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雪のなか

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 ましろ色を踏みしめる音が地面に触れた耳に届いた。

 ダメだ、と言おうとしてしかしそれは言葉にならなくて、痛みと同時に咳と血が溢れる。




「死ぬのね、雪貞」


 舞い散る雪のような柔らかで、それでいて冷たい声が降ってくる。




「私を置いて」


 時計に虚ろな目線を合わせた。二十三時五十九分。魔法が解ける。夢のような日々が終わる。




「雪貞と過ごした一年間は幸せだった」


 奇遇だね。俺もそんなことを考えていた。




「そう。だから私はそんな幸せを噛み締めてこれからも生きていく」


 真白が目の前の男を睨んだ。その手には紅蓮に煌めく球体。それを投げつける。

 爆炎と黒煙。しかしその中で泰然と佇む男の姿を見て、真白の顔付きが変わった。




「炎が効かない? ううん、違うかな。魔術が効かないのか。それなら――ッ!」


 真白が跳ぶ。なんとか顔を持ち上げて攻撃を見守る。

 でもダメだ。その男に攻撃を仕掛ければ――案の定、真白の悲鳴が聞こえた。あらゆる物理攻撃を受け付けない硬度と強度を誇る男に攻撃をすればダメージを受けるのはこっちだ。


 それが強ければ強いほど。




 俺の横に飛ばされてきた真白は笑っていた。歪に。不敵に。

 一人の少女としてではなく、世界最強、最高、最悪の魔術師として、相対する敵に喜びを感じているようだった。




「死ねないんだ」


 立ち上がりながら真白は呟く。




「この世界を壊すまでは死ねない。ごめんね、ゆきりん。真白はやっぱりこんな世界が――ゆきりんを奪うこの世界が、大嫌いだよ」


「くだらねぇ妄言だな。最強の冠は最強の盾を持つこのオレのもんだろう?」


「だからこの世界を作り変える。どれだけの人間が犠牲になろうと、どれだけの人間を敵に回そうと」


「オイオイ、無視ですかー?」


「黙れ。モブキャラ風情が。そんなツマラナイ冠なら幾らでもくれてやるわよ。でもね、どれだけ着飾ったところで、中身が伴わなければ滑稽よねぇ」


 哄笑が冬の夜に響く。それはまるで終わりを告げる鐘のようで。




「無様に悶えて死になさい。雑魚キャラ」


 真白が指を鳴らすと同時に、男が苦しみ始める。それも束の間、呆気なく崩れて雪に沈んだ。




「最強の盾だろうが、なんだろうが、持っているのはタダの人間でしょう? 将を射んと欲すればまず馬を射よ、というけれど、それって雑魚の戯言よねぇ。将を射ればいいじゃない」


「ナニをし、たァ――!?」


「ああ、あんた馬鹿なんだ。そうよねぇ。頭が悪そうな顔をしているもの。仕方がないから教えてあ、げ、る。最強の盾とやらの内側を――要するにあんたの臓器を焼いた。単純でしょう? ご愁傷様です。苦しみながら死になさいな」


 真白が屈む。俺は余力を振り絞って髪留めを彼女の華奢な手に載せた。




「クリスマスプレゼント? そっか。ゆきりんはサンタさんなんだ。ありがとう、大切にするね」


 受け取って真白は立ち上がる。




「でもね、真白はゆきりんの魔術が欲しい。その魔術の先にある無が。それはきっと神様の喉元にさえ届き得る最強の矛となるから」


「――ああ、イイよ」


 振り絞った声は老人のように枯れていて、そんな自分に呆れる。

 今になって思う。真白は俺からこの魔術を引き剥がす為に、契約なんて回りくどいことをしたのではないか――と。


 その真意は結局のところ真白にしかわからないのだけれども。




「ありがとう、ゆきりん」


 ヤッパリ真白は泣いてくれなかった。そんなことに一抹の寂しさを覚えつつも、真白が生きてくれることに安堵している。

 愚かな判断。仕事に私情を挟んだ自分の甘さ。現代文明はきっとこれで終焉を迎える。




 とにかくこれで、俺の物語は完結だ。

 何も成さず、何者にも成り得ず、世界最強、最高、最悪の魔術師を止められず、彼女のそばに居続けることさえ叶わずに、死んでいく。




「じゃあ、またね。ゆきりん」



 今生の別れ。

 真白は俺に背を向けて歩いていく。


 肩を震わせているのはもしかしたら――なんて期待は無駄だろうきっとほくそ笑んでいるに違いない。


 欲しかった俺の魔術を手に入れて。計画が全てうまくいって。




 


























 ――これは孤独故に孤高で、孤高故に孤独な、たったひとりの魔術師の物語。




 御門真白は、ひとり分の足跡を残して夜に消えていく。

 ましろ色の世界に、子供みたいな泣き声を響かせながら。


※エブリスタで掲載していたあとがきをそのまま載せています。


 元々リメイク予定だった作品だったのですが、これが二度目のあとがきです。

 久し振りのレビューを頂いたので豚もおだてりゃ木に登るってな感じで、リメイクではなく校閲を行いました。




 もう何年前の作品なのかは忘れてしまいましたが(ネタ的に二年か三年かな?)その頃に比べて文章力がアップしたぜ! 的な感じはまるでなく、より良い作品に昇華させられたワケではないのですけれども。


 それでも短編として、一つの作品として、安直な死の物語ではありますが、それなりの反応を頂けているので下手に弄るよりは、あくまでもちょっとした補完にとどめるべきかなと思った次第であります。



 さて、このフェイクは本来はダウトの前日譚という位置づけでした。でもその本家が現在は放置中……未だに再公開のメッセージを頂いたりもしているのですが、年々衰えていく中二力の所為でなかなか筆が進みません。



 でも彼女の物語を完結させたい、という思いはありますので時間があれば……。

 以下色々とネタバレ


 御門真白はぼくのかんがえたさいきょうのきゃらくたーです。フェイクではヒロイン――しかし別の視点から見れば世界を壊そうとする悪。

 ダウトでは最強、最高、最悪の座から陥落した――しかしそれでも虎視眈々と復権を狙う悪魔のようなお姉さん。


 ダウト零では完全にラスボスで、殆どレギュラーキャラと化している譲原薫と相対します。


 そして魔法少女にまつわるエトセトラでは、不完全な形ではあるが悲願を成し遂げた彼女の末路を描く予定です。




 私のいずれの作品でもキーとなる人物が御門真白であり、彼女の原点を描いたのがこの作品です。


 まだ未完の作品が多々あるので、どうにかして彼女の物語を終わらせられればな、と思います。


 最後までお付き合い頂きありがとうございました。

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