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エンド・オブ・ワールド  作者: 高崎司
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第26話 エピローグ

 俺は自分を呼ぶ声を聞きながら、夢の世界を漂っていた。

 そこは真っ白で物も何もない、ただ虚無感だけが広がる空間だった。

 周りに俺以外の人間はおらず、もちろん光もない。

 真っ暗闇の中、俺は手を前に出しながら、一人歩いていた。


「誰かいないのか?」


 俺の声は反響し、行き場を失くしてまた戻ってくる。

 俺はひどい孤独感に、しだいに恐怖を覚え始めた。


 なぜいきなりこんな所にいるのかもわからず、ただ夢だという事だけは何となくわかる。

 そんな曖昧な感覚の中、当てどもなくさ迷い続けた。

 光の見えないその場所では方向感覚などは役に立たず、自分がどこへ向かっているのかもわからない。


 そんな所を何十分も歩いていれば、次第に何もする気が起きなくなる。

 俺は地べたと呼んでいいのかわからないが、とりあえず座って一人頭を抱えていた。


 俺はさっきまでミライと戦っていたはずだ。

 最後にユイとハロルドが俺を呼ぶ声を聞いたのは覚えている。


 しかし、それからの記憶が俺にはなかった。

 きっとそこで俺の意識は途絶え、今だ抜けられない夢の中へと足を踏み入れてしまったのだろうと、考える。


「これからどうすればいいんだよ……」


 俺は無意識の内に呟いていた。

 すると凛とした声が俺の耳朶を打つ。


「レンさん! 早く目を覚ましてください。じゃないと、私は……うぅっ」


 どこか遠くでユイのすすり泣く声が聞こえた気がした。


「そうだ。俺はこんな所で寝ている場合じゃない。早くユイのお姉さんを助けないと!」


 俺が四方を見渡し、脱出方法を探していると、ふと俺のズボンのポケットが眩い光を放ち始めた。

 俺はポケットに手を突っ込み、それをむんずと掴む。


 目の前に翳すと、それは<神秘の秘宝>が放つ輝きだった。

 ゲームクリアでもらった報酬にして、願いを一つかなえる唯一無二のアイテム。


 そのアイテムが今光を放って、使われるのを待っていた。

 俺はその<神秘の秘宝>に念じた。


「早く俺を元の世界に戻してくれ。俺にはまだやるべき事があるんだ」


 一際光を強めたそれは、空間を真っ白に染め上げ、俺の意識を元の世界へと運ぶ。


 俺が目覚めて目にしたのは、ミライと戦闘していた風景そのままだった。


「レンさん、無事ですか!?」


 目覚めたばかりの俺に、ユイが迫る様にして問いかける。

 俺は重い頭を左右に振ると、それからゆっくりと、だがはっきりとした声音で答えた。


「ああ。ユイのおかげでこっちに戻ってくる事ができたよ。ありがとう」


 いきなりの感謝の言葉に、戸惑いを隠せないユイ。

 きょとんと首をかしげ、何事かわからないといった感じだ。


「何の話ですか? それより、早くお姉ちゃんを助けに行きましょう! レンさんが目覚めるまで待ってたんですよ」

「そうだったのか。それなら早く助けに行こう」


 俺とユイとハロルドは、ユイのお姉さんが囚われているダンジョン内部へと入って行った。

 そのダンジョンの奥深く、ボスがいたその場所にユイのお姉さんはいるはずだ。


 焦る気持ちを抑えつけ、確実にユイのお姉さんへと近づいて行く。


 そしてついに、何か月ぶりかの対面を果たす事ができた。


 今だ氷の檻に囚われたまま、身動きできずにただジッと助けが来るのを待っている。

 そんな姿の姉を見て、再びユイは何を思うのだろうか……。


 俺はそっとユイの横顔を盗み見た。

 ユイの頬を涙がすーっと伝っている。

 静かに涙を流すその姿は、とても幻想的だった。

 その涙が意味するのは、再会の喜びだろうか。


「さあ、ユイ。早くお姉さんを助けてあげよう。ユイの手でお姉さんを助けるんだよ」


 俺はそっとユイに<神秘の秘宝>を手渡した。

 ユイは俺の顔を見ると、しっかり頷きお姉さんへと着実に近づいて行く。

 距離にしてわずか数メートルが、何倍にも感じられた。


 ユイがゆっくり進む足音だけが響く。

 一歩一歩着実に進んで行くその姿は、頼もしく見えた。

 もしかしたら、今はもう俺の力など必要ないかもしれない。

 今のユイならきっとこれからも一人で生きていけるだろう。


 そしてついにユイがお姉さんの元へと到達する。

 ユイは<神秘の秘宝>をお姉さんへと翳し、声に出して願う。


「どうかお姉ちゃんを解放してください。お願いします。お姉ちゃんを氷の檻から解き放って!」


 最後は悲痛な叫びとなって場を震撼させる。

 ユイの叫び声が木霊する中、氷の檻に変化が現れた。


 堅牢だったはずの檻に、ピシピシとヒビが入り始め、徐々に形を変えていく。

 亀裂の入った檻はそう長くは持たず、檻が崩れるのに数分とかからなかった。

 檻が崩れ中からユイのお姉さんが支えを失って倒れかかってくる。

 急いで支えたユイの腕の中、お姉さんは抱きしめられた。


「お姉ちゃん! 目を覚ましてお姉ちゃん!」


 必死に呼びかけるユイ。

 するとゆっくりとだが瞼が持ち上がって、ユイの瞳にお姉さんが映る。


「お、お姉ちゃん……ようやく会えたよ。私が誰だかわかる?」

「ユ、ユイなの? 本当にユイ?」

「そうだよお姉ちゃん! やっと会えて話す事ができたね」


 俺はそんな姉妹のやりとりを見て、心から良かったと思った。

 ユイの目からは大粒の涙が落ち、お姉さんはユイの腕の中で嬉しそうに微笑んでいる。

 そんな姉妹の温かい光景に胸を打たれ、俺も知らず知らずのうちに涙を流していた。


 それからしばらくして、ユイのお姉さんが歩ける状態になると、四人は揃ってダンジョンの出口を目指す。

 ユイとお姉さんが前を歩き、俺とハロルドは後ろを並んで歩いていた。

 するとユイのお姉さんが後ろを振り返り、俺に話かけてきた。


「君がレン君? このゲームをクリアしたんだよね?」

「はい。俺達三人でクリアしました」

「今まで妹と一緒に居てくれてありがとう。君のおかげで妹はここまで強くなる事ができたと思う。もしよかったら、これからも妹の事をよろしくね」

「は、はい。俺何かでよければいくらでもお手伝いしますよ」

「ふふ。きっと君じゃないとダメだと思うな」


 どこか含みのある笑みを浮かべながらそう言ったお姉さんに、さっきまでの弱弱しい雰囲気はなかった。

 今はギルド<暁の騎士団>リーダーの顔つきをしている。

 その雰囲気は正に歴戦の勇士といった風情だ。


 俺は畏れ多くもとんでもない人と知り合いになってしまったんじゃないだろうかと思った。


 俺達がダンジョンから抜け出すと、綺麗な夜空がゲーム内を彩っていた。

 鮮やかに煌めく無数の星々。

 夜の帳の中、静かに奏でる虫の鳴き声。


 もうこのゲームはクリアされてしまったけれど、他にもゲームは無数に存在している。

 俺はきっとそのどれかにログインし、そしてまた一から始めるのだろう。


 もしユイがよければ、その時は一緒にまたパーティーを組みたいなと思った。

 もちろんハロルドも居てくれたら心強い。

 俺はこのゲームで出会ったかけがえのない友人達と共に強くなった。


 またどこかのゲームで出会える事を信じて、今はゲームクリアの余韻に浸ろう。


「レンさーん。何してるんですか? 早くしないと置いて行ってしまいますよ」


 ユイが嬉しそうに、お姉さんと手を繋ぎながらこちらを振り返っている。

 俺はその眩しい笑顔を見て、このゲームを始めて本当に良かったと思った。


 突然出会った初心者プレイヤーの女の子。

 その女の子とパーティーを組んでいろいろな経験をした。

 最終的にはお姉さんのためにこの<EOW>をクリアする事ができた。


 俺はユイの笑顔を見ながら自然と笑顔になる自分を自覚した。

 願わくばまた一緒に戦える事を祈って、俺は足早に駆けるのだった。

今まで読んでくださった方はありがとうございました!

無事に完結する事ができました。

もしよかったら感想など頂けると嬉しいです。

それでは次回作でお会いできる事を願って、今回は筆を納めさせて頂きます。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました!

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