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エンド・オブ・ワールド  作者: 高崎司
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第15話 帰らぬ者の夢幻

 ギルド結成から何日か経ち俺達は現在第三フィールドの探索に出ていた。

 山岳地帯を覚束ない足取りで歩きその顔には疲労の色が濃く見える。

 どうしても岩肌を削った様なフィールドなので、普通に歩いているだけでも大変だった。

 そろそろ昼ぐらいになろうかという時間帯、俺達の目の前に遺跡らしき建物が見えてきた。

 その遺跡は今まで見た中で最も大きく特徴的な外観をしていた。

 氷を纏いまるで来る者を拒むかのように扉は固く閉ざされている。

 俺達は遺跡の前で立ち止まると一斉に顔を見合わせ呟いた。


「何だこれは。今までこんな遺跡見た事ないぞ」

「氷に覆われてるってことは、このダンジョンは氷属性だよな。俺氷耐性のアクセサリーとか持ってないぜ」

「私もそんな物持ってないですよ。レンさんは持ってますか?」

「いちおドロップしたのなら持ってるけど、たぶん大して役に立たないと思う」

「どーするかね~。正直このまま行ったら全滅だと思うぜ」

「俺もそう思う。でも入ってみて少し様子だけでもみないか?」

「うーん、まあレンがいいならそれでもいいけど」

「なら入るだけ入ってみよう。モンスターのレベルとかも確認しないと対策も立てられないからな」


 問題は氷に閉ざされた扉をどうやって開けるかだ。

 たぶん武器で攻撃した所でびくともしないだろう。

 もしかしたら何らかのキーアイテムが必要なのかもしれない。


 キーアイテムとはクエストを進める時に必要不可欠なアイテムの事である。

 それがないとクエストは先に進められず立ち往生を喰らってしまうのだ。

 但しこういうボスがいそうなダンジョンだとキーアイテムは明かされず、自力で突破するしかない。


 俺達は顔をしかめながら唸って試行錯誤していた。それでも扉は開かず最悪今日はもう諦めるかと思われたその時。扉がけたたましい音を立てながら開き始めたのだった。

 氷で閉ざされていた扉がその堅牢な守りを自ら捨てる様にして左右に開いて行く。

 重い地響きをたてながら俺達の眼前で口を開くと、その内部からは寒々とした空気が纏わりついてきた。

 思わず身震いしてしまいそうだ。俺達は一旦入口から離れると装備を防寒用に切り替えた。

 一先ず準備を整え恐る恐る足を踏み出して行く。遺跡の内部は意外と綺麗で氷のオブジェが目を惹きつける。

 光を反射して輝く氷の氷柱などは幻想的で、見ているだけで時間が経つのも忘れてしまいそうだった。


 三人で横並びに歩いて行くと、二又の分岐路に差し掛かった。

 俺の独断で右を選ぶとそのまま前進して行く。

 道中未だにモンスターとはエンカウントせず罠という罠も出てきていない。

 正直肩すかしを喰らった気分だったが出てこないものはしょうがないと諦めた。


 ある程度歩いて行くと眼前に下へと続く階段が見えてきた。

 俺達は迷わず階段を下ると更にダンジョンの奥深くへと進んで行く。

 階段を下りたタイミングでユイが俺に話かけてきた。


「レンさんおかしくないですか? まだモンスターが一体も出てきてないですよね。こんな事ってあるんですか?」

「普通ならあり得ないな。たぶんこのダンジョンは何かしらの秘密があると思う。油断はするなよ?」

「わかりましたレンさんの後ろに隠れてますね」

「俺はお邪魔かな?」

「うるさいぞハロルド。お前も油断していると痛い目見るぞ」

「はいはいわかってますよ」


 俺達の間で弛緩した空気が流れていたその時。目の前に突如モンスターがポップして俺達に攻撃を仕掛けてきた。

 顔は魚の様な頭で下半身は人型というちぐはぐな恰好をしたモンスターだった。

 そのモンスターが片手に湾曲した剣を持ちこちらへと攻撃してくる。

 俺達は瞬時に臨戦態勢を整えると迎撃する為各自散開する。

 大して広くもないスペースで戦うのは厳しいが相手は二体。俺達なら勝てる相手だ。


「俺が敵の攻撃を防いでいる間にハロルドは横から攻撃! ユイは後方から援護してくれ」

「了解!」

「わかりました!」


 各自返事をすると自分の持ち場へと散る。俺は言った通り剣を片手に握りしめ相手の攻撃を弾き返した。

 剣と剣がぶつかりあった時特有の金属音を響かせると、相手のモンスターは仰け反りしばしの硬直時間が発生する。

 その隙に敵の横合いから斧を振り被ったハロルドが現れた。最高のタイミングで最高の一撃を振り下ろすと、クリティカルヒットした敵のHPを半分程削り取る。

 敵が硬直時間から回復する瞬間。狙った様に一本の矢が敵の腹部へと突き刺さった。その矢を射たのはもちろんユイだ。

 敵の動きをユイが足止めした間に俺は敵へと接近し《クロスエッジ》を放つ。

 敵を縦横十字に切り裂くとHPを根こそぎ刈り取りそのまま敵は消滅する。

 残る一体も同じ様な連携で倒すと俺達はそのまま前進を続けた。


 地下かはわからないが階段を下った俺達は、その後もポップするモンスターを危なげなく倒し順調にダンジョンを進んで行く。

 すると長い直線通路へ出た俺達の視線の先に、重厚で大きな扉が立ちはだかっていた。

 目測五十メートルは先にあるその扉は、前回のボス部屋に通じる扉と酷似していた。

 一旦止まると、俺は仲間の方へ体を向け話かける。


「あれを見ろ。たぶんあれがボス部屋の入り口で間違いないだろう。どうする?」

「いちお中に入ってボスだけでも確認してみるか。レイド組むにしてもある程度情報がないと作戦立てられないからな」

「俺達が見つけたんだからそれぐらいはしないとダメか」


 俺達はボスを確認するべくその扉へ向かって前進する。

 床は凍っていて足元が覚束ないがそれでも何とか扉の前へ辿り着くと、俺は取っ手を握り締め力いっぱい引いた。

 床の氷を削りながら外側へと徐々に開いて行き、完全に扉が開かれると部屋の中を確認してみる。

 中は暗くて視界も悪かったが、たぶん中に入れば何かが起こるだろうと思った。

 部屋の中へと一歩を踏み出し扉を潜って侵入した瞬間。辺り一帯を眩い光が照らしだした。

 手を翳し光を遮ると光源を探す様に頭を振る。しかしこの光がどこから溢れているのかは判らなかった。

 光が収束するまで数分間待ち、視界が確保できてから室内を観察してみる。

 室内は前回のボス部屋同様円形であり戦うには十分すぎる広さだった。

 視線を巡らせていた俺は前方にある物を発見する。それは遠目からだと氷の檻の様に見えた。


「あれって何かわかるか?」


 俺が前方を指さして聞くと、ハロルドとユイは首を傾げながら曖昧な表情を浮かべた。

 気になった俺は氷の檻らしき物体へと近づいて行く。


「おいレン! 一人で行くと危ないだろ。俺達も一緒に行くからちょっと待てよ」


 二人が俺の後に続いて付いてくる。俺達は警戒しながら近づいて行き、そして氷の檻の正体に気付いた。


「あれってどう見ても人だよな? プレイヤーか?」

「女に見えるな。でもどっかで見た事ある様な気がするんだが」

「お姉ちゃん!」


 その時だった。ユイの悲鳴にも似た声が俺達の耳朶を打つ。

 俺達の制止の声も聞かずに脱兎の如く駆け出すと、氷の檻に張り付き一生懸命呼びかける。


「どうしてお姉ちゃんがこんな所に。お姉ちゃんお願いだから返事をして」


 最後の方は涙と共に擦れてしまい尻すぼみになっていく。原因はわからないがユイのお姉さんは存在していた。

 ユイの涙を啜る音が静寂の中に木霊する。俺とハロルドは何と声をかけていいかわからず、情けなくも立ち尽くす事しかできなかった。

 一つ解った事と言えば、ユイが探し求めていた姉は氷の檻に囚われており、目覚める気配がないという絶望的な真実だった。

 待ち望んでいたはずの姉妹の再会は夢と消え、最悪な形で果たされてしまったのだった。

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