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エンド・オブ・ワールド  作者: 高崎司
10/26

10話

 俺は自分が手にした大きな力に酔っていたのかもしれない。

 レベル差を物ともしない武器に、自分だけが持つ《オンリースキル》、むしろここまで揃っていれば過信しない方がおかしいのではないだろうか。

 ネットプレイヤーとは、他人よりも強くなりたい一心で、キャラクターをより高みへと成長させる生き物だ。

 俺だってもちろんそうゆう思考は持っている。

 人より強くなりたい、人にはない自分だけの力を手に入れたい、そういった願望があるからこそ、このゲームを始めたと言っても過言ではない。

 その他人とは違う力を手に入れてしまい、たかが高校生の俺が調子に乗ってしまうのも、無理からぬ話だ。

 そして俺はその過信によって、自らを窮地に追い込む事となった。

 現在先程の敵と戦闘中なのだが、HPが残り一割になった事で、俺は油断してしまった。

 その油断により、敵の攻撃をモロに食らってしまったのだ。

 何の防御もせず攻撃を食らった俺のHPは、残り二割程まで減少してしまっていた。

 視界には赤く点滅する『DANGER』の文字。

 耳元では警告音が煩いくらいに鳴り響いている。

 俺は自分の過信から、このゲームを始めて初めてのピンチを迎えていた。

 正直こんな雑魚モンスターにやられるとは思ってもみなかった。

 ボス戦でピンチになるならまだしも、そこらの雑魚相手に遅れを取ったとなれば、皆の笑い種だ。

 それだけは勘弁願いたい。


 俺は後方で心配そうに見ているユイに向かって、無言でヒラヒラと手を振った。

 心配ないと合図したつもりだったが、ちゃんと伝わっただろうか……。

 もしここでユイが助けに入って、二人して死亡なんて事になったら目も当てられない。

 俺は視線を敵モンスターへと固定したまま、慎重に相手の動きを見ていた。

 もし今ここで下手に飛び出し、カウンターで殺されたらたまったもんじゃない。

 もう俺に残されている可能性があるとすれば、相手の攻撃に合わせてカウンターを入れる事しかないと思われた。

 先手を打つより、後手に回った方が俺は相性がいい。

 俺のスキルもカウンターに特化している物が多い気がするし……。


 俺は敵が動き出すのを、ジッと我慢して耐えていた。

 すると敵が大きな口を開け、涎を垂らしながら笑った気がした。

 きっと獲物を目の前にして、野生の本能でも目覚めたのだろう。

 俺は恐怖に竦む足を叱咤し、地面にグッと力を入れて怖がる体を支えた。


「ガウウウウ!」


 敵モンスターが威嚇の遠吠えを上げると、俺へと向かって突進してくる。

 俺はギリギリまで敵を引き付けると、サイドステップでその突進を躱した。

 これならカウンターが届くと思った俺は、スキル《イニシエーション・スパイク》を発動する。

 剣が紫色のエフェクトに包まれ、俺の体ごとグングン加速させる。

 俺の渾身の突きが敵モンスターの体へと吸い込まれ、赤いダメージエフェクトを散らす。

 俺はすぐさま敵のHPバーを確認して、一気に表情が強張った。

 自分の予想ではこのスキルで倒せると踏んでの攻撃だったのだ……。

 しかし敵のHPはわずかに残っており、今正に俺へとカウンターの突進を仕掛けようとしている最中だった。

 俺の体はスキル後の硬直により動けない。

 もし敵の攻撃がヒットすれば、俺はもれなく死亡して前回ログアウトした場所へと逆戻りだ。

 俺は視線だけを敵に固定したまま、そのカウンターの突進を成すすべもなく見守る事しかできなかった。


(ごめんなユイ……)


 俺は心の中でユイに謝罪すると、自ら訪れるであろう死の恐怖を受け入れた。


 ────しかし一向に衝撃も来なければ、俺の意識はまだこの仮想世界に残っている。


 俺は恐る恐る瞼を持ち上げ、そして驚愕に目を見開いた。

 俺の目の前、ほんの何cmかの所でユイが敵の突進を防いでいたのだ。

 手に持つ頼りない弓一本で、敵の突進を防いでくれていた。

 しかしユイの筋力と弓程度では、長くは持たなかった。

 ユイは歯を食いしばり均衡を保とうとしていたが、敵の勢いに耐え切れずに押し切られてしまう。

 ユイの後ろにいた俺を巻き込み、二人して尻餅をついてしまった。

 不謹慎にも俺の腰に乗っかったユイの柔らかい感触が、心地良かったなどとは口が裂けても言えなかったが、何とかユイのおかげで死を免れる事ができた。

 しかし無防備な俺達がピンチな事には、依然変わりがない。

 俺はすぐさま立ち上がると、ユイに手を貸して一緒に並んで立つ。


「ありがとうユイ。本当に助かったよ」

「いいんです! レンさんが危ないと思ったら、体が勝手に反応していました! えへへ」

「そうか……でもまだピンチには変わりない。これからどうするか……」


 俺とユイが会話をしていると、獲物を殺し損ねた敵が牙を剥き出しにして吠えた。

 すると最悪な事に、敵の仲間と思しきモンスターが二匹出てくる。


「おいおい……勘弁してくれよ……」

「そんな……私達ここで死んでしまうのでしょうか?」

「いや、ユイだけでも逃げてくれ。俺が時間を稼ぐ」

「ダメです!! レンさんを置いて逃げるなんて、私にはできません!」

「このままだと全滅なんだ! 頼むから一人でも逃げてくれ! 俺はユイが死ぬ所は見たくないんだよ……」

「レンさん……まだ何か手はあるかもしれませんよ! 諦めずに戦いましょう!」


 俺達が会話をしている途中で、敵は動き出していた。

 三匹に増えた事により、俺達を三方向から挟むつもりみたいだ。

 完全に囲まれた形になってしまった俺達に、退路の道すらなかった。

 俺はせめてユイだけでも逃がそうと前に出るが、ユイはそれを許さなかった。

 ユイも俺の横に並び立つと、意地でも戦闘の姿勢を崩さなかった。

 俺は説得する事も諦め、この窮地を打開する為に思考を加速させる。

 しかし妙案も浮かばないまま、敵の包囲網はジリジリと狭められていく。

 俺達が身動きできないまま、時間を無駄に浪費していた時、遠くの方からこちらへと向かってくる足音が聞こえてきた。

 それも物凄いスピードでこちらへと向かってくる。

 地を蹴る力強い足音が、俺達の鼓膜を打つ。

 敵もその音を聞きつけてか、俺達を警戒しながらも遥か遠方を見通すかの様に、ジッとその場から動く事はなかった。

 だんだんと音が近づいてくると、その足音の正体が俺達の前へと顔を出した。


 背中に大剣を背負い、その大剣を振るうにふさわしい筋力、そして精悍な顔つきをした男性だった。

 髪は燃えるような赤色に、うっとうしいのか髪を逆立てており、その鋭い眼光を衆目の元に晒していた。

 俺は新たな参入者に視線が釘付けとなり、自分の置かれている状況すら忘れていた。

 しばしの硬直の後、この状況で足を踏み入れてしまった哀れな参入者へと忠告する。


「誰かは知らないが、逃げてくれッ! 今俺達は敵に囲まれている! アンタも巻き添えを食らうぞ!」

「何言ってんだよ小僧。俺はお前達を助ける為に来たんだぜ」

「────ッ!? どういう事だ!?」

「俺はこの近くでモンスターを狩っていたんだが、アンタ等の声が聞こえてきてな。さすがにピンチとわかってほっといたら、俺の良心が痛むってもんだぜ」

「そんな事で……いいから逃げてくれ! アンタもデスペナは嫌だろッ!?」

「おいおい俺はやられるつもりなんてないぜ? こんな雑魚は、俺一人でも十分だ」

「何言ってんだアンタ────ッ!?」


 会話の途中で新たな参入者が、その背中に背負う大剣を音高く抜き放った。

 剣の全長は男の身長ぐらいあり、目測で百七十メートルはあろうかと言った具合だ。

 そんな大きな剣を何の抵抗もなく手に持つと、敵に見せびらかす様にして構える。


「今から速攻で片づけてやるよ。黙って見てな!」


 男はそう言い放つと、大剣片手に敵の真っ只中へと突っ込んで行った。

 その迫力溢れる闘志に恐怖を感じたのか、敵は人数で勝っているにもかかわらず、パニックを起こした。

 その隙に敵の真ん中へと潜りこんだ男は、その大剣を軸足を中心にして、振り回す。

 全方位への攻撃は見事に敵モンスターへとヒットする。

 そればかりか敵はノックバックを起こすと、頭上にアイコンが浮かび上がった。

 ヒヨコがクルクルと回るそのアイコンは、気絶している事を現している。

 気絶のバッドステータスは、余程攻撃の威力がない限り出現しない。

 たぶん俺の持つ片手剣では、どんなに筋力パラメーターを上げても無理だろう。

 それだけあの男の攻撃が苛烈だったのと、筋力パラメーターが高かった事を意味している。


 敵が気絶している隙に、その男は最後の仕上げとばかりに大剣を天高く突き上げる。

 その大剣が眩い程の閃光を放ち、思わず目を瞑ってしまう。

 すると男の野太い声が耳朶を打った。


「スキル《バーニング・ロック》!!」


 その声と共に地面に物凄い衝撃が走り隆起した。

 その尖った岩が敵を貫き、一気にHPを削り取ると敵は一匹残らず消滅していた……。

 俺達は立っているのがやっとの状態で、目の前で起こった衝撃から立ち直れずにいた。

 まさか本当に一人で敵を片づけるなど、思ってもいなかったのだ。

 いきなり現れたその男は、レンやユイとは比較にもならない強さを有していた。

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