犬と飼い主
2月に入ってから、和男とよく電話をするようになった。大樹の事がふっきれて、だんだんミクの中で和男の存在が大きくなってきていた。
自分でも自覚していた。
和男は相変わらず口数が少なくて控えめだったけど、ミクの話を笑って聞いてくれたし優しかったから、ミクは嬉しくて毎日電話をかけた。たわいもない話ばかりだったけど、和男は何時間でも付き合ってくれたし、ミクの聞きたい言葉をいくらでも言ってくれた。
毎日お昼休みになると電話をくれる、ミクは一人でももう寂しくなかった。
家も遠いし、週に1日しかない休みを男友達との趣味に使っている和男とはなかなか会えない…
それでも、優しい和男の存在は、ミクにとって大きくて近い物に思えた。
近くに居ても自分をないがしろにした大樹なんかよりずっとずーっとマシだった。
寂しいからなのか…
他に誰もいないからなのか…
いつしかミクは和男を好きだと思うようになった。
和男にだけは素直に甘えられる、素直に好きだと思える。小さな話題にあいづちをうってくれて、頑張ったら褒めてくれて、泣いていたら慰めてくれる。
和男との関係はミクの疲れた気持ちを少しづつほぐしてくれた。
二人は犬と飼い主みたいに、寂しい時には体を寄せあって一緒に寝た。
…だけど、そんな関係は誰も知らない。誰にも言っちゃいけない。
それが何故なのかミクには正直よくわからなかった。