12話
俺達はボスと対峙しながら、焦りを感じていた……。
いくら攻撃してもダメージを与える事はできず、ボスのHPも残り八割程残っている。
状況は絶望的と言えた。こちらには隠し玉もなければ、皆満身創痍の状態だ。
このままでは全滅するのも時間の問題と思われる。
しかしたった一つだけ、この状況を打開する策があるにはある。
それは……俺が持つスキル《神速の踊り手》(ブーストダンサー)を使う事だ……。
しかしそれを使ってしまえば、ハロルドにもスキルの存在がばれてしまう。
今更だとも思わなくはないが、できれば余り他人には公開したくない……。
俺が躊躇していると、ボスは奇声をあげてこちらへと向かってくる。
もはや一刻の猶予もなかった。このまま手を拱いていたらやられるのは目に見えている。
なら俺のやるべき事は一つしかない。覚悟を決めた俺は《神速の踊り手》を発動した。
俺の体全体を包むかの様な力が覆い、俺は五分間だけ音速すら超える驚異的な脚力を手に入れた。
俺は向かってくるボスへと一直線に駆け、肉薄すると同時に剣を一太刀浴びせる。
するとボスの体躯から血が流れ、ボスは痛みにのたうつ様にして暴れまわる。
「ギシャアアアア!」
奇声を発して痛みに耐えているボスのHPが一割程減った。
《神速の踊り手》と《ナイツオブナイツ》により大幅にパワーアップした俺は、五分間というタイムリミットを無駄にしない為にも、全力で攻撃を加える。
剣を縦横無尽に奔らせ、ボスのHPをガリガリと削り取っていく。
ボスのHPが半分程減った瞬間、今までとは違うアルゴリズムを取り始めた。
俺の動きに圧倒されていたハロルド、そして俺のスキルを知っているユイは、手を出す事なくジッと後ろで待機してくれていた。
ボスは尻尾を振り回し俺を牽制すると、一旦後方に下がって距離を取った。
その隙に俺も仲間達の元へと下がり一息吐く。
「ふう~残り時間は二分弱ぐらいか……このままじゃボスを倒すまではいかないな……」
「レンっ!! さっきのは何だよっ!? あんな力を隠してるなんてすげえじゃねえかよっ!!」
「本当はあんまり見せたくなかったんだけどな……。でも力を使うしかなかった。じゃないと全滅すると思ったからな」
「水臭いぜこのヤロー! 先に言ってくれりゃ俺だって加勢できたのによー!」
「レンさんは皆を守る為に一人で戦ったんですよね?」
全てを見透かすかのようなユイの瞳に見つめられ、俺は気恥ずかしさから瞳を反らした。
「何だ何だ~レンの野郎照れてんのか? 以外とかわいいとこあんじゃねえか」
「うるさいっ! 今はボス戦の最中だ集中しろ!」
「へいへい、わかりましたよ」
「ったく……。────来るぞっ!!」
ボスは大蛇の様な姿から脱皮をしたのか、一回りも大きくなっていた。
その巨大な体躯を擦りながら地面を這う姿は、もう蛇の領域を超えていた。
一言で表すならば『ドラゴン』だ。ファンタジー世界などで登場する最強のモンスター。
体調は最低でも七メートルはあり、その鋭い牙で万物を噛み砕く。
『ドラゴン』最大の武器と言えば、やはり『ドラゴンブレス』だろう。
その大きな口から発せられる灼熱のブレスは、全てを灰塵に帰し大地を燃やし尽くす……。
まるで『ドラゴン』と見紛うばかりの姿に変身を遂げたボスは、一息にジャンプすると彼我の距離をゼロにした。
地響きを立て着地すると、それだけで立っている事が困難な程大地が陥没する。
俺は少しだけ抱いていた希望という甘い幻想を捨てる覚悟を決めた……。