8話
────2020年 8月16日 水曜日────
今日はユイと《EOW》で落ち合う予定になっている。
学校から帰宅するとさっそくログインした。
ユイはもういつもの広場にいるらしく、俺は急いで広場へと向かった。
今日は第3フィールドに行って、ゲームを進めようと決まっている。
俺はまだ第3フィールドがどんな所なのか、詳しくは知らない。
初めて降り立つ地に胸を躍らせながら、最初の一歩を踏み出した。
第3フィールドは山岳地帯と言われているだけあって、たくさんの大きな山々に囲まれていた。
どこを見ても切り立った岩肌や岩石地帯で、徘徊しているモンスターも、硬そうな見た目をしている。
ためしにモンスターのレベルを見てみると、レベルは24だった。
現在の俺のレベルが22になので、俺よりも強い事を意味している。
ユイに至ってはレベル17だから、かなりのレベル差がある。
正直まだ戦うには早いと思ったのだが、うずうずする身体を止める事ができずに、一度だけ戦ってみる事にした。
「ユイ! あいつの注意を引き付けてくれ!」
「わかりました! ────ハッ!」
ユイは弓を引くと、モンスターへと向けて一直線に放つ。
見事矢は命中したのだが、全くダメージは通らない所か注意を引く事もできなかった。
相手からしたら、羽虫がつついた程度にしか思わなかったのだろう。
「すいません……全然意味なかったですね……」
「しょうがないさ。レベル差がこれだけあれば、つらいのは当たり前だよ。ここは俺が突っ込むから、後ろから援護してくれるか?」
「やってみます! レンさん、頑張ってください!」
ユイは手をグッと握りしめると、応援してますみたいなポーズをとった。
ユイに見送られながら、俺はモンスターへと向かって、慎重に近づく。
もうすぐ剣の間合いに入るという所で、敵がこちらの存在に気付いた。
敵は視界に俺を捉えると、猛然とアタックしてきた。
岩に覆われた体躯に、簡単に殺せそうな鋭く尖ったツノが二本、歯は獲物を噛み砕くためか先端が尖っている。まるでイノシシのような見た目をしているモンスターだった。
こちらへと向かってツノを突き出しつつ、突進を仕掛けてくる。
俺は横にステップを踏んで、敵の突進を躱した。
敵は俺の後ろ五メートル程で急停止すると、再びこちらに向かって突進してくる。
今度は剣で受け止めてみようと身構えてみた。
俺の剣と敵のツノが衝突すると、一旦均衡は保たれていたがすぐに破られてしまった。
敵の筋力の方が強いのか、俺はそのままズルズルと後ろに押し出され、そのまま耐え切れずに一旦離れる。
次はこちらから仕掛けてみる事にした。
剣を振り下ろすと、金属同士がぶつかったような音を立て、俺の剣は弾かれてしまった。
俺の攻撃でも全くダメージは通らず、敵は更に敵対心を高めている。
こちらを真っ直ぐに見据えながら、攻撃の機会を伺っていた。
敵が攻撃のモーションを起こした瞬間……俺は剣を後ろへと引くと、スキルモーションが起動するのを待つ。丁度敵が走り出した瞬間、カウンター気味に《イニシエーション・スパイク》が発動した。
敵へと向かって紫色のエフェクトを引きながら加速していく。
こちらの攻撃が敵へと先に届き、赤いダメージエフェクトが煌めいた。
少しだけHPバーを削るに留めただけだが、どうやらスキルであれば倒せそうだ。
俺は額に浮かぶ汗を拭うと、剣を握る手に力を込めた。