お嬢様は能天気
姉さんの死をきっかけに逃げる旅をしようとしたが最初から僕は旅の洗練をうけた。生きていくためには必要なことだったと言い聞かせながら、僕は渡航券を手にいれた
その夜、奪った金を使って小さな宿で一泊することにした。あの商人はどうなったんだろうと考えた。しかし、行くか考えても彼の生死はわからない。もし生きていても僕は窃盗罪に問われる。死んでいたら傷害致死。
生きていようが死んでいようが関係ない振りをしていくしか僕には選択肢はなかった。
その考えから逃げるように渡航券の項目に目を通していた。それに目を向けることで考えることから逃れようとした。目を通しても、何を書いてあるか意識を集中できなかった。
僕には信じられなかった。僕がこの場所から逃げられるなんて。
今思えば、こういうことをもっと早くしていれば姉が殺されることがなかったんじゃないのか。僕の村が意気地なしの連中だから逃げるなんてパワーを使うことなんてしなくて、ただ服従することが一番いいことだと思えたんじゃないのか。
姉があそこでなんで戦っていたのか?僕はふとそう考えた。逃げることもできたのに、あえて富豪たちに戦いを挑んでいたなんて信じられなかった。ずっと親の苦労も一身に背負ったあの生活を生き抜こうとした姉がなんで殺されなくっちゃいけなかったんだ?
「お姉ちゃん。強いよ。」
僕は涙を少し流して、目をつぶった。部屋の冷たい空気と布団の暖かさから睡魔が僕に襲ってきた。
目がさめると時間は8時だった。宿の窓から外を見るとみんなが活気にあふれて商売をしていた。その姿は生気にあふれていて、彼らの行き方は僕とは正反対だった。現実と真っ向から向き合って生きようとしていた。
僕は太陽の眩しさもあったのか、そこからすぐに目を逸らした。
荷物を確認して、すぐに出れるようにするとどうやら外が騒がしかった。また外を見てみるとそこの地域の富豪が兵隊を連れて来ていた。富豪はただそこの道を通っているだけで皆が恐れおののいた。子供達は親であろう人に取り押さえられて、余計なことをしなようにしていた。
僕はその光景が故郷のところをフラッシュバックした。またあの悲劇が繰り返されるのではないかとおもい、彼らが通り過ぎるのをじっと待った。富豪が立ち去ってくれると、僕は荷物を持ってそさくさと宿を後にした。
街に出るとなんだかみんなが少しだけ怯えていた。またあの富豪がくるのではないのかと。僕だってあんな人たちと関わるのは嫌だし、関わりを持とうとすれば災いが降り注ぐ。そんなの絶対に嫌だ。
僕は商人から朝食になりそうな軽食を買った。すると、商人は僕に対し
「あんた、これから船に乗るのかい?」
僕はびっくりして
「ひゃい!」
としゃくりあげるように言った。
「その様子だと、あんた逃走組だろ?」
「逃走組?」
「ああ、あんた海外に逃げるんだろ。」
僕は返事をしなかった。
「まあ、いい。でもな、外でも村八分はあるで。この国の人間だと知れば仕事にだってつけなかったなんて話は海外商人たちからたくさん聴く。やめろとは言わないが、覚悟をし問い方がええで。」
冷や汗がぽつぽつと額から流れた。一気に体から水分が消えるような感じがした。商人は顔色変えずに続けていった。
「あんたも、運がないの。富豪に任せていれば生きていられたんじゃないのか?」
姉もこんなことを言われた。村の人たちからこんなことを言われて戦った。姉はまぎれもない化け物だ。それ以上に怖い化け物がこの世に存在するっていうのならこの先どうするんだろうか?
店を後にすると時刻は10時を回っていた。そこらで座って飯を食べたら乗る船に直行しようとした。飯はおにぎりで中にはシャケと昆布というあり合わせで作ったような安っぽいものだった。それでも僕にとっては贅沢品だった。
おにぎりを口にほう張っていたら少しづつあの富豪の話が人々の間で話されていた。なんでも、彼の娘は今年から海外へ学習修行に行くのだとか言っていた。正直、その娘が羨ましくって仕方がなかった。タダでいけるのならばこれほどよいものはない。しかも、衣住食も保証されているのであれば文句を言う必要もない。
おにぎりをすべて食べきると、船のある停泊場に向かった。僕はとうとうここから逃げることができる。
停泊場に着くと思った以上に人は少なかった。まばらにいるだけで特に多くの人が海外へ行く様子ではなかった。僕は早く船に慣れたくてすぐに搭乗手続きのため受付をしに行った。
「すみません。もう船には乗れますか?」
「まだ乗れないが、事前の手続きはできます。」
僕はその旅行券を渡し、受付がそれに目を通す。
「今日の12時発、ペルーニ号でよろしいですね。三好さん。」
「あ、はい。」
ぼくはまた冷や汗をかいた。偽名で呼ばれて自分が自分でないような気がした。
「では、しばらくお待ちください。」
そういうと受付は事務作業を介してくれた。僕は緊張を息と一緒に吐き出した。
すると、後ろの方から誰かに小突かれた。
「そちら、どいてもらえます。」
なにやら偽物の気品をまとった変な女が立っていた。僕ははっきりと
「受付をしてもらっているのです。待っててください。」言った。
そういうと女は素直に後ろに少し下がってくれた。なんだかあっけなくいうことを聞いてくれたので拍子抜けした。その女の身なりはなにやらふりふりした服を着させられていて、手には日傘と小さい手で持てるポーチを持っていた。
僕は待っている間、じっと黙っていた。早く来い。早くあの受付が来てあの船に今からでも乗り込みたい。そんな気分だった。
受付が戻ってくると受付から「身分証明書を提示してください」と言われた。ぼくは焦った。そんなもの持っていないし、渡されたのもその資料だけ。
「え、あの。」
言葉がどもってしまう。金がすべて溶かされた。それだけじゃない。身分不詳の罪で問われる。
「あなた、持っていないのですか?」
「いえ、ちょっと。」
まずい。どうごまかそうか。ごまかしがきかない。汗がまた吹き出していく。
後ろをすこしちらりとみるとあの女はどこかこの状況を楽しんでいるように思えた。
「ないのでしたら、搭乗をすることはでませんな。」
「そんな、まってください!ちゃんとここに。」
そういうと、後ろの女が
「そのひとの身分は私が保証します。」といってきた。
ぼくは言葉が出せなかった。そういうと受付の人が女に対して
「あなたがですか?」と少しだけ小馬鹿にしたように言った。
そういうと女は受付の人に詰め寄り
「では、このくらいでどうしょうか。」とポーチから何かを出した。
彼女は金を受付の人に渡そうとしていた。しめて100鋺だった。僕が何ヶ月も働いて得た金でこの人は僕を助けようとしてる?
僕はその手を止めようとしたが、動くことができなかった。
彼女は受付に金を渡すと受付はまた手続きを始めた。女は受付に対して微笑んでいた。その光景は不気味だった。簡単に手に入らない金がこうも簡単に、しかも自分の欲に対して正直に使ってしまう。
手続きが済むと簡略された搭乗券を女に渡した。女はそれを受け取ると僕にその券をくれた。僕はそれになされるがままだった。
女はそのあと自分の倒叙手続きをすそうとした。僕はその場から離れず女を待った。女は自分の分の券を受け取ると、僕の隣を素通りしようとした。
「待てよ!女!」
女の手首を掴むと、彼女は僕の方向を向いた。
「なんなんです?人助けをしたのですよ。」
「確かに助かった。でも、このまま引き下がったぼくがまるで貧しい農民みたいじゃないか!」
「私はそのくらいのお金を持っていた。それに、お金を食べ物に使ってぶくぶく太るより、人助けでお金を使ったほうが有効的だわ。」
「渡された人の気持ちを考えたことはないのか!」
「怒らないでください。でしたら、あなたあの船に乗るのよね。でしたら、あの100鋺は仕事料として受け取ったということでよろしい。」
「なに?」
「私ね、この旅で一人で行けと言われたのです。でも、身の回りの人がいないと生活ができない。だから」
「召使いになれって?」
僕は悔しさから、その提案に飲もうとしていた。でも、もう一方の誇りみたいなものが邪魔をしてきた。
「悔しくないの?悔しいから私に喧嘩をふっかけようとしたのでしょ?」
僕はもう一つの誇りを押し殺した。
「あなたの仕事を貰えばいいのでしょ。だったら使えよ。お嬢様!」
僕は彼女の仕事を受諾した。僕は彼女の無垢が憎く思えた。
お嬢様の召使いになった僕はお嬢様とは違う船底にある部屋があてがわれた。そこには様々な理由であの国から逃げる人たちが詰められていた。そのくせお嬢様は甲板で何不自由なく暮らしていて、あの暮らしに興味を持ち始めた。あのお嬢様は現実がわからないのか?
次回:「受難の人々」
お嬢様なんてだいっきらい!