逃げることなんて!
いきることってこんなものよ。
でも死んじゃ意味なんじゃないの?
僕の姉は突如死んでしまった。理由はわからない。原因は頭を強く打って死んでいた。その周りに大きく転んだりしたりするところではない。整備された田舎道だった。でも、警察は事故と判断した。
事故の後、村の人たちは冷たかった。姉は村八分されていた。ここを収める富豪が昔の風習よろしく穢多非民みたいな扱いをしていた。絶対払えない家賃を要求してきたり、それだけでは生活ができないことを知っていて、借金を押し付け利子を払えど借金は膨れ上がるだけだった。
僕の姉は彼らに反抗していた。家のために家計簿をしっかりつけて彼らが借金の押し付けをしようとしても、追い返していた。しかし、それが原因かどうかわからないのに村の人々は姉が災いの元としていじめていた。
僕の姉は殺された。僕はその考えた途端、怖くなった。
逃げよう。ニゲヨウ。にげろ!
それから僕は必死に鍬を握って逃げるための金を稼いだ。
朝から晩まで働いた。夜は内職をして、あの膨大な家賃と食費を引いた微々たる金を集めていった。集めた金は親に見つからないように茶色の紙袋を何重にも重ねて土の中に隠した。
僕はそうして生きながら、ためた金を持って港に向かった。
港に向かうと、なんだ街中は商人と富豪たちが所狭しと話し合っていた。商人は富豪に媚びへつらい、富豪はどうにかして商人たちが売って得た金をなんとかして金を取ろうとしていた。僕の生きていた村とは感覚は違っても、その中でのやり取りは変わりない。
僕はどうにかして海外に出るための方法を探した。港の特に裏路地では何やらいかがわしい雰囲気の人たちが何かを売買していた。僕はそこに足を踏み入れるのが怖かったが、ためた金を見て姉の死に際を思い浮かべた。そうすると、不思議とそこの世界に入り込めた。
「すみません。その券ってなんですか?」
僕がその商人に話しかけると商人は汚い笑顔をこっちに向けた。
「これか。これは天国へのチケットや。」
「そういう茶化したことを言って。ぼくをばなにしているんだったら、その券は買いません。」
「まてまて。これはロシア行きの券じゃ。」
「悪いが、あの国は好かんてな。あんた以外の商人はいないんか。」
「この手の商人だったら、どうかの。情報量をくれるならいいぞ。」
僕は貯めた金をそっと商人にちらつかせた。
「それじゃ、それじゃ。さあ。」
「情報と引き換えだ。」
「それを証明するものは?」
「きみらの商売に信用も何もないだろ?」
「む~。」
「お前が金が欲しいならまず情報を。」
そういうと商人は渋りながら口を開いた。
「そっちの角に海外への券だけを取り扱っているところがある。」
「信用は?」
「あるさ。あそこの商人はわしと違ってその手の商売が得意なんじゃ。何人かあそこから買った券で海外に逃げたやる入る。」
僕はそのことを言うと彼に金を渡した。たったの1鋺だけったが彼はすごい笑みをこぼして僕に感謝の言葉を言った。僕は彼が僕以上に汚らしく思えた。
その商人が言った通り、僕はその海外渡航の商人に会うことにした。その道中にもさっきの商人と同様、僕に変なものを売りつけてた。僕は彼らをあしらった。彼らの目を見るとどこか目のかが気を失っていた。生気がなかった。体を見てみるとどこかふくよかな身体をしていて、その変な差が不気味だった。
海外渡航の商人の店の前に行くと、少しばかり列ができていた。僕はその列に行儀よく並んだ。その中でもいろいろと変な会話があった。
「どこにいく?」
「どこだって同じさ。ここでも飯がまともに食えないんじゃ仕方がないだろ?逃げるのは。」
「役人の締め付けは厳しくなるって言っている。」
「だからって、餓死をしていいのか?」
「だからにげるんだろ?で、まず中国で」
「中国って日本の役人が。」
「大陸続きでロシアだろうがイギリアンにも逃げられる。」
「イギリアン?なんだ。」
そんな会話を聞くと、僕だけじゃない。逃げるたい人はぼくだけじゃない。でも、彼らと違って僕は一人で行かなければならない。
列が進んで僕の番の前に回ると店の中からさっきの人たちが泣き喚いた声が聞こえた。
「そんな高くていいわけないだろ!」
「そうだ!俺たちの足元を見やがって!そんなの正規の値段じゃないぞ!」
正規もなにも、闇市で買うんだから当たり前だろ。
僕はその声を聞いて中に入った。するとさっきの人が商人に手を上げようとしていた。僕はその手を止めようと彼の手首を掴んだ。
「やめなさい!そんなので取れるほど安いものなのですか!」
「お前だって逃げるために来たんだろ!味方をしてくれたっていいじゃない!」
「僕はここが闇市だと知ってる。だから、殴るのはやめなさい!」
「女みたいな言葉を使うんじゃない!」
「僕がいつ去勢したっていうんですか!」
そういうとその商人はまあまあと喧嘩の仲裁に入った。
「そこらでいいじゃないですか。お客さんがた。あなたたちもこのお客さんはあなたたちのことを思って止めたんだよ。」
「元はと言えば貴様が!」
「やめろっていってるでしょ。」
僕は彼らに手を上げようとした。この聞き分けのない人たちをぶん殴って、黙らせればこの人たちの目をさますだろうと。
そうすると、商人は僕になだめようと僕の正面に来た。
「あなたが手を出せば私はあなたに券を売りません。」
商人は笑いながら、目では僕に対してマークをしていた。僕はその振り下ろそうとした拳を下げた。
「あなたたちももう一度出直してくださいな。また金を貯めて貰えば、いつでもお売りしますから。」
そういうと彼らは悔しさを残しながら店から出た。商人は座っていた椅子に座って僕を椅子の正面の椅子に誘った。僕が座ると商人が口を開いた。
「で、行くところはどうします?」
「できれば、この国と関わりのないところでお願いします。」
「では、船で40日くらいのところではどうでしょう。もちろん、あなたの体がもつかどうかはわかりませんが。」
「どうしてです?」
「普通の客室でいけるわけないだろ。」
僕は沈黙をした。体を壊してそこで働くことができなくなれば生きていけなくなる。でも、ここで生きていても結局は生きながらにして心は死んでしまう。人間らしい生活も出来なければ意味がない。
「あなたの考えはわかりますよ。厳しいことを考えてしまえば動けなくなる。」
「でも、そこで仕事がなければ生きていけません。」
「仕事をすることだけが人生ではないでしょう。」
「仕事をせずに生きていけたのは一部の豪族しかいませんよ。」
「おっしゃる通りだ。あなたのような頭脳明晰、奇知な人は値引きをしたいですな。」
彼が知的なところじゃないと思った。もしかしたら辞書で適当に開いた単語を並んでいるようにも思えた。
「僕の要求は逃げることです。」
「では、悩んでいる暇はないですな。では、この40日航路でよろしいですね。」
「わかりました。で、いくらなんだい?」
「閉めて1000鋺というところです。」
「百円ですか・・・」
確かそこくらいの金はあるはず。
ぼくは財布を見て、金を全て支払った。商人はそれを数える。
「おかしいですね。1鋺だけ足りない。」
「そんなはずはありません。ちゃんと数えてください!」
「私はそこらの商人と違いちゃんと金勘定はできます。」
「でも!」
「1円たりとも負けるつもりはない。」
ぼくはそ言葉を聞いた途端に目の前が真っ白になった。僕は商人に対して拳を上げようとしたが、一瞬さっきの口論した人たちが頭をよぎった。
「ですが、あなたは僕のことを奇知な人だと言ってくれた。だったら、僕に少しだけ時間をください。」
「あなたが奇知というのと時間は天秤にかけて釣り合うものですか。」
「僕を見くびるんじゃない。」
その時目の涙をこらえて、商人に行った。僕は自分の誇りをその時だけ捨てた。
「わかりました。1日だけ待ちましょう。」
そういうと僕は店を出て行った。そして、僕はさっき金をあげた商人に会いに行った。
商人は相変わらず、道行く人に作り笑顔をして商売をしていた。僕は彼に話しかけた。
「すみません。」
「あ?さっきの金をくれた人か。」
「その金を返してくれないか?」
「それは無理だな。そこらのやつから盗んでしまえばいいんじゃないの?」
「その金がなければ僕は逃げることはできない。」
「それで罪を負わないというのか?真面目に働け。」
濁った目から発したその言葉は猛烈な怒りが湧き上がってきた。商人が僕のことを無視して平気で商売をしているのが許せなかった。
僕は彼を瞬時に殴った。
「なにをす」
僕は立て続けにかれの顔を殴った。よろけた商人は床に頭を叩きつけた。
「悪く思うなよ。」
僕は彼の懐にあった金を奪った。僕はそこに罪悪感を感じてはいたが生きたいと生存本能が僕の拳を上げた。
彼の様子はピクリと動かなかった。息をしているのを確認しようとしたが、殺してしまってしまったことをしったら、僕は自分が自分で入れられなくなるような気がした。
僕はその金を自分の懐に忍ばせて急ぎ足でさっきの店に向かった。
急げ。急げ!僕は逃げたいんだ!
僕は周りのことを気にしながら動いた。足を動かしているのが怖くなった。
さっきの店にはまだ列をなしていた。僕は、その列に割り込んでさっきの商人に詰め寄った。
「これが金だ!僕に渡航券を売ってくれ!」
「君は順番を気にしないのか!」
「あなたに金を払うのだから僕が先だ。どうしても欲しいのです!」
「わかりました。わかりました。でもすこし落ち着いてください。すぐに券は用意しますから。」
そういうと商人は店の裏に行った。その間僕はお金をすぐ近くの人を警戒しながら待っていた。
数分すると商人はファイルを持ってきた。
「これが一式の渡航券だ。時間は明日の昼の12時。あなたの名前は三好チャン。東洋人と西欧新のハーフという設定で行きなさい。そうすれば乗れる。」
僕は懐にある金と財布にしまった金を渡し、商人が金の確認をするとその券を渡してくれた。
犯罪まで犯して得たこの渡航券が主人公にとって天国へのチケットじゃないような気がした。この先が生き地獄かどうかなんてこともわからなかった。
船の中では変な嬢さんにも会って、自分のことをおもちゃのように扱ってくる。
それでも主人公は名前を変えてでも生きようと思えた。
次回:「お嬢様は能天気」
僕の逃走は闘争と化した。