4話
────2020年 8月12日 土曜日────
今日は学校も休みで一日中、《EOW》に潜るつもりだった。
ユイがログインしてるかわからないが、一先ず先にログインしとくか。
俺はいつも通りカプセルに入ると、ゲーム世界へとダイブする。
【スノーヘブン】へと降り立った俺は、まずユイがログインしているか確認する。
するとユイの名前が光っており、ログインしている事を示していた。
俺はユイへと連絡を取る事にした。
────ユイへ────
今どこにいるんだ?
俺は今丁度ログインしたんだけど。
いつもの広場で合流できるか?
レンより
俺はユイへとメッセージを送信する。
するとすぐにユイから了解の返事が返ってきた。
俺はすぐに広場へと向かい歩き出す。
俺が広場に着くと、めずらしくユイの方が先にベンチに座って待っていた。
「早いな。いつからログインしてたんだ?」
「一時間前くらいですかね。ちょっと用事があって早めにログインしてました!」
ユイはそわそわしており、落ち着かない様子だ。
俺は何かあったのかと目線で問いかけると、ユイはえへへっと笑いながら、俺に装備品を見せてきた。
「実は……装備を新調したんです! 見てくださいよ! 今までのレベル上げでお金も貯まってきてたので、全部買い換えました!」
自信満々に見せてきたユイの装備は、確かに初期装備に比べると格段にレベルアップしていた。
俺にはまだ及ばないが、この第2フィールドの雑魚モンスターなら楽に勝てるだろう。
「すごいじゃないか。これで初心者は卒業だなっ!」
「ハイッ! これで少しでもレンさんに近づけましたかねっ!?」
「そうだな。充分戦力になるよ。頼りにしてるぜ」
ユイは更に嬉しそうにハニカムと、見てくださいと言ってその場でクルクル回る。
装備が新しくなって嬉しいんだろうな……俺も最初に買った装備品はすごい大切にしてたっけ……。
俺も自分の事のように嬉しくなり、つられるようにして笑った。
一通りユイのファッションショーが終わると、広場が俄かに騒がしくなった。
「何かあったのか?」
「どうやらこのフィールドのボスモンスターが発見されたらしい! 今からレイドを募集するんだとさっ!」
俺は近くにいたプレイヤーに話を聞くと、きょとんと首を傾げているユイに説明してやった。
「レイドっていうのは、大人数で組むパーティーの事だよ。ボス戦ではこのレイドを組んで攻略するんだ。一パーティー何人かで組んで、それを何個もパーティーとして作るんだ。ボスは大人数で攻略しないと倒せないからな」
「そうなんですか!? 私は知らない事ばかりなので、レンさんが居てくれて本当に助かりますっ!」
「これは常識なんだけどな……まあいい、俺達もちょっと見に行ってみるか?」
「そうですね! 私もちょっと気になります! もしかしたらお姉ちゃんを知ってる人がいるかもしれないし……」
俺達は広場から一旦離れて、レイドの募集をする町の中心地まで戻る事にした。
町の中心地に戻った俺達は、今まで見た事もないくらいの、プレイヤーが集結している事に気付く。
俺がこの《EOW》をプレイした時には、もう第1フィールドのボスは討伐されており、実質レイドの募集をかけているのを見る事自体が初めてだ。
まさかこんなに大人数が集結するとは想像もしていなかったし、俺達はその場の雰囲気にただただ圧倒されるだけだった。
俺達が雰囲気に飲まれていると、中心に一人のプレイヤーがゆっくりと姿を現した。
中肉中背の男で、蒼い髪を長く垂らしているそのプレイヤーこそが、今回の主役なのだろう。
そのプレイヤーが前に出てきたとたん、場は一気に盛り上がりを見せた。
喧噪に包まれる中、そのプレイヤーはよく通る声で話し出した。
「皆集まってくれて感謝する! 俺達【円卓騎士団】がついにこの第2フィールドのボスを発見した!!」
その場は大いに歓声に包まれ、そのプレイヤーは誇らしげに、喧噪が落ち着くのを満足気な顔で待っていた。
一旦静まり返ると、また話始める。
「この第2フィールドの奥深くに存在する、【古代からの訪問者】という遺跡で俺達はボスを発見した。まだボスとは邂逅していないが、厳しい戦いになる事が予測される! だから今回俺達と共に攻略に参加してくれるメンバーをここで募集したいと思う!! この後、近くの広場でメンバー登録をさせてもらうから、参加したいプレイヤーは受付をしに来て欲しい!! それでは解散っ!」
【円卓騎士団】のギルマスらしき人物が解散宣言をすると、プレイヤー同士の話し合いが始まった。
「俺は参加するぜっ! お前はどうする!?」
「ボス戦なんて滅多に参加できないからな。記念に参加するか?」
────などなどさまざまな声が聞こえてきた。
俺とユイも取りあえず、この場を後にして落ち着いて話ができる場所まで移動した。
広場は今は人で溢れ返っているだろうから、近くにあったベンチに腰掛け、今後について話し合う。
「さっきのボス戦の話なんだけど、俺は正直に言うと参加したいと思ってる。こんなチャンス滅多にないし、まずパーティー人数に満たない俺達がボス戦に参加するには、最高のシチュエーションだ。ユイはどう思う?」
「私は……レンさんに着いて行きますよ! 今までもそうしてきたし、レンさんがいなかったら私はあの森で死んでいて、もうこのゲームにログインする事もなかったかもしれないですから」
「そうか……なら俺達はボス戦に参加しよう。ボス戦に参加する人で、誰かユイのお姉さんを知ってる人がいるかもしれない。少し話を聞いてみるのも有りだと思う」
「そうですね! 本当にお姉ちゃんはどこにいるんでしょうか……お母さんとお父さんも心配してるし、早く見つけないと……」
俺達は広場に行って、参加の申し込みをする事にした。
受付では先程演説を行っていたプレイヤーが囲まれており、聞こえてきた話では名前をスタンと言うらしい。
そのスタンさんに話しかけて無事に参加の申し込みを済ませると、俺達は空いた時間をレベル上げに費やす事にした。
ボス戦は明日の正午から開始するらしく、今日は一日ゆっくりしてくれとの事だった。
まあ各々アイテムの補充や、装備品を新調したりと準備に時間がかかる。
それを考えて明日からのアタックとしたのだろう。
俺達は得に準備する事がなかったので、近場のフィールドでレベル上げをした。
雑魚モンスターをひたすら狩り続け、ユイのレベルは1上がって17に成長した。
俺はと言うと、レベルは結局上がらなかったが、お金も貯まってきたので装備を新調する事にした。
一旦町に戻り、俺は防具屋に行くと《ミスリルプレート》と呼ばれる銀色の胸当てを購入した。
今まで装備していた防具に比べると、防御力と回避に補正がかかり、ボス戦もこれで何とかなるだろう。
後はボスのレベルがどれぐらいかにもよる。
もし俺よりレベルが高ければ正直厳しい。
レイドメンバーも見た感じさほど俺とレベルは変わらない気がした。
これで全滅とかになったら笑えるなと一人思案しながら、防具屋を後にした。
俺達は今日の所は一旦レベル上げを止め、ユイのお姉さんを知る人物がレイドパーティーにいないか聞いて回る事にした。
広場にはまだたくさんのプレイヤーがいて、片っ端から声をかけてみる。
「ちょっと聞きたいんだけど、【暁の騎士団】ってギルドを知ってる?」
「当たり前だろ! 超有名ギルドじゃん! それがどうしたんだよ?」
「実はそのギルドのギルマスなんだが、最近どこかで噂を聞いたりしてないか?」
「ああー【百花繚乱】の事か。あの人の話は……そういえば最近全然聞かなくなったな。あの人どころかギルド自体が何やってるかも聞かないな。何かあったのか?」
「いやそれを知りたくて話かけたんだけど……どうやら知らないみたいだな」
「悪いな、俺達も噂を聞かなくなってからあまり気にしてなかったよ。たぶん他の奴等も知らないんじゃないかな?」
「そうか……わかった。ありがとう」
俺は一旦不安気に見守っていたユイの元へと戻ると、何も進展がなかったと報告した。
ユイは悲しそうな顔を一瞬浮かべたが、気にしないでくださいと気丈に振舞っていた。
結局その日は何の情報も得られず、失意のままログアウトする事となった。