prologue.04
朱犂が火事にあってから一週間がたった。
仕事には行っていない。もはやなんのために生きれば良いのかわからなくなっていた。
唯一の家族がいなくなったのだ。
加藤さんや友人、親しかった人などから連絡や、訪問をすべて断り。
黒影は旅にでていた。行く宛などない。旅と言えば聞こえが良いが、もはや徘徊に近い黒影の旅は終わりが見えていた。
食事も休憩も録にせず、3日間ほど歩きながら朱犂や姉さんと過ごした場所をただひたすらに歩き回るだけの行為はもはや自傷行為に近かった。
いま歩いているのは仕事現場の近くで、無意識のうちにここまで来てしまったのかと思いながら引き返そうとする。そのときに加藤さんが言っていたあることを思い出す。
「黄昏坂って知ってるか? なんでも失った人にもう一度会えるチャンスを与えるらしいぜ?」
忘れ去られていた会話を思い出して、俺は雷に撃たれたように硬直してしまう。
もう一度……朱犂に会えるかもしれない?
いや、そんなバカらしい話なんかを信じれるか。でも、姉さんは否定するよりまず行動する人だった。
翼さんはそんな姉さんが好きになったと話していたのを俺は知っている。
そうだ朱犂に会えるかもしれないチャンスがあるのなら何度でもどんなことにも挑戦しよう!
藁にもすがる気持ちが悪いことではないんだ。少しでも可能性があるなら……
そう思ったときには黒影の足は動いていた。録に飲まず食わずで身体を酷使していたにも関わらず黒影の足は予想以上に軽いものだった。
黄昏坂は一見ただの登り坂なのだが、夕日にあたることにより。どんな構造なのかはわからないが黄昏色に染まる幻想的な景色に変わるのだ。
黒影は約3キロ近い道程を全力疾走したことにより呼吸が整わずに道のど真ん中で膝をついてしまう。
黒影が視線をあげると蜃気楼のようにボヤけた坂の頂上に人影が見えた。
黒影は呼吸が整っていないのもお構い無しに坂を駆け抜けながら叫ぶ。
「朱犂? 朱犂なのか!?」
黒影が坂を駆け抜けるとだんだん目の前が白い光に包まれる。だが、黒影には気にする余裕すらなくなっており。
ただ目の前に見えた朱犂らしき人影へと向かって脚を進める。
視界がすべて白く染まり光に包まれたとき人影が目の前に現れた
「やぁ、はじめまして。」
その人影は明らかに異様なものだった。
顔が目の前にあるというにも関わらず黒影には認識することができなかった。
人影は男のようにも女のようにも見える気がする。いや、こいつにはきっと性別なんて概念はないのだろう。
「お前は……なんなんだ?」
「んー、君たち生き物の産みの親。神様。この世界そのもの。この中でどれが一番僕らしいかな?」
「そうやって言うってことはその全部に含まれるってことなんだな? お前は朱犂を生き返すことができるのか!?」
「人間を蘇らせるなんて出来るわけないよ。たとえ神だとしてもね? 魂は常に回り続けるんだよ」
「……どーゆーことだ?」
「この世界で魂の器をなくした魂はまた新たな魂の器を探して新しい世界へと旅立つんだ。あっ、魂の器ってのは肉体のことだよ。朱犂さんは既に別の魂の器を探して異世界に旅立ったんだ」
「そんな……ならどーにかして会えないのか!?」
「会えないことはないよ?」
「っ……! なら!!!」
「なら、僕とゲームをしない?」
「ゲーム?」
「うん、長いこと傍観するだけの生活にも飽きがきていたところなんだよ。朱犂さんの魂は異世界にあるスカイオールという場所に移動されたんだ。朱犂さんの次の魂の器の期限は約22年。あっ、つまり寿命が22歳ってことなんだけど」
「それで、どーすれば俺の勝ちなんだ?」
「えっと、貴方が朱犂さんの魂の器を護って、本来の規定事項である22歳以上を生きれれば貴方の勝ちです。貴方が勝つことが出来たなら僕が責任をもってなんでも願いを叶えてあげる。その変わり……朱犂さんの魂の器を護れなければ貴方の魂を貰います。」
「……どっちかって言うと悪魔の契約だな」
「ハハハッ、否定はできないね? 聖書では悪魔より僕のほうが人間殺してるぐらいだし。で…どーする?」
「朱犂を……彼女と会うためなら異世界にでもどこにでもいってやる! 次は朱犂を守れるように、強く……どんなことからも朱犂を守れるように世界で最強のパパになってやる!!!」
「君の覚悟はわかったよ。なら最後にアドバイスだ……魂ってのはいくら離しても放置すれば近づくように出来ているんだ。朱犂ちゃんも例外じゃないよ? だから君が朱犂ちゃんと会えたときに彼女を護れるくらいに強くならなきゃダメなんだ。頑張ってねぇー!」
すると周りの白い光が急に時間を巻き戻したかのように戻されていき七色の光に包まれていく。
目の前に立っていた神も徐々に薄くなっていきその存在を完璧に消す。
すぐに神の容姿を思い出せなくなり。まるで今までの会話が夢だったのではと勘違いしてしまいそうになる。
七色の光が消えていき黒影の意識はそこで途切れてしまう。
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