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エンド・オブ・ワールド  作者: 高崎司
23/26

第23話 三つ首の魔獣

あのドラゴンとの戦いから早いもので、一週間の時が流れていた。

三つから構成されている浮遊大陸の一つ目の島を、まだ俺達は攻略できずにいた。

見た目以上に広いこの島は、町から東西南北にそれぞれ道が伸びており、現状東と西の攻略は概ね終了していた。

東西を探索した結果、ボスは存在しておらず、ただただ無意味な時間を過ごしてしまったと言ってもいいぐらいだった。

攻略途中でレベルは上がったものの、肝心のボスは見つけられず、俺達は少しばかり焦りを感じていた。


「なあ。この島だけでこんな時間かけて大丈夫かね」


ハロルドがぼやきながら言う。

皆が思っても口に出さなかったことをズバッと言う辺り、さすがハロルドと言うべきか。

ハロルドが言った通り、俺達には時間がない。

できれば年内までに攻略したかったのだが、現在日付は十二月の終盤に差し掛かっている。

正直年内の攻略は間に合わないだろうと誰もが思っていた。

しかしユイがいる手前、無闇やたらと不安を煽るようなことは言えなかった。


「確かにこのままじゃまずいな。でも必ずユイのお姉さんは助け出すから、ユイは心配するなよ」

「私なら大丈夫ですよ。レンさんやハロルドさんがいなかったら、私きっとここにはいませんから」


内心では寂しい思いを抱えているはずなのに、それをおくびにも出さない辺りユイは強かった。

本人が大丈夫だと言っているのだから、これ以上この話題を続けるのも良くないだろうと思って、俺は会話の矛先を変えた。


「ここでぼやいていても始まらないさ。とりあえず次は南か北どっちかだな」

「それなら俺は南に行った方がいいと思うぜ」

「何か根拠はあるのか?」

「南の方角には森が生い茂っているだろ? 得てしてそういう場所にひっそりとダンジョンがあるって相場が決まってるんだよ」


ハロルドの言う事には大した根拠はないが、言っていることは一理ある。

俺は悩んだ末に、ハロルドの言う南に進路をとることにした。


「じゃあハロルドを信じて南に行ってみるか。どうせ外れたら北に行けばいいだけだしな」

「全然信用されてないのな」


ぶつぶつと文句を言っているハロルドを置いて歩き出すと、文句を言いながらもしっかりと後を付いてきていた。

俺達はそれから南に進路を変え、生い茂る森林地帯を目指して歩き出す。

途中遭遇するモンスターを難なく倒し、俺達の探索は順調だった。

今ではそこら辺のフィールドにポップする雑魚モンスターなど、サクサク倒せる程には強くなっていた。

最初の頃から一番強くなっているのは、やはりユイだろう。

レベルもさることながらプレイヤーとしてのスキルが格段に上達していた。

弓道部なので弓の腕前は元からすごかったが、今では自分の戦闘での位置取り、援護するタイミング、どれをとっても一流のプレイヤーと言っても過言ではない。

そのユイが今正に敵に止めの一矢を放つ所だった。


鋭い呼気と共に放たれた矢は、モンスターの急所を的確に捉え、一撃で倒す。

ふうと息を吐き出すと額に浮かぶ汗を拭った。

太陽の光に照らされたその横顔が、とても綺麗に鮮明に瞳に焼き付く。

俺は逸る鼓動を抑えつけるのに、一人奮闘していた。

するとユイと視線が合い、小首を傾げながら俺のことを見つめてくる。

俺は突然のことに対処できず、つい視線を反らしてしまった。

その際ユイの表情が一瞬曇った気がするのは俺の気のせいだろうか。

俺は一先ず考えないようにして先へと進むことにした。


それから俺達が南に一時間程歩き続けると、生い茂る森が見えてくる。

やっと森林地帯に到達した俺達は、一旦森の入り口手前で休憩することにした。

草地にシートを敷き、昼食の準備をする。

別に仮想世界なんだからいちいち汚れなど気にしなくてもいい。

だが現実世界でやっている行動がこうして仮想世界でも出てしまう辺り、やはり現実とこの仮想世界は密接にリンクしているのではないだろうか。


それから敷いたシートの上でささやかな昼食を済ませると、俺達は森の入り口を通って内部へと侵入するのだった。


道は一本道で周りは背の高い木々に囲まれている。

辛うじて陽の光が届く程度で、森の中は少し薄暗かった。

時折足元を這いずる蛇の音に驚き、ユイなどは俺の腕にしがみつきながら、おっかなびっくり歩いていた。

俺は表面上は冷静を装いつつ、内心では心臓が口から飛び出るのではないかという程緊張していた。

腕にユイの柔らかい胸の感触が伝わり、俺の全神経がその部分に集中しているのではないかと言う程、俺はその柔らかい感触に囚われていた。

そのせいか目の前にモンスターが現れたことにも気付かず、俺は反応が遅れた。


「レンさん危ない!」


いきなり横手からユイに押され、俺は慣性に従って横に倒れる。

倒れた俺が見上げる先に、モンスターと戦うユイの姿が映った。

そのモンスターは植物系のモンスターらしく、しかし大きな花弁を開くと、ユイを飲み込もうとしていた。

ユイは必至に矢を放ち牽制する。

するとそこへハロルドが敵の側面から戦斧を振り下ろし、一刀のもとに断ち切った。

敵を倒したハロルドは俺へと厳しい視線を送る。


「油断しすぎじゃないかレン」


いつものハロルドらしからぬ声色で俺に詰め寄ってくると、右手を俺へと差し出した。

俺はその手を掴むと立ち上がる。

手で服についた埃を払うと素直に頭を下げた。


「ごめん。少しぼーっとしていた。これからは気を付けるよ」


俺は真摯にハロルドに謝った。

するとハロルドもそれ以上何も言わずにまた歩みを再開する。

ユイは俺の近くに来ると大丈夫ですかと小声で話しかけてきた。

心配そうにしているユイに笑いかけると心配ないと身振りで伝える。

俺は自分に気合を入れなおすと皆の後を追うようにして歩き出す。


俺達が森の中に入ってどれくらい時間が経っただろう。

気付くと俺達は開けた場所に出ていた。

そこはぽっかりと穴が開いたように何もなく、そして数メートル先には生い茂る草に隠れるようにしてダンジョンが鎮座していた。


「やっと見つけたな。ここにボスがいるか確認してみよう」


俺を先頭にダンジョンの中へと入って行く。

ダンジョン内部は木々が所狭しと生えており、道を塞ぐ様にして行く手を阻んでいた。

その木々を剣で斬りながら進んで行く。

するとダンジョンの奥深くから異様な気配が漂っているのを肌で感じた。

この肌が泡立つ緊迫感。間違いなくボスが近い事を示唆している。


「皆も感じるか? この異様な殺気と獣の気配を」

「ああ。ビンビン感じるぜ。やばいぐらいに大物の予感だな」


ハロルドは額に脂汗を浮かべると苦笑交じりに言った。

ハロルドでさえこの状態なのだ。俺とユイ何か立っているだけで精一杯である。

俺がふとユイに視線を向けると、ユイは俯いて微かに震えていた。


俺はユイの体にそっと触れると励ます様に肩をさする。

ユイはハッとなって顔を上げた。

俺と目が合うと不安にその瞳が揺れているのが見える。

俺は力強い瞳でユイを見据えると、ユイが落ち着くよう瞳を逸らさずに、ジッと見つめ続けた。

数分後落ち着きを取り戻したユイを後ろに、気配の色濃い奥へと進んで行く。


ついに一番奥へとやってきた俺達が見た者は、とてつもなく大きな犬だった。

その犬の首は三つあり、伝承などでよく目にする<ケルベロス>に似ていた。

口からは鋭い牙が二本生え、獲物を前に涎を垂らして待っている。

体毛は全身を覆い隠すようにして生えており、生きる為に生態系が変わってしまったのだろうかと思わせた。

四本ある足全てが太く、一蹴りされれば人間などはひとたまりもないだろう。


「グルルルルル」


唸り声をあげて待ち構えるボスモンスター。

視線を向けるとボスの情報が表示される。


レベル:50

名前:ケルベロス

HP:70000


現在俺のレベルは48。ハロルドが50でユイが45だった。

俺達は武器を構え戦闘態勢を整える。


「グルルル。ガウガウ!」


と、いきなりボスが唸り声をあげて飛びかかってくる。

俺達は咄嗟に散開してその攻撃を躱した。

三つ首の<ケルベロス>は視野が広く、一つの首で一人を視認している。

つまり俺達は全ての首から見られている事になる。

どこにも死角などはなかった。


「とりあえずいつもの陣形で行くぞ!」

「おう!」

「了解です!」


俺は剣を前方に出しながら一気に駆ける。

今第五フィールド最初のボス戦が始まろうとしていた。

期間が空いてしまい申し訳ありません。

今週中にはもう一話投稿できたらと思っております。

もうすぐ話も終わりますので、後しばらくお付き合い頂けると嬉しく思います。

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