アピール
俺はあれから森へ何度か入ったが、どうしても日本には戻れなかった。
異世界に来てその日の夜、エミリーが用意してくれた部屋のベッドで(これから俺はどうなるんだろう・・)と部屋の天井を眺めながら途方に暮れた。
目が覚めたら今までのことは夢で、自宅の自分の部屋だといいのに・・と考えながら眠った。
数分経った頃だろうか、キイッと扉の開く音に俺は目を覚ました。
「・・・んっ・・」
寝返りをうつ俺の目の前にいたのは・・
「和輝様」
にっこりと笑って俺のベッドに潜りこんで来たのは猫耳の女の子。
「!?ロゼッタぁ~~~~!!??」
目が飛び出すほど驚き、そして俺は大声を出してしまった。大声を出した後にエミリーが来るのではないかと思ったが当のエミリーは熟睡してしまっていたようだ。
「ダメですよ和輝様!夜中に大声出しちゃ」
俺の目の前に人差指を差し出して、小声で注意し始めるロゼッタ。俺は怒りやら驚きでフルフルと震える。
「ロゼッタ・・お前なにやってんの?」
「えっ?もちろん和輝様と一緒に寝ようと思って!エミリーに言ったらダメって言われちゃって・・」
「うん!帰れ!!自分の部屋に帰れ!!!」
俺は部屋の扉を指差しながら怒り心頭。ガーンと音が聞こえるくらいショックを受けるロゼッタ。
「なんでですか?一緒に寝ても罰は当たりませんよ!それどころかラブラブになれるかも・・」
ポッと頬を赤く染めるロゼッタに対し、和輝はロゼッタの白のロングワンピースの襟の辺りを掴みズルズルとロゼッタを動かした。
「えっと・・和輝様?」
俺は部屋の前の廊下へロゼッタをポイッと投げた。ゴンッという廊下の床に頭をぶつけた音が鳴り響いた。
「痛ぁ~い!ひどいです!和輝様」
「非常識だろうが!男の部屋に来てんじゃねぇよ!!」
おでこをさすりながら俺の方へ振り向くロゼッタ。俺はため息をついた。
「和輝様はロゼッタの王子様ですから、なにがあっても何にも問題ないですよ?」
おでこをさすりながらも、ニコニコするロゼッタ。
「俺は王子じゃないっての!!お前の王子様はいずれ現れるってエミリーが言ってただろうが!それまで待っとけっての!!」
「私の王子様は和輝様ですよ?他の方じゃダメなんです!」
プクッと頬を膨れさせるロゼッタの猫耳は下に垂れ下がっている。
その猫耳に俺は戸惑ったが、
「~~っ、ともかく!勝手に部屋に入るのは禁止だ!今度勝手に入ってきたら口きかないからな!!」
ショックで口を開けて真っ白になるロゼッタ。そして次の瞬間号泣し始めた。
「そんなぁ~~」
「勝手に入って来なければいい話だろうがッ!!」
言い終わった後、俺はバンッと部屋の扉を閉めた。扉の向こうでロゼッタの泣き声が聞こえるが、夜中に部屋に入ってこられちゃ困る。俺も男ですから色々事情があります。とは言っても実際ロゼッタははっきり言って可愛い顔してるし、俺の好きな猫耳だし・・。だからといって俺は王子じゃない・・。ロゼッタに相応しい王子はいるわけで・・。そんなことを扉の前で考えているとロゼッタの泣き声が止み、部屋へ戻っていったようだ。俺も途中で色々考えるのをやめ、ベッドに再度入り眠りにつこうとした。そしてふと、
(そういや、ロゼッタってなんで猫の呪いを受けたんだ・・?)
真っ暗な部屋の中で考えながらも俺は睡魔に負け、すぐに眠りに落ちた。
朝の陽差しがカーテンの隙間からこちらを覗かせた。その陽ざしに目を覚ました俺は、ゆっくりとベッドから起き上がり部屋から廊下へ出た。すると大きなバスケットを持ったエミリーの姿が。
「あら?おはようございます。よく眠れました?」
ボーっとして頭がまだ寝ぼけている俺は、すぐには反応出来なかった。
「・・・ん・・おはよう・・ございます・・」
俺の反応を見て(やれやれ)とため息をつくエミリー。
「朝食の用意が出来てますから、顔洗ってきてください!」
スタスタと俺の横を通るエミリーは庭へ出て洗濯物を干すようだ。俺は言われた通り洗面所に向かい顔を洗った。洗った後は頭がスッキリしたようで現在の状況を確認した。
(・・・俺は異世界?に来て、んでもってロゼッタとエミリーに出会って・・そっか、俺泊まったんだっけ・・)
昨日のことを思い出しながら、俺はリビングへ向かった。向かう途中でロゼッタの部屋のドアが開いていることに気付いたが、またややこしくなると思ってスルーした。スルーした途端ロゼッタが部屋から慌てて出てきた。
「ひどいです!ドア開いているんだから入ってきてくださいよ!!」
「いやだ!なんかまたやらかす気だろ?」
怪訝な顔をしながら俺は涙目のロゼッタへ顔を向ける。向けた途端俺は絶句した。だって・・だって・・、今のロゼッタの姿はロングワンピースではなく、如何にも今からいちゃいちゃしましょ?みたいなピンクのフリルがついたネグリジェ姿だった。
「・・・・・・・お前、なんつう恰好してんだ・・?」
「もちろん、和輝様に振り向いてもらうためですよ!色気で勝負です!」
自信満々で人差指を立てながら笑顔のロゼッタに対し、俺はウンザリとした顔で、
「お前に・・色気はないっ!!!」
「!!???」
俺の一言に衝撃を受けるロゼッタ。俺は頭が痛くなる。
「なっ・・・なっ・・じゃあどんな女性がお好みでっ!!??」
顔を真っ赤にして食い気味に聞いてくるロゼッタ。ジーッと睨みつけている。
はあっと俺はため息をついた後、キッとロゼッタへ視線を向けた。
「エミリーのような胸になってから言ってみやがれっ!!!!」
雷が落ちたような衝撃を受けるロゼッタ。
ちなみにメイドのエミリーは巨乳です。だが出るとこ出て引っ込むとこは引っ込んでいるという素晴らしいスタイルをお持ちです。そして俺より2つほど年上のようだ。
涙が浮かべながら口をパクパクと動かすロゼッタ。
言い過ぎたか・・?
つーか、いい加減服を着てくれ・・。
服を着てほしいと願う俺に対し、ロゼッタはムスッとしながら庭のほうへスタスタ歩いていった。どうしたんだ?と思った俺は後を追うと庭には洗濯物を干しているエミリーの姿が。
洗濯物を干している最中のエミリーに近づいていくロゼッタ。そして、
「エミリー!!どうしたら胸おっきくなるのっ!!??」
「・・・・・・えっ!?」
いきなりの発言にぽかんと口を開けるエミリーは、ロゼッタの服に注目した。
「ひゃああああああああああああっっ!!!!」
エミリーの奇声が家全体に響き渡る。キーンをした声は鼓膜に響き俺もロゼッタも耳を塞いでいる。ロゼッタの場合は猫耳を折っている。
「エ・・エミリー?」
クラッとして倒れそうなエミリーに、おそるおそる声をかけるロゼッタ。
するとがばっとロゼッタの両肩に手を置くエミリー。
「なんっって、格好しているんですかっ!!しかも何!?胸を大きくしたいって・・」
ハッと思い立ったエミリーは俺の方を見て凝視している、というか睨んでる?
(ひいいいいいいいっ!!!こえええええっ!!!)
俺はエミリーの視線に汗がダラダラと湧き出てくる。
スタスタと俺に向かって早歩きなのがなお怖いっす!!
俺の前まで睨みながら向かってきたエミリーは俺の服を引っ張り、
「かぁ~ずぅ~きぃ~!!!あんたロゼッタ様に何言ったの?言ってごらん?怒らないから!」
ニコッと笑顔のエミリーだが、顔には怒りのマークが俺には見えた。
(明らかに怒ってますよね・・・)
シクシクと涙を流す俺はエミリーの迫力には勝てず、降参した。
リビングで朝食をとる俺の左頬には赤く紅葉が出来ていた。
俺の教訓・・エミリーを敵には回すまい・・。