第19話 神秘の秘宝<トリックネックレス>
2020年10月も終わりに差し掛かる頃。俺達は現在第四フィールドの町【ウルガス】にいた。
町はハロウィンに彩られ、いたるところで仮装しているプレイヤーを見かける。
俺達にそんなイベントを楽しんでいられる余裕はなかったが、ユイの希望によりこのハロウィン限定のイベントをしようという話になっていた。
ユイのお姉さんを助けるためにも、早く攻略してトップでゲームクリアを目指さなければならない状況なのだが、ユイ本人の希望とあっては無視もできない。
なので俺達は仮装こそしていないものの、ハロウィン限定のクエスト<ピエロのプレゼント>というクエストを受けるため、NPCを探して歩いていた。
聞いた話では、このクエストを発動させるには条件があるという。それはこの【ウルガス】に潜むピエロを探し出し、話しかけるというものだ。
どこにいるかもわからないNPCを探すのは一苦労だが、このクエストの報酬というのが意外とすごかった。
このクエストをクリアしたプレイヤーには、神秘の秘宝<トリックネックレス>というアクセサリーがもらえるらしい。
その<トリックネックレス>の何がすごいかというと、このゲームで死んだプレイヤーは強制的に町に帰還させられる。
しかしこのアイテムを装備していれば、一度だけその場で復活することが可能らしいのだ。
クエストの概要は明かされていないが、チャレンジするには十分すぎる程の価値があった。
俺達はピエロを探し求め、町の中を隅々まで探し歩く。
しかし簡単にピエロを見つけることはできなかった。
「もしかしてガセネタだったのか」
「で、でも皆一生懸命ピエロを探していますよ?」
「もしかしたら最初からそんなクエストないのかもしれない。噂程度の話だったからな」
「私はあるって信じてます! だってハロウィン限定なんて素敵じゃないですか」
ユイは目をキラキラと輝かせ、完全にやる気だった。
こういう所を見ると、やっぱり女の子なんだなと思った。
俺達はその後も町を歩き周ったが、一向に見つかる気配はなかった。
もう諦めかけようとしていたその時。俺は路地裏に入って行く、奇怪な恰好をした人物を目撃する。
「今の見たか? もしかしたらあれがピエロかもしれない」
「どこですか!?」
「今路地裏に人が入って行ったんだ。見てなかったか?」
「すいませんわかりませんでした。でも行ってみる価値はありますよね?」
「そうだな。ちょっと行って確認してみよう」
俺達は路地裏へと足を進め、そしてついに発見することとなる。
路地裏に入った瞬間。俺達の眼前に両手を腰にあて、優雅に佇むピエロの姿が映った。
本当に白塗りに赤のペイントを施したピエロそのままの恰好だった。
そのピエロに視線を固定してもカーソルはでてこない。
ということは間違いなくNPCだった。俺達は多少の警戒をしながらピエロへと近づいて行く。
するとピエロが口を開き、陽気に話しかけてきた。
「おめでとう! よく僕を見つけられたね。君達には今からとっても重要なお願い事を叶えて欲しいんだ」
勝手に話が進んで行き、クエストフラグが立つ。
俺達は押し黙って続く言葉を待った。
するとピエロは尚も語り続ける。
「それはね。僕が失くしてしまったネックレスを探して欲しいんだ。そのネックレスは銀色で丸いロケットの形をしているんだよ。僕にとっては大事なものなんだ。それを君達に見つけてきてほしい。お願いできるかな?」
俺達はお互いの顔を見合わせて頷き合うと、代表して俺が答えた。
「わかった。それでそのネックレスはどこで失くしたかわかるのか?」
「実はこの町から少し北に行った場所に大きな湖があるんだ。そこで水浴びをしていたら、湖に住む主に襲われてしまってね。きっとその時に失くしたんだと思うよ」
「わかった。そのネックレスは俺達が見つけてくるよ」
「本当かい? それは助かるよ。湖の主に遭遇したら無理せず逃げることも大事だからね。それじゃ頼んだよ」
会話を終了させると、ピエロはどこへ行くともなく歩き去って行った。
俺達は一旦路地裏を後にすると、少し話せる場所に移動した。
広場へと戻ってきた俺達は、ベンチに腰掛け先程の話を整理する。
「もしかしたら湖の主と戦って、その報酬がネックレスなのかもしれないな」
「その可能性が高いだろうな。あの口ぶりからするに、湖の主は高レベルモンスターかもな」
俺とハロルドの意見は一致していた。たぶん湖の主を倒すことがこのイベントのテーマなのだろう。
そしてその報酬が<トリックネックレス>なるアクセサリーなのだ。
若干ハロウィンとは関係ない気がしたが、所詮はお祭りごとだ。
あまり気にしないでイベントを進めることにした。
町でアイテムの補充やら装備を整えた俺達は、町を出て北へと歩き始める。
道中ポップする雑魚モンスターを片づけながら進んでいると、俺達の前方に大きな湖が見えてきた。
全容は把握できない程大きく、そして後ろを森に囲まれたその湖は、とても神秘的だった。
湖へ到着するとその湖の名前が<忘れ去られた名もなき湖>という、綺麗な場所には似つかわしくない名前だと判明した。
俺達はいちお湖の周辺を歩き周ってネックレスを探した。
各自散開して探していたが、やはり見つからずに一旦合流する。
「やっぱりその辺に落ちているなんてことはないみたいだな」
「そうですね。湖の主が出てくるまで待ってないとダメでしょうか?」
「そうだろうな。たぶんそれがこのイベントのキーで間違いないだろうし」
俺とユイは近場の砂利に座り湖を眺めながら休憩する。
ハロルドは少し遠い場所で釣竿を出して、釣りをしていた。
俺は呑気なやつだなと思った。それでも文句も言わずに付いてきてくれるハロルドに感謝もしていた。
正直な話、俺とユイだけでゲームクリアすること自体は難しくないと思う。
だがそこに最速でクリアしなければならないという条件がつくと、二人だけでは厳しすぎる。
ハロルドはレベルも高いし、年齢も俺達より年上なので頼りになる面もある。
ああみえて気を使うし、俺達はいいプレイヤーに巡り合えたと言える。
俺がそんなことを考えていると、突然ハロルドが騒ぎ始めた。
「助けてくれ! コイツはでかいぞ!」
見ると釣りをしていたハロルドの竿が、物凄い勢いでしなっているのが見てとれた。
俺は急いでハロルドの元へ向かうと、加勢する。
二人がかりで竿を引っ張っても全く釣れる気配はなく、それどころか二人して湖の方へと体が持っていかれそうになっていた。
「これは間違いなく主だろう! 絶対釣り上げるぞ!」
ハロルドは顔を紅潮させ力いっぱい竿を引っ張っている。
俺も負けじと一緒に引っ張るがビクともしなかった。
そして数分間格闘していると、突然釣り糸が切れてしまった。
いきなり張った糸が切れたせいで、俺達は真後ろへとしたたかにお尻を打ち付けた。
「いってえ。お尻が割れたらどうすんだよ」
「くだらないこと言ってないで、前を見ろ。主が姿を現したぞ」
俺達の目の前に、巨大なカエルが姿を現した。
その体躯は全長五メートルはあろうという程で、全体的に毒々しい緑色をしている。
目は大きく不気味にギョロついており、さしもの俺も気持ち悪さに目を逸らしたくなった。
すると隣でいきなりハロルドが大声をあげる。
「見ろよ! あのカエルの額の部分に何か見えないか?」
言われて額に視線を向けると、太陽の光に反射して何かが煌めいているのが見て取れた。
あれが<トリックネックレス>で間違いないだろう。
「やっぱりこうなるのか。全員戦闘準備! あの不気味なカエルを倒すぞ」
俺達は武器を手に持ちカエルめがけて走り出した。




