1話
俺の名前は朱雀連。
今はエンド・オブ・ワールドをプレイ中である。
エンド・オブ・ワールドというのは、大人数が同時に接続して遊ぶことのできるオンラインゲームだ。
このゲームの特徴は、このゲーム専用のカプセルに入り体の情報をスキャンして、意識ごとゲームの世界に入れることだ。
意識ごとダイブするので、自分で見た風景や臭い、それらが現実世界として認識できる。
あまりにリアルすぎると運営開始前から話題になっていたぐらいだ。
このゲームをプレイするのに、カプセルが大きくて家に置けないため、専用の設備が作られた。
そのエンド・オブ・ワールド専用の設備に行き、ログインすることでゲームをプレイすることができる。
ゲームをプレイするのに必要なお金は、月に3000円と他のオンラインゲームと値段に差はない。
このゲームが運営開始されてから、早1年。
現在は2020年の8月9日である。
2019年から運営開始されたこのゲームは、爆発的なヒットとなり現在プレイ人口が300万人を突破している。
そんなエンド・オブ・ワールドに夢中になっている内の1人が、今の俺である。
俺はこのゲームを運営開始と共にプレイしたかったのだが、生憎とその時はお金がなかった。
今は高校1年生になり、バイトをしてお小遣いを稼いでいる。
そのお小遣いを使ってプレイしているのだ。
このゲームは最初に、キャラクターの容姿を自分でいじれるのだが、カプセルが体の情報を読み取っているため、現実の自分に限りなく近い容姿でプレイすることもできる。
そうすると身内バレしやすくなるので、わざと自分でキャラクターをエディットしている人も多くいる。
俺は別にバレても問題ないので、そのままデフォルト設定にして、現実の自分と変わらない姿でプレイしている。
そんな俺の姿は、身長175cm体重54キロ。
黒い髪と瞳をしており、まあ何の特徴もない普通の男子高校生って感じだ。
俺は今、雪の降る森の中に立っていた。
現在このエンド・オブ・ワールドは全部で5つのフィールドに分かれている。
第1フィールドが火山地帯。
第2フィールドが雪原地帯。
第3フィールドが山岳地帯。
第4フィールドが水源地帯。
そして最後の第5フィールドが天空地帯だ。
第1フィールドから順番に進んでいき、最後の第5フィールドをクリアするとゲーム終了となる。
フィールドクリア条件は、フィールドに生息しているボスモンスターを倒すとクリアとなる。
ボスモンスターは専用のダンジョンにしかおらず、ボスを攻略する時は、レイドと呼ばれる大人数でのパーティーを作って攻略する。
俺がゲームを始めた頃には、第1フィールドはクリアされており、現在の第2フィールドに行けるようになっていた。
最後の天空地帯は、第4フィールドがクリアされた時点で解放されるらしい。
現在第2フィールドの雪原地帯が1番進んでおり、俺はその雪原地帯の森の中でモンスターを狩っていた。
このゲームも他のゲーム同様、レベル制を採用している。
現在俺のレベルは20。
結構進んだ方だと思う。
このゲーム、なかなかレベルが上がっていかないのである。
だから事前においしい狩場を調べて、なんとかここまでレベルを上げることができた。
このエンド・オブ・ワールドの現在の最高レベルが30らしい。
それを考えたら、俺だって結構頑張っている方だ。
いちお最前線の雪原地帯まで来ているし。
俺は自分のステータスウインドを開き、後どれくらいで次のレベルに上がるか確認した。
次のレベルまで15000。
大体モンスター1体辺りもらえる経験値が100。
計算すると150体のモンスターを倒さなければならない。
この第2フィールドのおいしい狩場は発見されておらず、自力でコツコツ狩っていかなければならない。
俺はそんな途方もないレベル上げを楽しんでやっている。
なぜならレベルが上がればそれだけステータスが上がり、レベルが1つ上がるだけでもかなり変わってくる。
レベルが1上がるごとに、自分でステータスに割り振ることができ、いろんなスタイルで戦うことができる。
ステータスは攻撃力、防御力、命中、回避と上げることができる。
攻撃力を上げれば、与えるダメージが増加する。
防御力を上げれば、受けるダメージが減少する。
命中を上げれば、クリティカルヒットの確率が増加する。
回避を上げれば、敵からの攻撃を避けれる確率が上がる。
回避に関しては、自分がダイブしてプレイキャラクターと同化している分、自分がいかに攻撃を躱すことができるかによる。
いわゆるプレイヤースキルと呼ばれるテクニックが関係してくるのだ。
しかし回避を上げていれば、攻撃を食らってもダメージ判定にならずに、ダメージを受けずに済む場合がある。
だから回避を上げておくことは結構重要だったりする。
そして俺ももちろん回避を優先的に上げている。
俺は防御力を犠牲にして、攻撃力と回避を上げて、ヒット&アウェイで戦うスタイルを取っている。
このエンド・オブ・ワールドでは、PKと呼ばれる、プレイヤー同士の戦闘にペナルティを設けていない。
負けた方は実力不足という、完全に弱肉強食の世界なのだ。
だから積極的にPKをするプレイヤーも、少なからずいる。
もちろん俺はそんなことはしないが。
あとこのゲームでRPGなどでよく見る、魔法使いのポジションはない。
ではどうやって回復やサポートを受けるのかと、疑問が出てくるだろう。
実は回復やサポートは全部アイテムオンリーなのだ。
しかも回復やサポートアイテムは、1種類につき上限が15個と決まっている。
そのため、もしモンスターに囲まれたり、自分のレベルより強いモンスターと戦う場合などは、慎重にやらなければならない。
もしHP(ヒットポイントといわれる生命力)がなくなると、自分が最後にログアウト(ゲームから現実世界に脱出する感じ。これをした時に、自動でデータを記録する仕組みになっている)した場所からやり直しになる。ログアウトはどこでも可能となっている。
もちろんそれまで手に入れた、アイテムやら経験値やらお金やらは、全部無駄になる。
だからPKもそうだが、モンスターとの戦闘でも簡単に死ねないのだ。
今まで頑張って進めていたのに、ちょっとしたミスで全部無駄になってしまったら、誰だってやる気を失くすだろう。
このゲームではSPと呼ばれる、スキルポイントがある。
このSPを消費することによって、強力な必殺技が使えるのだ。
必殺技にも扱う武器によっていろんな種類があり、人によって変わってくる。
ちなみに俺はオーソドックスな片手剣を使用している。
片手剣は初心者でも扱いやすく、比較的必殺技も豊富にある。
なので俺も片手剣を使って、このゲームをプレイしているのだ。
丁度目の前に、モンスターが出てきた。
俺が目の前のモンスターに視線を固定していると、モンスターのレベルと名前とHPが表示された。
レベル:18
名前:スノーウルフ
HP:2000
名前通り狼型のモンスターだ。
雪の降る場所にいるから、スノーウルフなのだろうかとどうでもいいことを思った。
周りには他にモンスターもいなさそうだし、レベルも俺の方が上だ。
楽勝だろう。SPもいっぱいあるし、必殺技でさっくり倒すか。
俺は右手に持っている剣を引き、必殺技を使うためのアクションを起こした。
必殺技はこのゲームではスキルと呼ばれ、剣であればソードスキルと名前が付いている。
そのソードスキルを使うのに、こうしてスキルごとに対応したアクションを起こさなければ、発動しない仕組みになっているのだ。
俺が剣を引いたことにより、紫色のエフェクトが剣を覆い、発動可能状態へと移行する。
後は自分の意志でスキルを使うだけだ。
こうした自分で戦っている感覚が得られるのも、このエンド・オブ・ワールドの特徴だろう。
俺はそのままスキルを発動する。
すると体が勝手にスノーウルフへと向かって行き、まずは横薙ぎの一閃、次に間髪いれずに上段から下段への斬りおろし。
このすばやい2段攻撃が今回使ったソードスキル。
名前を【クロスエッジ】という。
いちおソードスキルを使うのに、技名を言う必要はない。
中には格好つけて言う奴もいるみたいだが、俺は恥ずかしいから言わない。
別に必要なアクションをすれば、勝手にシステムが認識してくれるのだ。
わざわざ叫ぶ必要もないだろう。
俺のソードスキルがヒットしたスノーウルフは、一気にHPを減らし、そのまま消滅した。
ちなみに先程使ったソードスキルは、序盤で覚えられるスキルのため、威力は大したことないが、SPの消費量が少ないためまだまだ使えるスキルだ。
【クロスエッジ】のSP消費量は20。
今の俺のSPの最大値が200なので、10回使える計算である。
1匹モンスターを倒した俺は、次なる獲物を求めて歩き出した。
現在第2フィールドの【異界への森】と呼ばれる場所にいる俺は、レベルを上げるためにモンスターを探している最中である。
ここは第2フィールドの町【スノーヘブン】からも近いため、レベルを上げるには持って来いの場所だ。
俺がモンスターを探して歩いていると、前方にプレイヤーの姿を発見した。
しかも最悪なことに、モンスターに周りを囲まれている。
こういった場面には遭遇する機会もあるが、基本的にはシカトする。
可哀相だが、助けに入って自分が死ぬ可能性もあるし、プレイヤーの罠だという可能性もあるからだ。
なんでプレイヤーの罠なのかというと、モンスターを使ったPK。
通称MPKと呼ばれるテクニックがあるからだ。
自分が襲われているフリをして、助けに入ったプレイヤーにモンスターを押し付ける。
最悪なテクニックだが、PKするには簡単なやり方だ。
なんせ自分の手を汚さずにPKできるのだから。
そんな訳で俺はシカトして、回り道をしてモンスターを探そうと思っていた。
すると最悪なことに、襲われているプレイヤーと目が合ってしまった。
「助けてください!! お願いします!!」
声を聞いた感じだと、女性のプレイヤーらしい。
しかも目が合ってしまったばっかりに、助けを求められてしまった。
こうなっては無視するのは良心が痛む……決して下心が合った訳じゃないぞ? 本当だぞ?
────って俺は誰に説明してるんだっ!
とりあえず助けに行くか……。
見た感じモンスターは4体。
しかもレベルは19。
俺のレベルでギリギリ勝てるかどうかって感じだ。
でもやるしかない!
「うぉぉぉぉおおおお」
俺は雄叫びを上げながらモンスターへ向かって疾駆した。
まずは俺から見て後ろを向いているモンスターへ【クロスエッジ】を叩きこむ。
さすがに一撃で殺すことは難しく、俺の攻撃で第3者の存在を認識したモンスターは、標的を俺へと切り替えた。
俺が攻撃したモンスターが、俺に向かって右手に持っている太い棍棒を振り下ろしてきた。
俺はそれを横に転がって回避し、起き上がり様に反撃の横薙ぎを放った。
俺の攻撃を食らったモンスターは、残りのHPを散しそのまま消滅。
俺の残りSPも160。
あと8回もソードスキルが使える。
このまま行ければ楽勝だな……俺がそう思っていると、なんと残りの3体が全員俺へと向かって突進してきた。
「嘘だろっ! それは卑怯じゃないか!?」
俺は焦って距離を取るために、全力で後退した。
俺を追いかけてくるモンスターは今更ながら、名前がサイクロプスというらしい。
一つ目の顔をした大きな巨人だ。身長はゆうに3メートルを超える。
しかしサイクロプスは足も遅いし、攻撃も速くない。
たぶん大丈夫だろうと俺は思った。
俺を追ってきたサイクロプスは、一直線に3体が並ぶ形になって走っている。
「これなら! どうだ!」
俺は急遽反転して、サイクロプスへと向かって走りだした。
俺がいきなり向かってきたことに驚いたサイクロプスは、一瞬反応が遅れた。
そこへ走りながらソードスキルのモーションを取っていた俺の、【イニシエーション・スパイク】が決まった。
このソードスキルは相手目掛けて一直線に突きを繰り出すスキルで、ヒットすれば相手をノックバック(後ろに仰け反ること)することができる。
見事先頭にいたサイクロプスは、ノックバックして後続のサイクロプスも巻き込んだ。
ノックバックしている隙に、先頭のサイクロプスに止めの上段斬りをお見舞いし消滅させると、たたらを踏んでいる2体目に標的を移した。
2体目には、ソードスキルからの硬直時間が解けたので、【クロスエッジ】を放ち、反撃の横薙ぎの棍棒を躱すと、更に後ろから最後のサイクロプスが棍棒を振り下ろしてきた。
さすがに躱せなかった俺は、剣で受け止めてダメージを減らそうと試みる。
3体目の棍棒を受け止めた俺は、体が悲鳴をあげているのを感じた。
「くっ! なんて重いんだ。この馬鹿力がっ!」
体ごと雪に埋まってしまう!
このままだとそのまま押しつぶされてしまうぞ。
すると俺を押しつぶそうとしていたサイクロプスに、赤いダメージエフェクトが弾けた。
「なんだ? 誰が攻撃したんだ?」
俺を押す重圧が弱まった隙に、その場から脱出した俺は距離を取り、視線を走らせる。
すると先程襲われていたプレイヤーが、弓を片手に矢を放ったポーズをしていた。
まさか彼女が攻撃したのか?
しかもめずらしい弓使いだ。
弓使いは遠距離からしか攻撃できず、攻撃力も防御力も最初から低いため、人気のない武器だった。
そんな弓使いが俺を助けてくれたらしい。
────といっても、最初に助けたのは俺なのだが。
でもこれならイケる!
2人で攻撃すれば、余裕で倒せるだろう。
ここは共闘するのが吉だ!
「よし! 君は遠くから弓で攻撃して、サイクロプスの気を逸らしてくれ! 俺はその隙に攻撃を仕掛ける! イケるか!?」
「わかりました! やってみます!」
そう答えた彼女は、弓を構えて矢を番えた。
彼女の矢を構える姿は様になっており、とても綺麗だと思った。
「はっ!」
気合いの声と共に放たれた矢は、見事サイクロプスに命中。
サイクロプスのHPを消滅させるには至らないが、怒ったサイクロプスは彼女めがけて走りだした。
俺はそのサイクロプスに後ろから【クロスエッジ】をお見舞いし、サイクロプスを消滅させた。
残りは1体だ。後は残りのSPも100残っているので、最後の大技を使うことにした。
「よし! 最後は俺が片づけるから君は後ろに下がってくれ!」
「わかりました! お願いします!」
俺は最後のサイクロプス目掛け駆けだすと、右手の剣を左の腰だめに構えてソードスキルの構えを取った。
俺目掛けて棍棒を振り下ろしたサイクロプスだが、残念だが俺のソードスキルが発動する方が速い!
「うおおおお! 【カウントレス・パージナル】」
俺は左腰から放った剣を左からの袈裟斬り、右からの袈裟斬り、左から右への横薙ぎからの突き、ノックバックしたサイクロプスに止めの右からの袈裟斬り、返す剣で左からの逆袈裟斬り。
怒涛の六連撃を食らったサイクロプスは、一撃でHPを散し消滅した。
【カウントレス・パージナル】はSPを100消費して放つ大技である。
丁度俺がレベル20になった時に覚えた、今使える最強のソードスキルだ。
なんとか無事にサイクロプスを撃退できた俺は、安堵感からかその場に座り込んでしまった。
すると遠くの方から彼女が駆けてくるのが見えた。
「大丈夫ですか!?」
「ああ大丈夫。ちょっと安心したら疲れがドッとでて……」
「わかりました。私のせいですよね……どうぞ」
彼女はそう言うと、俺の近くに腰を下ろし正座した。
それから自分の太ももを叩くと……って俺に膝枕しろと!?
助けたとはいえ無防備すぎないだろうか……。
ちょっとこの子が心配になってきたぞ。
「どうしたんですか? どうぞ!」
どうやら膝枕しないと彼女の気は収まらないらしい……。
恥ずかしかったが、俺は仕方なく膝枕してもらうことにした。
仮想の体とはいえ、女の子に膝枕してもらうのは初めてだ。
しかもなんかいい匂いするし、めちゃくちゃ柔らかいし……。
俺は借りてきた猫のように、おとなしくされるがままになっていた。
しばらくして彼女が何の反応もしないので、俺は自分から膝枕をやめる事にした。
「ありがとう。もう大分回復したから大丈夫だ」
「そうですか? わかりました」
俺は頭を持ち上げると、彼女のことをじっくり観察した。
彼女は身長は俺より少し低いぐらいだから、たぶん170cmはあるかもしれない。
髪は長く肩より先へ毛先が伸びている。色は綺麗な茶色だ。
肌は白くとても透明感がある。唇は綺麗な赤色でとても健康的だ。
俺がジッと見ていたので、彼女は小首をかしげて不思議そうな顔をしていた。
「君はなんでここにいたんだ?」
「私ですか……実は行方不明の姉を探しているんです」
「姉? このゲームで居場所がわからないってこと?」
「ええ、それもありますし現実世界でも行方不明なんです……」
それはまた大事である。
正直やっかい事を背負うのは性分じゃない。
しかし自分から聞いてしまった手前、無下にする事もできない。なんか泥沼だな……と思った。
「穏やかな話じゃないな。このゲームなら探す事もできるかもしれないが、現実でも行方がわからないとなると、何か事件に巻き込まれたとか?」
「いえ……それが何の手がかりもなくて……。姉がプレイしていたこのゲームに来てみれば、何かわかるかもしれないと思って私もログインしてみたんです。でも未だに姉の行方がわからなくて……」
「そうだったのか……ここに来たってことはお姉ちゃんは、ここに立ち寄った可能性があるのか?」
「ええ。話を聞いたら姉が所属していたギルドが、ここで狩りをしていたそうなんです。だからその足取りを辿ろうと思って……」
気付くと彼女は泣きそうになっていた。
無理もないか。身内が行方不明となれば気が気じゃないだろう。俺だって心配して、できる事があれば何だってする。
「お姉ちゃんが所属していたギルドって、名前はわかるか?」
「はい。【暁の騎士団】という名前らしいです」
「【暁の騎士団】だって!? 超有名ギルドじゃないか! まさか君のお姉さんはそこのギルマスじゃないよな!?」
「ギルマス? ギルマスって何ですか?」
「ギルマスを知らない? 君もしかしてゲームとか普段あんまりやらないタイプか?」
「はい。ゲームをやるのはこれが初めてです。だから殆んど何にもわからないんです」
「初心者だったのか……ギルマスってのは、ギルドマスターの略称だ。つまり簡単に言うと、お姉さんはそのギルドのリーダーだったのかってことだ」
「ああそういう意味だったんですか。勉強になります! お姉ちゃんは確かにリーダーをしていたみたいです。それも聞いた話でしかないんですが……」
「マジか……」
ギルド【暁の騎士団】といえば、このゲームで知らない者はいないぐらい有名なギルドだ。
このギルドは人数こそ20人と多くないが、結成当時から凄腕のプレイヤーが多くあつまり、一気にトップギルドまで上り詰めたいわば伝説のギルドだ。
そのギルドのリーダーをしていたってことは、間違いなく【百花繚乱】の異名を持つあの人しかいないだろう……。
実際見たわけではないが、聞いた話では剣技が物凄いらしい。
【百花繚乱】の振るう剣は目に見えない速さで、どんな敵をも一瞬で蹴散らす。
しかも踊っている様な剣捌きから、妖精と呼ばれてもいるらしい。
もちろん容姿も綺麗だという話だ。
まさかそんな人を姉に持っているなんて。これも何かの縁なのだろうか。
「どうしたんですか固まって? 私何か変な事を言いましたか?」
「何でもないんだ。気にしないでくれ。ただ君のお姉さんは有名人だってことだよ。たぶん見つけるのも苦労しないんじゃないかな」
「それがそうでもないんです」
「どういうことだ?」
「いろんな所で姉の話は聞けるのですが、誰もその足取りを知らないんです。やっとこの森に居た事があるって情報を手に入れられたぐらいですから。でもまた空振りに終わっちゃいましたけど……」
おかしい……彼女程有名な人物なら、普通何もしてなくても噂話くらい耳にするものだ。
それが何の情報も出てこないとなると、どこかで情報が規制されてるのか?
何か一気に嫌な予感がしてきたな……。
「君はこれからどうするんだ? 俺は一旦戻ろうかと思ってるけど」
「私も一旦戻って今日はログアウトします。今日は助けてくれてありがとうございました」
「いやいいんだ。困った時はお互い様さ。どうせなら町まで一緒に戻る?」
「いいんですか!? 実は私のレベルじゃここら辺のモンスターはきつくて……ここに来るのにも一苦労しました」
「君のレベルはどれくらいだ? ちなみに俺は20な」
「20ですか!? すごいですね!! 私はまだ10ですよ」
「10!? 逆によくここまで来られたな……正直そのレベルじゃ第1フィールドがやっとじゃないか」
「そうなんです。でも一刻も早く姉を探したくて……でも今日は本当に助かりました。ありがとうございます」
そう言って彼女は深々とお辞儀をした。
「別にもういいよ。目の前で襲われてるのを見たら、誰だってほっとけないだろ。それより君の名前を聞いてもいいかな?」
「私はユイって言います。あなたは?」
「俺はレンだ。これから町までだけど宜しく頼む」
「はい! こちらこそ宜しくお願いします」
二人は森を一旦抜け出し、第2フィールドの町【スノーヘブン】へと帰還した。
そこで二人は別れを告げ、ログアウトするのだった。
現実世界へと帰還した俺は、今日出会ったユイの事を考えていた。
話を聞く限りだと、お姉さんは何らかの事件に巻き込まれてしまったのかもしれない。
警察に届けるのがいいだろう。むしろそれしか方法はないように思える。
でもあれだけ有名な姉なら、噂が立たないのは本当におかしい。
何かエンド・オブ・ワールドで、よくない事でも起きているんだろうか?
俺はいくら考えても何も思い浮かばず、今日はもうご飯を食べて寝る事にした。
まあ俺には関係のないことだ……可哀相だがただの高校生でしかない俺には、どうすることもできない。
でもなぜか胸に残るシコリは消えないままだった。
嫌な気分を抱えたまま、俺は襲いくる睡魔に抗えずにその身を委ねるのだった……。
初めまして! ナインと言います!
やっと少し書き溜まってきたので、新作を投稿させて頂きました!
今回はオンラインゲームを舞台にした話になってます!
楽しんで頂けると拙著も嬉しいです!
感想・レビュー・ブックマークなどなど、何でもいいのでして頂けると嬉しく思います!
それでは長文失礼しました。
ナインでした!