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エンド・オブ・ワールド  作者: 高崎司
3/26

3話

このお話までは、書き溜めていたので早めに投稿する事ができました。

次回からは、少し遅くなるかもしれません。

頑張って執筆しますので、引き続き読んで頂けると嬉しいです!

 ────2020年 8月11日 金曜日────


 学校から帰宅した俺は、急いで《EOW》のプレイできる施設に向かっていた。

 今日のつまらない授業も、全てはゲームがプレイできる事を思えば、何とか耐える事ができた。

 一刻も早くログインしたくて、俺は脇目も振らずに走っていた。

 途中何度か人とぶつかりそうになりながらも、ギリギリで避けて急ぐ。

 あの歩道を渡れば、目の前は施設だ。

 信号が切り替わるのももどかしく、信号が青になった瞬間ダッシュした。

 その勢いのまま入店した俺は、急いでカプセルの中に入ると、《EOW》の世界にログインした。


 ダイブ特有の浮遊感が収まると、最近ではもう見慣れた町、第2フィールドの【スノーヘブン】へと降り立った。

 早速ユイがログインしてるか、ステータス画面で確認すると、まだログインしてないみたいだ。

 フレンドリストに登録してある、ユイの名前が灰色で暗くなっており、名前が点灯していないとログインしていない事を示している。

 しょうがないので、しばらく時間を潰していると、ユイからメッセージが送られてきた。


 ────レンさんへ────


 遅れてしまってすいませんっ!

 私も今ログインしました!

 どこに行けばいいですか?


 ユイより



 俺はいつもの広場で待っている事を伝えると、ベンチに腰かけてユイを待つ事にした。

 ん? ちょっと待てよ……この展開は昨日の……。


 すると案の定、ユイがレンさーんと大声で叫びながら駆けてきた。


(やっぱりかっ!!)


 デジャヴを感じた俺は、すぐにユイの元へと向かうと、口を手で塞いだ。


「んーーーーー!」


 ユイがジタバタ暴れるので、仕方なく手を離してやった。

 ぶはっと言いながら荒い息を吐き、俺の事を鋭利な眼差しで見つめてくる。


「いきなり何するんですかっ!? 殺す気ですかっ!?」


「それはこっちの台詞だっ! 昨日もそうだったけど、なんでいちいち名前呼びながら走ってくんだよ! 恥ずかしいだろ!」


「えー!? 分かりやすいようにって、気を遣ったつもりだったのに……」


 くすんと鼻をすすりながら、何か落ち込んでいた。

 これじゃ俺が悪者みたいじゃねーか。

 周りから避難の視線を浴びた俺は、居心地が悪くなったため、少し場所を変える事にした。

 一旦大通りまで戻った俺達は、今日もレベル上げをする事にした。


「実は今日は昨日とは違う場所で、レベリングしようと思う」


「そうなんですかっ!? 私のレベルでも大丈夫なんですか?」


「それは大丈夫だ。俺がちゃんとサポートするし、そこなら俺のレベルも上がり易いと思うし」


「そうですか。なら私はレンさんに付いて行きますっ! それでその場所はどこにあるんです?」


「ああ、昨日行った【異界への森】から西に歩いて行くと、湖があるんだよ。そこが俺達に丁度良さそうな場所だって昨日調べたんだ」


「えっ!? あの後、調べてくれてたんですか!? 何か無理してないですか?」


「別に無理はしてないよ。俺もレベル上げたいし、お互いのためになるんだ。いいじゃないか」


「レンさんがいいなら私はいいですけど……迷惑だったら、ちゃんと言ってくださいね?」


「わかったよ。でも本当気にしないでくれ。俺がやりたいからやってるだけだから」


 俺とユイは【スノーヘブン】を出ると、まずは【異界への森】まで歩いて行く。

 そこから更に西に歩いて行き、目的地の【女神が佇む湖】へとやってきた。

 なぜ女神かというと、湖のど真ん中に誰が建てたかもわからない、立派な女神像が置いてあるからだ。

 それを見た人が、【女神が佇む湖】と名前を付けたと言われている。

 ゲームの中の設定なので、本当の所はわからないが、歴史上ではそういう事になっていた。


「わあーっ! レンさん見てください! あんな所に女神像がありますよ! 綺麗ですね。それにこの湖すごいキレイじゃないですか?」


「そうだな。ここでなら水浴びもできるかもな」


「…………しませんよ? 何を期待しているんですか? レンさんは本当にエッチな人ですね……」


「期待してねーよっ! 例えで言っただけだから! 過剰に反応するなよ」


「本当ですか……?」


 ジト目で俺の事を見つめてくるユイは、完全に疑いの眼差しだった。

 そりゃ少しも期待してないと言えば嘘になるが、俺だって健全な男子高校生なのだ。

 しょうがないってもんである。


「とりあえず、手頃なモンスター見つけて、今日もレベル上げするか」


「話逸らしましたね? まあいいですけど」


 何が気に食わなかったのか、ユイは少し不機嫌そうな顔をしたまま、弓を構えると辺りにモンスターがいないか、探しに出かけた。


「一人じゃ危ないだろ。俺も行くよ」


 俺は急いでユイの後を付いて行くと、ユイは心なしか早歩きでグイグイ進んで行く。

 湖の周辺を探索していると、色んな木の実を発見した。

 二人してこれは食べれるだの、これは色が明らかに毒っぽいだの、くだらない談笑をしながら探索していた。


 ────すると木の向こう側に、1匹のモンスターを発見した。


 顔は人の形をしており、黒い髪を後ろに流して瞳は紅い。

 見た目はやや整っている青年ぐらいの年齢だろうか。

 そこまでは普通なのだが、一際目を引くのが下半身だった。

 お腹の辺りから下は、馬の形をしており、前後に二足ずつ四足歩行の形を取っていた。


(あれっていわゆるケンタウロスだよな……)


 神話や本などでよく目にする、架空の生物だ。

 それが今現実として俺達の前に存在していた。

 こういう所も、このゲームの見所でもある。

 自分がダイブする事で感覚を共有できる、だからこそ目の前に存在するモンスターもよりリアルに感じられるのだ。


 俺がケンタウロスらしき敵に視線を固定すると、敵の情報が表示された。


 レベル:20

 名前:ケンタウロス

 HP:2500


 どうやら【異界への森】よりかは、こちらの方が強いモンスターが出るみたいだ。

 俺と同レベルのモンスターなので、倒すだけなら問題ないだろう。

 ただユイと敵のレベル差が6も開いているのは、ユイにとっては厳しいかもしれない。

 まあ俺がサポートすれば、何とかなるだろう。


「ユイ、目の前の敵が確認できるか? アイツはレベルが20ある。俺と同レベルだ。俺がサポートするから、止めはユイが刺すんだぞ」


「ハイッ! でも何だか倒すのが可哀相になりますね」


「なんで? 別にモンスターに可哀相も何もないだろ?」


「だって……あの人、人間の顔をしてるんですよ? 何か倒しにくくないですか?」


「あのなあ……これはゲームなんだよ。そんな事気にしてたら、何もできなくなるぞ?」


「そうですよね。変な事言ってすいませんでした……」


 俺は不思議な奴だなと思った。

 普通そんな事考えて戦う奴はいないだろう。

 これはゲームであって、敵を倒さないと先に進めないし、ユイのお姉さんを探す事だってできない。

 俺は気を取り直すと、敵に向かって一直線に走った。


 耳がいいのか、敵は俺の足音で存在に気付いたみたいだ。

 まだ敵までの距離はかなりある。

 もう気付かれている以上奇襲はできなくなった。

 仕方ない……このまま突っ込むしかないか。


「うおおおおおお!」


 俺は右手に持った剣を一旦後ろに引く。

 すると紫色のエフェクトが剣を覆った。

 スキル待機状態に移行した後、そのまま剣を前に突き出した。


「【イニシエーション・スパイク】」


 紫色の軌跡を引きながら、俺の体は一直線に敵へと向かって行く。

 俺の体はグングン加速すると、反応の遅れた敵へと衝突した。

 ノックバックした敵は、少しの間仰け反り硬直状態になる。

 しかし敵のHPは、まだ半分以上も残っている。


「今だユイっ! スキルを使え!」


「待ってました! 【スラッシュ・アロー】!」


 ユイの弓が緑色のエフェクトを放つ。

 弓から放たれた矢は、一直線に敵へと突き刺さると、クリティカルヒットした。

 普段の2倍の威力があったはずだが、ユイと敵のレベル差により、大したダメージになっていない。


 俺が敵へと視線を固定すると、残りHPが600と表示される。

 大体俺が一撃入れて、ユイがスキルで攻撃すれば倒せる計算だ。

 俺はもう一度敵に接近すると、敵目掛けて剣を斬り下ろす。

 しかし俺の攻撃は躱されてしまい、逆に敵の持つ槍でカウンターを決められてしまった。

 俺の体が赤いダメージエフェクトを散し、HPが三分の一程減る。


「────チッ!」


「レンさんッ!? 大丈夫ですか!?」


「俺なら大丈夫だ! それより敵に牽制の攻撃とかできるか?」


「牽制ですか!? 分かりました、やってみます!」


 ユイは弓を引くと、敵目掛けて一直線に放つ。

 しかし弓の軌道は直線しかないため、敵は簡単に躱してしまう。


「レンさんッ!? 全然当たらないんですけど!?」


「それでいい! そのまま続けてくれ! 後は俺が何とかする!」


 ユイがひたすら射撃する中、俺は敵の背後から接近する。

 すると俺に気付いた敵は、槍を使って牽制の突きを放ってきた。

 俺はそれをギリギリまで引き付けて躱すと、剣を下段から一気に斬り上げた。

 敵の持つ槍を弾き飛ばし、がら空きの胴体へと突きを入れる。

 赤いダメージエフェクトが弾け、敵のHPが残り僅かとなる。

 そこへ俺の体の横側を、すごいスピードで矢が通って行った。

 矢は敵へと命中し、残りのHPを削り取る。

 何事かを叫びながら、敵は散って行き静寂だけが残る。


 俺は後方を振り返ると、ユイに向かってグッと親指を立てた。


「やったなユイ! 完璧なタイミングだったぞ」


「ありがとうございます! 段々レンさんとうまく連携が取れる様になってきました!」


 嬉しそうな顔で言うと、ユイもグッと親指を立てて返してきた。

 その後はケンタウロスや、半漁人型のモンスターを倒しつつ、順調にレベル上げは続いた。

 レベルアップのファンファーレが鳴ると、ユイのレベルは16になり、俺も一つ上がってレベル21になった。

 大体ここら辺のモンスターを狩りつくしていると、時間は正午になっていた。

 太陽は頂点に達し、燦々と輝いている。

 暑さを感じつつ、丁度モンスターもいなくなったので、昼食を取る事にした。

 水辺に座り、俺が昼食を取れ出そうとすると、ユイがモジモジしながらこちらの顔色を覗ってきていた。


「どうした? ユイは食べないのか? 空腹を感じる事はないだろうけど、空腹状態が続くと体が動かなくなるぞ?」


「いえ食べるは食べるんですけど……」


 ユイは歯切れ悪く言うと、未だにモジモジを続けていた。


「何か言いたい事があるなら、言ってくれよ。気になるじゃん」


「……実は……今日は昼食を作ってきたんですっ!!」


「へえー偉いな。ユイは料理スキル習得してるのか?」


「はい! 実は最初に習得していたんですけど、今までは作る機会がなくて……じゃなくてっ! レンさんの分も作ってきたんですよっ!」


「……えっ?」


 俺は突然の事にラグったんじゃないかってくらい、固まってしまった。

 ユイは顔を赤らめながらも、ステータスウィンドを開くと、アイテムを具現化した。

 目の前に色とりどりの料理が並ぶ。

 見た目も華やかなサンドウィッチに、別の箱にはからあげだのタコさんウィンナーなど、ポイントを押さえた料理が続々と出てきた。

 俺はごくりと喉を鳴らすと、物凄い食欲が湧き上がるのを感じた。


「これ……すごいな……。俺も食べていいのか?」


「はいっ! よかったら食べてみてくださいっ! おいしいかわからないですけど、感想も聞かせてくださいねっ!」


「俺今日の昼は、露店で買った味気ないパンを食べるつもりだったから、まさかこんな上手そうな料理が食えるなんて……」


 俺は感動しつつ、早速料理に手を伸ばす。

 まずは卵焼きから食べる事にした。

 卵焼きは口に入れた瞬間、ほのかな甘みが口いっぱいに広がり、非常に上品な味がした。


「うん、うまいよ!」


「本当ですかっ!? もっと食べてみてください!」


 ユイが喜んで進めるままに料理を食べ尽くした。

 サンドウィッチも絶妙な味加減だし、からあげもおいしい。

 タコさんウィンナーもうまかった。

 気が付けば料理のほとんどを一人で食べてしまった。


「ごめん! 夢中になってて食べ過ぎちゃったな。ユイは食べないのか?」


「私はレンさんが、おいしそうに食べるのを見てるだけで満足ですっ! もっと食べていいですよ! よかったらあーんしましょうか?」


(なんだとっ!? 正直やってもらいたいけど、恥ずかしすぎるぞ)


「それは遠慮しておく。ユイも食べろよ。自分で作ったんだから、もったいないぞ。俺があーんしてやろうか?」


「────ッ!?!? からかわないでくださいッ! もうッ!」


 頬を赤く染めてそっぽを向くと、ユイはちょっと顔洗ってきますと言って、離れて行った。


(ちょっとからかいすぎたかな……後で謝っとくか)


 ユイが離れている間、俺はせっかくなので心行くまま料理を堪能した。

 しばらく経って、ユイが戻ってくるのが遅いと感じた俺は、もしまたモンスターに襲われでもしていたら大変だと思い、ユイを探しに行く事にした。

 俺が腰を上げかけた瞬間、ユイの悲鳴が静かな湖に木霊した。


 ────チッ! やっぱり、モンスターとエンカウントしたかッ!


 俺は声のした方向へと急いで走って行った。

 ユイが向かった森の方向へと進んで行くと、行く手に数人のプレイヤーがいるのが視えた。


(最悪だな……)


 俺は心の中で毒づくと、ユイが囚われている現実から目を背けたくなった。


「レンさん! すいません……捕まっちゃいました……」


「見りゃわかるよ……。何でこんな状況になったんだ?」


「顔を洗うために、綺麗な水辺を探していたんですが、その時いきなり現れたこの人達に捕まっちゃいました……」


 はあっと溜息を吐きたい気持ちをグッと我慢して、現状の把握に努める事にした。

 ユイは泣きそうになりながら、腕を上に掴まれて拘束されていた。

 人数は四人、金髪隻眼の男、白髪をオールバックにした男、やや長めの青髪の男、そして赤髪の男である。

 プレイヤー同士だと、相手のステータス表示はされないので、レベルがどれくらいかは判断する事ができない。

 見た感じたぶん俺と同レベルか、少し上だと思われる。

 正直状況は最悪としか言いようがなかった。

 たぶんこいつらはPKを生業とする、PK集団だ。

 ゲームの中だからこそかはわからないが、PKを積極的に楽しみ、PKこそを生きがいとしている狂ったプレイヤー達がいるのも事実だった。

 そういう奴等は、他のプレイヤーからも忌み嫌われ、普段だったらこんな人目に付く場所に姿を現す事はめったにない。

 たまたま今回は不運なことに、ユイが遭遇してしまったんだろう。

 そしてあの容姿だ、狙われたとしても何ら不思議ではなかった。

 状況の把握が済むと、ダメ元で俺はPK集団らしきプレイヤー達に話しかける。


「あんたらは何の目的でここにいた? 俺達は別に他言したりしないぜ?」


「俺達はたまたまアンタ等を見つけたんだよ。あんな場所でイチャつきやがってよッ! そりゃムカついて殺したくなってもしょうがねーよな?」


 ヒャッハッハと馬鹿みたいな笑い声をあげて、金髪隻眼のプレイヤーが喋った。

 同調する様に他のプレイヤー達も下卑た笑い声をあげる。

 どうやら金髪隻眼のプレイヤーがリーダーみたいだ。


(こういう時は、リーダーを説得するのが手っ取り早いな)


「アンタ達と揉めるつもりはない。悪いけど、その子を解放してくれないか?」


「はあ? てめえ人の話聞いてたか? 俺達はムカついたから殺すって言ったんだよッ!! ナメてんのか!?」


「俺はこんな所で殺り合って、他の奴等に見られたらマズイんじゃないのかって言ってるんだけど?」


「そんなの関係ねーよ。俺達は【死神グリムリーパー】だぜ? 名前くらい聞いた事あんだろ?」


 ────【死神の鎌】 通称グリムリーパーと呼ばれるPK集団だ。


 最近よく町で噂を耳にする事があった。

 噂によると、手口が卑怯そのもので、人質を取るのは当たり前。

 目的のためなら手段を選ばない最悪な連中だと言われていた。

 女子プレイヤーをさらっては、己の快楽のままに殺人を楽しむ最悪な集団だ。


「最近よく耳にする名前だな。そんな有名な【死神グリムリーパー】さんが、こんな初心者ニュービー狩ってもしょうがないだろ?」


「馬鹿言ってんなよ。そんなの関係ねーんだよ! こんな上玉滅多にお目にかかれないぜ? なあお前等?」


 後ろで控えている仲間達に聞くと、舌なめずりしながらユイの事を見ていた。

 その怖気がはしる光景を目の当たりにして、俺の足は自然と大地を力強く踏みしめていた。


「おっとお前は動くんじゃねーぞ? この女がどうなってもいいのかよ?」


「────ッ!!」


 ユイの首元に短剣が押し当てられる……少し切れてしまったのか、首元から鎖骨にかけて血が滴り落ちていった……。

 ユイは声にならない悲鳴を押し殺すと、何とか我慢しようと口を咬んで耐えていた。


「もしユイに少しでも傷付けてみろ、今すぐお前の首を刎ね飛ばすからなッ!」


「おーこわっ! てめえは騎士ナイトのつもりかよ? 心配しなくてもお前を殺した後、彼女もすぐに殺してやるからよ!」


 ヒャッハッハと哄笑すると、仲間の一人に命令する。


「おい! アイツを殺せ」


「了解っす! 俺にも後で楽しませてくださいよ?」


「わかってるよ。俺がたっぷり楽しんだ後でな」


「よっしゃ! さーてさっくり殺しますか!」


 青髪の男が俺へと向かって歩いて来る。

 腰から剣を抜くと、切っ先をユラユラさせながら、まるで俺に見せつけるようにして歩いて来る。

 俺はユイが人質に捕られているので、何もできずに男が近づいて来るのを見守る事しかできなかった。

 俺の目の前で、青髪の男が口角を吊り上げながら、手にしている剣を一気に振り下ろす。

 無防備な胸へと剣が一直線に走ると、赤いエフェクトが煌めいた。

 俺のHPバーがみるみる減少していき、残りのHPが半分程まで減った。

 どうやら相手もそこそこ強いらしい。

 たぶん格下だったらこんなにダメージは受けないはずだ。

 青髪の男は、今度は胸に剣を突きこんできた。


「────グッ!!!」


 思わず声を出してしまった俺がおかしいのか、突き入れた剣をグリグリ回すと、肉が抉られる何とも言えない不快感が俺を襲った。

 痛みに耐え我慢している俺の眼には、どんどん減っていくHPバーが視える。

 もう残りHPは三割程度しか残っていなかった……。

 だんだん意識が朦朧としてきた俺の耳に、ユイが泣いている声が聞こえてくる。

 それでも俺は薄れ行く意識の中、反撃できずにいた……。


「私はどうなってもいいですから、レンさんを解放してくださいっ! このままじゃ……レンさんが死んじゃいます!」


「アンタの彼女は健気だねー。早く殺して絶望に歪む顔が見たいもんだな」


 ユイの悲痛な叫びを聞いた青髪の男は、剣を更に深々と突き刺してくる。

 どんどんHPが減って行き、アラーム音がうるさいくらいに鳴り響く。


(こんなゲスに殺されて俺は死ぬのか……ユイ一人守る事さえできずに……)


「そんな簡単に死ねねーよな……」


「あ? 何か言ったか?」


「お前を今から殺すって言ったんだよゲスが!」


 俺は胸に突き刺さっている剣を掴むと、一気に引き抜いた。

 反撃してくるとは思っていなかったのか、以外とすんなり抜けた剣を見つめながら、青髪の男は驚愕に目を見開いていた。

 俺は自分の剣を抜くと、棒立ちのままの青髪へと剣を振りぬく。

 無防備な青髪はノックバックを起こすと、しばしの硬直時間にとらわれた。

 その隙に【クロスエッジ】を叩きこむと、青髪の男のHPバーは一気に0になり、呆けた顔をしたままその姿を散らしていった。


「てめえ何反撃してんだよ! この女がどうなってもいいのか!?」


「関係ないね。今からお前等を倒せば済む話だからな」


「この人数相手に一人で勝てると思ってんのか? おめでたい奴だな! お前等アイツを今すぐ殺して、世の中の厳しさを教えてやれ!」


 金髪隻眼が命令すると、赤髪の男がこちらへと突貫してきた。

 白髪の男はユイを拘束しているため動けないらしい。


(それじゃ戦力分散してんじゃねーか)


 赤髪の男は短剣を握り締め、俺へと突きを放ってきた。

 俺はそれを紙一重で躱すと、赤髪の男の横をそのまま素通りし、リーダーへと突貫した。

 大地を踏みしめて飛び出した俺は、いつもより加速している自分の体を不思議に思った。


(てか、普段の倍ぐらい速くないか?)


 俺は不思議と体に力が入るのを感じた。

 一瞬で肉薄した俺は、首元を狙って鋭い横薙ぎの一閃を放つ。

 すると金髪隻眼の男は、何とか体を仰け反らせる事によって俺の剣を躱した。


「おいおい! なんだそりゃ! てめえ何でそんな速いんだ!?」


「俺にも分からないけど、この力を使わない手はないな」


 躱された剣を一旦戻し、そのまま敵の背後へと一瞬で回り込む。

 俺の動きに付いてこれない敵へと、背後から剣を振り下ろした。

 赤いダメージエフェクトが散ると、敵のHPバーが半分程まで減った。

 敵は肩で息をつくと、毒づく。


「ふざけんなよおいッ!! 何で俺が追いつめられてんだよッ! てめえは何者だ!?」


「ただの一般プレイヤーだけど?」


「なめんなよッ! 死ねやああああ!!」


 虚勢を張った敵は、俺へと鋭い一閃を放つ。

 しかしそれすら今の俺には、スローモーションの様に視えていた。

 難なく敵の凶刃を躱した俺は、剣を腰の横に構えスキル発動状態に移行する。

 剣が紫色のエフェクトに包まれると、一気に解き放った。


「くらえ! 【カウントレス・パージナル】!!」


 剣が紫色の軌跡を残しながら、敵をどんどん切り刻んでいく。

 最後は剣を左下から一気に振り上げ、敵を後方まで吹き飛ばす。

 五メートル程吹き飛んだ敵は、HPを0にすると消滅した。

 最後に自分の名前と捨て台詞を残して……。


(ジェイソンか……できれば二度と会いたくない相手だな……)


 残った赤髪の男と、白髪の男はリーダーが倒されたショックで戦意喪失していた。

 俺が何もしないでいると、ユイを解放した白髪の男はその場を去って行った。

 赤髪の男も必死の形相を浮かべながら後に続く。

 やがて湖に静寂が戻ると、俺はやっと一息付く事ができた。

 後方を振り返ると、ユイが地面にペタンと座り込んでおり、ずっと涙を流していた。

 俺はゆっくりとした足取りでユイに近づいて行く。


「来ないでくださいっ!」


「いきなりどうしたんだよ? 怪我でもしたのか?」


「そうじゃないんです……今回は私のせいでレンさんに迷惑をかけてしまいました。だから私達はもう一緒にいない方がいいと思うんです……」


 俺はいきなり告げられた解散宣言に、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

 尚もユイの慟哭は続く。


「私は最初から誰かに頼るべきじゃなかった。自分の問題に他人を巻き込むべきじゃなかったんです……」


「ふざけんなよっ!! 俺は自分の意志で、ユイを手伝うって決めたんだ! こんな所で解散するつもりはないぞ」


「でも……これからも巻き込まれるかもしれないんですよ? それでも一緒に居てくれるんですか?」


 俺は泣き顔のまま、悲痛な面持ちで告げるユイの涙を拭いながら言った。


「いいんだよ……それが俺自身で決めた事なんだからな。もし何かあったら俺がその不安を跳ね除けてやるよ!」


「レンさん……」


 俺とユイはお互いに見つめ合っていた。

 俺は心臓の鼓動が早鐘を打つ音を聞きながら、それでも視線を逸らせずにいた。


 ────するとユイが瞼をゆっくりと閉じて、少し唇を前に突き出す……。


(こ、これはッ! していいんだよな?)


 俺はユイの肩を掴むと、ゆっくりとその綺麗な唇めがけて顔を近付けて行った。


 ────あと数センチで二人の唇が重なる瞬間……タイミング悪くもアラーム音がなった。


 お互いにビクッと体を跳ねさせると、すばやい身のこなしで離れた。

 少し気まずい思いをしながらも、俺はステータスウィンドを開く。

 どうやら新しいスキルを習得したと、通知が来たらしい。


「────ん? 何だこれ?」


「どうしたんですか?」


 ユイにも見える様に、俺はステータスウィンドを拡大して空中に映しだした。


「ここ見てみろよ。何かオンリースキルって書いてあるんだけど……そんなスキル聞いた事もないんだよ」


「あっ! 本当ですね。レンさんだけのスキルって事でしょうか? もしそうならすごくないですかッ!?」


 確かにもし俺だけのスキルだとしたら、大変な事だ。

 そんなスキルの噂を聞いた事もないし、裏ワザ的なものもこのゲームには存在しない。


「もしそうならこの事は他言無用で頼む。皆からやっかまれるのはごめんだし、変に有名になっても困るからな」


「わかりました! この事は二人だけの秘密ですねッ!」


 何が嬉しいのかユイは満面の笑みを浮かべると、一人で先へと歩き出した。

 俺はもう一度ステータスウィンドを見ると、そこに書かれている事を注視した。




 ────おめでとうございます!────


 あなたはオンリースキルを習得しました。

 つきましては、運営側からささやかなプレゼントをさせて頂きます!

 あなた専用の武器《ナイツオブナイツ》

 こちらの武器は、既存の武器よりも攻撃力、命中率に特化したオンリーワンの武器となります!


 そしてあなたの習得した、オンリースキルがこちらになります。


 スキル名:【神速ブーストダンサーり手】

 一定時間あらゆる者を超越したスピードを発揮する事ができます!

 効果持続時間は5分と短く、また次の発動まで1時間の待機時間が制限されますが、スキル発動中はほぼ無敵状態になります。

 どうかオンリースキルを活用して、このゲームをクリアしてみてください!

 それではまた何かありましたら、連絡させて頂きます。


 エンド・オブ・ワールド 運営委員会





 あの時……最後に金髪隻眼を圧倒した力は、どうやらオンリースキルによる力だったらしい。

 俺は自分でもそうと気付かない内に、オンリースキルを発動していたのだ。

 何か人知れぬ力を身につけてしまった事により、得も言われぬ不安にかられるのだった。

 俺は疲れた足を引きずりながら、一人で先に行ってしまったユイを追いかける。

 どうにかしてユイに追いつくと、いつものように【スノーヘブン】で別れを告げログアウトする。


 現実世界に帰還した俺は、急いで自宅へと戻り、自室のパソコンを立ち上げる。

 検索画面で、《EOW》 オンリースキルと入力すると、検索結果は0を表示した。

 やはりオンリースキルというスキル名は浸透してもいないし、誰も習得した形跡がなかった……。

 なぜ俺がそんなスキルを習得する事ができたのか?

 なぜ運営会社は公表しないのか?

 思う事は多々あったが、一先ず考えるのは明日にしようと思った。

 明日は幸いにも土曜日で、学校も休みだ。

 そう考えると、睡魔が襲ってきて俺はまどろむ意識の中、明日もユイと会えるかな……そんな事を思っていた。










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