夜の街・橋の上・雨の気配
翌日には完治したが、ターゲットはいつまでたっても学校に来ていなかった。
家の調べはついてる。だが…家に殴り込みというのはどうにも良く無い。教師達にバレるわけにも行かないからだ。
仁がいれば多少報道やら警察は機能しないが、それも何処までの力なのか不明瞭だ。
その為…仕方ないので、夜に行くことなった。
「やって来ました!敵の本拠地!」
「まだ敵と決まったわけでは無いのですが…」
メンバーは、北神、リースト、裏神、十柏。他のメンバーは予定通り置いてきた。
現在地は件の男の家のど真ん前。隠れる必要も無いだろうということでそうなった。
時刻は11時半、夜の戦闘が始まるまであと30分。本来は1時間前のはずだったのだが、リーストが遅刻したためだ。
暗闇の世界は街灯で照らされ、視界は良好。
空からの光は雲に遮られてしまっている。星もそれらに隠されてしまっていて…もしかしたら雨が降るかもしれない。
「武器が要るなら先に渡しておくが…」
「あくまで話し合いだ。隠し持てる物なら良いが…そうだな、銃は作れるか?」
仁は首を振った。作ろうと試みた事はあるが…少しのミスでもあれば弾が発射されない、構造もかなり複雑なそれは、今の彼には作れない。
以前拝借した物には、残弾が3発のみ。それを見せるのは避けたほうが良いだろう。
「なら良い。元々、俺はこれ一本だ」
そう言って十柏は拳を鳴らした。どうやら…本当に空手か何かやっていたらしい。
だが、それが通じるとはとても思えないのだが…それでも彼はついてくると言った。
「っ…!」
気配探知はまだフィーリアに比べると大した事は無いのだが…目の前の扉から男が出てくる3秒前には、来ることが解った。
赤髪の、上に伸びたツンツン頭が特徴的な男…河野 鋼は自身の家の前にいた複数人に一瞬驚いたような顔をして、それからやれやれと溜息をついた。
「おいおい…ったく……」
一歩前に出たかと思うと、男はそのまま溜息交じりにこちらに歩を進め、
「場所を移そうぜ」
4人の前を素通りで、そのままのんびりと歩き出した。
4人はそれぞれ顔を見合う。そして頷きあい、それについていく。
辿り着いたのは、車の通りも既に一切無い、陸と陸を繋ぐ橋の上だった。そのちょうど真ん中、道路の上で、河野は振り返った。
「んで〜?用件は何だよ」
話し合いはメインに裏神が担当することになっている。十柏が指摘する事もあるだろう。
「貴方があの、夢の中の少女に炎を向けていたのを見ました」
男は動じた様子も無く、また否定する事もふ〜ん…とだけ。そしてまた黙った。
「何も、警察に言う等の、貴方に不利益な事をする気はありません。私達はただ…知りたいんです」
知りたい…その言葉で察したらしい。というよりも、予想できていたようだった。
「はぁ…俺はあのクソガキの正体を知ってる。だがそれだけだ。現在地も知らない。…んで、これでいいのかよ」
思ったよりも簡単にそのことを喋った河野に少し驚きながらも、裏神は質問を重ねる。
思ったことを隠せるほど、子供は器用ではないらしい。
「何故、知っていたんですか。そして、あの炎…あの子を、殺そうとしていたんですか」
ぴくりとも動じた様子は無い。
だが…視えた。
質問が口から発せられると同時に、裏神の眼前に鋭い水の弾丸が迫る。
仁は彼女のパーカーの首元をひっつかんで避けさせた。
「っ…げほっ…北神、さん…助かりました」
文句の1つでも飛んでくるかと思ったが、彼女はそう礼を言うと、キッと鋭くした目で真っ直ぐに河野を見据えた。
「へぇ…やるじゃねぇか北神。お前のその髪も、あのクソガキのソレなのか?」
「いいや、俺は自分の意思でこの力を掴んだ。…引っかかった馬鹿と、一緒にするな」
悪びれた様子も無げに、河野は今度は炎を右手に出現させる。
「…どうして、攻撃してきたんですか」
「情報が欲しければ力ずくで奪え。それもできないようなお子ちゃまにホイホイと情報を渡す程、俺も馬鹿じゃあないんでな」
完全にやる気らしい。男の前に仁が立ち塞がり、その横に十柏も。少し離れた位置に、リーストと裏神が移動した。
「さぁて…1分でケリつけてやるぜぇ!」
間違って殺すようなことはないだろうということで、彼は双剣を投影した。
そして特攻。河野が放った幾つもの炎と水をそれで撃ち墜としながら駆け…右手の剣を振り下ろす。
河野はそれをひらりと躱す。それも、涼しい顔で。…万が一刺さったら命が危ないかもしれないのに、だ。
常人では避けられないであろうそれを軽々と避けるこの男は…明らかに“ただの能力者”とは違う位置にいる。
振り下ろた剣の軌道をズラすと…刃が届くのを覚悟で全方位へ向けて、爆発的な炎を放つのが視えた。
攻撃を中断、後方へ跳ぶ。視えた通りの爆発じみた炎が放たれた。
どうやら、ズラそうが否であろうがそうするつもりだったらしい。
裏神達の元まで跳んだ結果、爆発は彼には当たらず…炎が止んだその時、いつの間にやら男の背後に移動していた十柏の、助走の乗った右ストレートが放たれる。
背後を振り返った河野、しかし既に遅く…右頬を殴り飛ばされて大きく飛ばされた。
十柏は殴った右手を確認する。
彼の右手は少し赤くなっていた。
それは全力で殴ったからではなく…河野がとっさに、1cmにも満たないような小さな炎を出現させたから。
背後にいると解るや否やすぐに能力を発動させる…。そんなことができるぐらいには、戦い慣れているらしい。
飛ばされてきた河野を、サッカーボールの要領で蹴り飛ばそうと仁は構えたが…男はうまく受け身をとり、彼の蹴りに合わせて自身も蹴りを放った。それも、炎を纏った足で。
避けるには間に合わず…彼は脚を止め、それを剣で防ぐ。
剣の腹が鋭い蹴りによって殴られ、武器はいとも簡単に壊れてしまった。
勢いの止まった脚はしかしまだ炎を纏っている。
どうしたものかと男2人が悩んでいたその時に…その脚に、一筋の針のような光が突き刺さる。
弾丸の飛んできた方角は裏神とリーストが下がっていた方向。
光は、リーストが持つ黄金の銃から放たれたものだった。
その光が刺さった足から一瞬炎が消える。同時に光も消えるが、刺さった足から血は流れていなかった。
思わぬ方向からの攻撃に驚いている隙を突き、下段から河野の腹めがけ、薙ぎ払うように左脚で蹴りを放つ。
橋の手すりに激突した河野は衝撃で唾を吐き、やがてノロノロと『降参』の両手を挙げた。
「あいつの手掛かりが欲しくて、親のコネやらで“公的なその組織”に入った。“世界”を受け入れ敵対せず、しかし気付かれないように、情報を得る事だけを目標に動く…俺らはその組織を“社会”と呼んでいる」
裏世界はどうやら、あの夢での宣言よりも前から各所で存在を知られていたらしい。
その動きの情報をいち早く獲得するための組織、そこに彼は入っているとのこと。
潔く負けを認めた河野が告げたのは以上のことだった。
「ん〜…いよいよそれっぽくなってきたね〜」
「あの、それって…私達に言ってしまって大丈夫なんですか…?」
「まぁ…勝者は絶対、だからな」
河野は頭を掻きながらゆっくりと立ち上がる。やれやれ…と、表情が言っていた。
「知りたかった…というのは?」
「…個人的なことだ。過去に、あのガキに恨みがある、そんだけだ」
言いたくないらしい、目を逸らした後、『聞くな』と再び目を合わせ、ジッと言葉無く訴えていた。
「あの能力は…他人にトラウマを植え付ける力だ。それで頭が可笑しくなって、髪が白くなるって〜わけだ」
「…そうか。……現在地の手掛かりは、本当に知らないんだな?」
嘘を見抜く力がある癖に、十柏は再度そう尋ねた。
「ああ…。つうか、“世界”が何処にいるか、今現在入ってる情報はない。いままではある程度入ってたんだが…あの日から、何処にも姿が見えてない」
そうか…と十柏は頷いた後また考え込んだ。
合図は無いし、嘘は言っていないのだろうが…今後のことで迷っているのかもしれない。
「組織に入りたいなんてことは言わないだろうが…一応。秘密を守れる…つまり、拷問に耐えられるような奴。加えて戦闘能力か探索能力を持ってる奴なら大歓迎だ」
言いながら彼は右手に炎、左手に水の塊を、それぞれ出現させる。両手を重ねると…あり得ないことに、炎が水の中で揺らめいていた。
…お前は秘密をペラペラしゃべったけどな、というツッコミが喉元まで出掛かったがなんとか飲み込んだ。
「んで…それを知ってお前らはどうする気だ?」
彼のパフォーマンスに喜んでいたのはリーストのみで、裏神と十柏は考えにふけっていた。そして仁は…あることを感じ取り、溜息を漏らしていた。
「俺たちがお前に接触を図ったのは、お前が何か、世界がしようとしていること、居場所、能力などを知っているんじゃないかと思ったからだ。ただ…今後に備えて、世界に対しての情報が欲しかった。それだけだ」
「…愛する者が白くなっていたとかじゃなくてか?」
キョトンとしながらのその河野からの質問に全員が首を振った。
「おいおい、そりゃないぜ…。はぁ、やれやれ…なるほどな。…なら、最後に1つだけ教えておいてやる」
頭を抱えて溜息を漏らす。しかし、所詮そんなもんだよなぁ…とポツリと呟くと、男は忠告をしてきた。
…今思えば、少しは考えておくべきだったのかもしれない。…どうして、他の白髪達がこの場にただの一人も来ていないのか。乱入する気が有ろうが無かろうが、少なくとも、あの爆発じみた炎に気付かないはずはないのに。
前日に風邪を引いた話があったのですが、賞の文字制限に触れてしまうので飛ばしました。後日投稿します。
台詞の前後に改行を入れてみましたが、必要無いでしょうか?
2016/04/14 作品タイトルを変えました。




