第18話 リベンジ戦決着 ~そして新たなるステージへ~
いきなり現れたプレイヤーは、ボスの一撃を弾き返すと、こちらの問いかけに答えることなく走り出してしまう。
ボスへと肉薄したそのプレイヤーが剣を一閃させる。
すると赤いダメージエフェクトが弾け、ボスのHPを一割程削った。
「ただの通常攻撃で一割だと? あいつは一体……」
目の前で起こった現象が信じられず、俺は目を見開いて硬直する。
あの威力から推測するに、あのプレイヤーはレベル40ぐらいだと推測できる。
このゲームが始まって今現在、最高レベルは30だと言われていた。
それから少し時間が経っているのを考慮しても、レベル40など聞いたことがない。
もしそんな高レベルプレイヤーがいるなら、絶対に噂になっているはずだ。
しかしそんな噂は一つも聞いたことがなかった。
俺の視線の先で繰り広げられる圧倒的な光景。
俺達が散々苦戦しているボスの攻撃を、いとも簡単に躱し更に攻撃を叩き込んでいる。
このままいったら一人で倒せるのではないかとさえ思えた。
しかしそんな圧倒的な火力を誇る謎のプレイヤーに綻びが生じ始めた。
一見押しているように見えていたが、ボスの攻撃パターンが段々と変化していき、苛烈を極めていった。
最初は攻撃に専念できていたのだが、今では防戦一方だ。
俺は足に力を入れると地面を蹴り一気に加速する。
その苛烈極まる暴風雨のような戦場に足を踏み入れ、今正に謎のプレイヤーへと振り下ろされた一撃を下段から剣を走らせ弾き返す。
金属同士がぶつかる硬質な音が耳朶を打つ。
しかし氷剣を弾くことには成功した。謎のプレイヤーが俺の方をチラと見てきたが、何も言わずに剣を構えなおした。
俺は横に並び立つと、共闘の姿勢を見せる。
二人は一気に加速すると剣を後ろに引き、ほぼ同時にスキルを放った。
同じ予備動作から放たれる《イニシエーション・スパイク》
二人の突進攻撃がボスの胸元を抉る。ボスはノックバックを起こすと、しばし硬直時間に襲われる。
ボスの残りHPも二割を切っていた。
俺達は一気に方を付けるために、今できる最大のスキルを放つ。
俺は《カウントレス・パージナル》
謎のプレイヤーは《ヘキサグラム・アブソーバ》
俺の六連撃と謎のプレイヤーの六芒星を象った剣閃がボスの体躯を切り裂いた。
HPを一気に消滅させると、ボスは苦悶の表情を浮かべたまま消滅する。
氷塵を巻き上げ消滅すると、後には身も凍るような沈黙だけが残った。
しばらくボスに勝利した余韻に浸る。その数秒後室内を歓声が支配した。
誰もがボス討伐に笑みを浮かべ、お互いの健闘を称えあっていた。
しかし俺達にはやるべき事がある。そう、ユイのお姉さんを解放するという最大の大仕事が残っていた。
俺達はそのためにボス攻略に赴き見事勝利を収めたのだ。
俺達三人は狂喜乱舞するプレイヤー達を尻目に、氷の檻に囚われているユイのお姉さんを解放するべく足を向ける。
目の前に立つと、氷の檻が解除されるのを待った。
しかしいくら待ってみても何も起こらなかった。
不自然に思った俺は、檻に触れてみたり周りを観察して何かないか探す。
いくら探してみても何もわからなかったし、檻が解除される気配もなかった。
俺達は途方に暮れお互いの顔を見つめる。
すると遥か上空からノイズのような音が聞こえてきた。
室内にいる全プレイヤーが耳を傾けるのを待つ様に、徐々にノイズがクリアな音となって鮮明に聞こえてきた。
「プレイヤーの皆様。私の声が聞こえているかな?」
どこからともなく聞こえてきたその声は、中年の男性を想起させるような声音をしていた。
少し渋い、でも味のあるその声は続けて言った。
「ひとまず第三フィールド、ボス攻略おめでとう。これから君達は第四フィールドへとステージを進めることになる。まだ見ぬ新しいダンジョンに思いを馳せ、しばらくこの<EOW>を堪能してくれたまえ」
その祝福の言葉とも取れる言い回しに、プレイヤー達は歓喜した。
だが、俺とユイとハロルドは何か得体のしれない不安に駆られていた。
そしてその不安は最悪な形をもって的中してしまう。
「今君達の前に囚われているプレイヤー。彼女は《暁の騎士団》のリーダーである。残念ながら彼女を解放することはできない。なぜならこれはこちらが用意したイベントだからである。もし彼女を解放したければ、ゲームをクリアしなくてはならない。そしてゲームをクリアした者だけに与えられる、『心願の果実』と言われるアイテムに祈ることでしか彼女を解放する術はない」
その語られた驚愕の真実に、俺達は二の句が継げなかった。
俺の横でユイが下唇を強く噛み、悔しそうに歯を食い縛っている。
俺は虚空を睨みつけると、この忌々しい声に向かって叫んだ。
「必ずゲームをクリアしてやる! このふざけたイベントは俺が終わらせる」
「レンさん。私も一緒にやります! 絶対にお姉ちゃんを取り戻します!」
俺達の言葉は聞こえないのか、最後にこう締め括った。
「それでは誰が初めにクリアするのか楽しみに待っています。プレイヤーの皆様がゲームを楽しんでくれることが、我々の唯一の願いですから」
その言葉を最後に、もう声は聞こえなくなってしまった。
俺とユイは顔を見合わせると、一緒に歩き出す。
次は第四フィールドだ。残す所あと二つである。
俺達はもどかしい思いを抱えたまま、第四フィールドへと続く扉を潜って行った。
俺は扉を潜る直前、後方を振り返り、あの謎のプレイヤーの姿を探す。
しかしどこにも姿は見えなかった。まるで最初から存在などしていなかったかのように。
俺は何か引っかかる思いを抱えたまま、今は攻略に専念するべきだと忘れることにした。
俺達が扉を潜った瞬間。目の前に大きな湖が姿を現す。
どうやら第四フィールドは水がテーマになっているらしい。
各フィールドごとにテーマが決まっており、そのフィールドに行くまで、そこがどんな場所なのかがわからない仕様になっていた。
これもプレイヤーの楽しみを考えてのことなのだろう。
しかし今はその秘密主義的なシステムがもどかしくもあった。
俺達は最速でゲームをクリアしなくてはならない。でないと、ユイのお姉さんを解放する術がなくなってしまう。
俺達に残された時間はあまりにも短くなってしまった。
現在トップを走っていても、いつ追い抜かれるかわからない。
しかもあの声はこの<EOW>をプレイしている全プレイヤーに通達されているだろう。
だったらもう悠長にしている余裕はなかった。
俺達は第四フィールドに足を踏み入れると、早くもレベリングを開始するのだった。