9話
何とかスキルによる攻撃なら、ダメージがわかると判明した。
俺は油断せずに敵を正面に見据え、相手の動きを観察する。
次はどんな攻撃をしてくるのか、俺はどう動けば攻撃を躱せるか、頭の中で何通りものパターンをシュミレーションする。
すると敵が、足に力を入れ後ろに蹴りながら、加速しようと準備し始めた。
先程と同じ突進攻撃だと思った俺は、剣を正眼に構えたまま身構えた。
敵が勢い付けてこちらへと走って来る。
俺はそれをギリギリまで引き付けて、マタドーラよろしく寸での所で躱した。
躱した瞬間、後方に流れて行った敵に向かって、《クロスエッジ》を放つ。
十字に剣閃が走り、幾分かのダメージを与える事に成功した。
「それにしても硬すぎだろ。これじゃいつ倒せるかわからないな」
「レンさん大丈夫ですか? 私が援護できればいいんですけど……」
「俺は大丈夫だ。ユイは止めを刺す事に集中してくれ。このレベル差なら一気に経験値が入るぞ!」
俺は最後の攻撃はユイに任せて、一気にレベルをあげる作戦を思いついた。
俺よりもユイを強くして、同じレベルまで引き上げる。
そうすればユイだって戦える様になるし、俺としても助かるからだ。
そんな会話をしながら、次の攻撃に備えていると……ふと運営会社からもらった武器の存在を思い出した。
確か名前は……《ナイツオブナイツ》
もらったはいいが、今の所使う機会がなくて使っていなかった。
それを今なら試せるんじゃないか?
そう思った俺は、ステータスウィンドを開き、自分の武器を《ナイツオブナイツ》に変更した。
右手に持っていたシンプルな剣とは別の、刀身が朱く精緻な装飾が凝られた、とても美しい剣がそこにはあった。
俺はあまりの美しさに、一瞬我を忘れて見惚れてしまった。
戦闘中にもかかわらず、人の目を引き付けずにはいられない程の、神々しさと美しさを兼ね備えている。
俺はこの剣はもしかしたら、《レジェンダリー・ウェポン》に匹敵するぐらい、レアな武器なんじゃないだろうかと思った。
しかしステータスウィンドをよく見ると、《レジェンダリー・ウェポン》とは書いておらず、魔剣の一種である旨が書かれていた。
魔剣だとしても、とんでもないレア物だ。
正直ただのプレイヤーでしかない俺には、勿体ない代物だ。
なんでこんな剣を運営がくれたのかはわからないが、《オンリースキル》同様、俺はとんでもない力を手に入れてしまったのかもしれない……そんな予感を覚えるのだった。
意識を目の前の敵に戻すと、敵がこちらをジッと伺っている。
どうやら向こうも警戒しているみたいだ。
本能的に危険を察知しての事か、俺が持つ魔剣を恐れているようにも見える。
向こうから来ないなら、こちらから攻めるまでだ。
「うおおお!」
俺は咆哮を上げながら、敵に向かって走っていく。
敵は動くそぶりも見せずに、俺の事をジッと見たままだ。
俺は無防備ともいえる敵に対して、先程放った《クロスエッジ》を発動する。
紫色のエフェクトを引きながら、十字を描く軌跡が敵へとヒットした。
敵は雄叫びを上げながら、痛みに顔を歪ませる。
見るとHPバーが残り一割にまで減っていた。
「おいおい……さっきまで半分以上あったHPが、残り一割だと……」
装備を魔剣に変えただけで、こうも変わるだろうか?
この魔剣はどれだけの威力を誇るのだろうか?
俺は自らが手にした大きな力に、少なからず喜びを覚えた。
そしてその慢心が、俺を窮地へと追い込む……。