのは、彼が世界から離れた存在になったから。それを彼の覚めた頭は理解していた。


“世界”は必死にしがみつき、ぶんぶんと首を振った。

そして…何処かを指差し『そこへ行け』と、ピョンピョンと飛び跳ねてアピールしていた。

その指の先に紅目を移し…彼は目を見開いた。


ーーー50m程先の交差点の中央、透けた一本の杖が視えた。


彼は倒れたフィーリアを振り返る。


「っ…ぁ……ぁ……」


彼女の掠れた声は、彼女がまだ生きていることを教えてくれた。

しかし出血は凄まじく、もう命が散る寸前だということは、誰の目でも解る程だった。


「っ…!!」


今あるありったけの力で、交差点の中心へ。


彼はその最後の希望へと手を伸ばした。



ーーー手を伸ばせ。


ーーーただ走れ。


異世界編へ移ろうとも思いましたが、後へ回すことにしました。


手を伸ばすか、ただ走るか…。どちらの世界へ進むか、読む順番という形で選んでみても面白いかもしれません。

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