part.01
少年、キルバード・クローシャの朝は早い。
部屋から差し込む朝日に起こされて上体を起こす。窓から見えるのは庭に生る大木の枝に巣を作る鳥が子供たちに餌を与えている。そーしてクローシャは一日が始まることを実感しながら重たい腰を上げながらベットに戻りたい気持ちを圧し殺す。
天候は快晴、燦々と降り注ぐ日光を浴びながらクローシャは窓をあける。
窓を開けたことで今年の夏の終わりを告げるかのように少し肌寒くなった風で寝ぼけた体を叩き起こす。
「う~んっ!!!」
クローシャは思いっきり体を伸ばしてから肩を回し、腰を捻る。
「うし、今日も頑張りますかぁー!」
クローシャは二階にある自室から一階へと降りるために階段を降りる。
父のグリフィスは昨日の夜から衛兵の仕事で夜勤なのでまだ帰ってきてないはずだ。
グリフィスは衛兵長としてアヴグスト国の治安維持に勤めている。母ビアンカもアヴグスト国で唯一の治療薬製造師として働いている。
クローシャは一階に降りると、そのまま洗面所に行き。桶で顔と歯を磨く。スカイオールの世界にも歯ブラシのような道具が存在していたのは救いだった。
洗面所にある鏡に写るのは、黒髪の美少年と呼んでも良い部類のイケメンフェイスだった。しかし、目付きは5歳のそれとは違っており鋭く切れ長でつり目の目元は怖さがあった。……これが自分の顔とは思えんな。
こちらの世界に来てから既に5年ちょっとがたっており。もはや黒影として生きていた記憶が想いだし難くなっていた。5年の歳月とは怖いものである。
洗面所から出ると調理場では二人のメイドが朝食の調理を始めていた。
マーサとアリエルだ。
マーサは黒髪褐色のグリーンアイが印象的な初老の婦人でアヴグスト国にある家から通っている。
アリエルは今年12歳のクローシャのお姉さん的な存在だ。ショートの茶髪が特徴的な美少女で、両親と山賊に襲われていたときにグリフィスが助けたらしい。しかし、両親は既に山賊に殺されており、いまはグリフィスに雇われて住み込みのメイドをしている。
「あれ? クローシャ様。おはようごさいます」
「様はよしてくれよ、アリエル。俺はそんな人間じゃないからさ」
「無理です! これから剣術の訓練ですか?」
「あぁー、半年もやってると朝の訓練をしないと居心地悪くてさ」
「では、訓練が終わり次第お呼びください。朝食をお持ちしますので」
「あぁー、よろしく」
アリエルと別れてからクローシャは庭に足を運ぶ、庭には馬小屋と薪が有るだけで他にはなにもない。馬小屋には馬車をひく普通の馬が二匹とグリフィスが冒険者だった頃からの相棒らしいスイープニールとや呼ばれる魔馬が居る。
スイープニールは蒼い鱗に覆われ、一本の立派な角が生えており、体格は普通の馬の一回り近くでかい。
「おはよう、スイープニール」
「ゲフッ」
「…」
スイープニールは挨拶をゲップで返し、クローシャから顔を背ける。
こいつはグリフィス以外にはなついておらず、もちろんグリフィスの息子である俺にもなつかない。馬刺しにしてやりたい衝動を堪えながら俺はいつも通りに右手に持った木剣を構えて素振りをしていく。
この世界では剣術と魔法、知識、権力があれば大体のことができる。
そのため、俺は五年間の期間を知識を増やすことにしていた。五年で語学と生活の知恵を身に付けていた。
クローシャは既に5歳になっており、5歳の誕生日から始めた剣術と魔法の訓練は既に半年ほどの時がたっていた。
この世界での魔力とは生活の一部となっており。この世界の大人は身体を動かすことで闘魔と呼ばれる身体能力を向上させる魔力を身につける。
闘魔とは、生きている間に必要な筋力を向上させてくれる魔力のことで、この闘魔を使い続けることで闘魔の質が決まってくる。剣士など接近戦を主体とする者たちは、この闘魔の質が勝敗を分けると言っても過言ではないとグリフィスから聞いた。
魔力も簡単に説明すればたくさんの種類がある。
攻撃系魔力
回復系魔力
変性系魔力
幻惑系魔力
召喚系魔力
闘魔力
この6つが主な魔力らしい。極希に6つの魔力に当てはまらない魔力も存在しており、それは特異系魔力と呼ばれるらしい。
そこで俺は、まずは誰でも持っていると言われる闘魔の会得のために剣の訓練を始めたのだった。
素振が300を越え始めたところで見覚えのある人影が家の玄関に見えた
「おはよう、クローシャ。また素振りをしていたのか? ……ったく、子供なんだからもう少し遊べよ」
「おはようごさいます、父上。僕には訓練が遊びなんですよ」
「まぁー、俺も昔はそうだったもんな……」
「父上もですか?」
「あぁー、昔の俺もスカイオールで一番強い者を目指して訓練していたからな」
「父上は強いじゃないですか?」
「まぁ、それなりには……な。でもお前がなんで強くなりたのかわからんが、俺は正義の味方になりたかったんだ。でも現実は全員を助けるためにはそれなりの力ではダメだったんだよ。大切なものを守るには力も必要だけど……」
「必要だけど?」
「一番大事なのは……」
グリフィスは右拳をクローシャの左胸を軽く殴る。
「心だ。心が弱ければなにもできない。大切なものを守りたかったら身体も鍛えて、その倍に心も鍛えろ。わかったな? クローシャ」
「……わかりました。父上」
「ならよし! んじゃー、まずは身体を鍛えるぞ! ひさしぶりに俺が組手してやる!」
グリフィスは庭にもう一振りあった木剣を取り出してクローシャへと構える。
この前グリフィスに組手をしてもらったのは3ヶ月前だ。半年の訓練の成果を知るちょうど良い機会だ。クローシャは木剣を構えてグリフィスへと対面する。
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