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prologue.03

 仕事が終わったのは時計の針が午後7時を少し回ったところだった。


 少し暗くなりつつある天候が季節を夏から冬に変えようとしていることが解った。


「今日はさみぃーな、晩飯は鍋にでもしようかな? んじゃ……スーパーで鶏肉と野菜を買ってこねーと」


 今日の帰路は、ネズミーランドのチケットを朱犂に見せてやって。朱犂の笑顔が見れるだろうと考えれば黒影の足は自然と軽やかになってしまう。


 買い物はいつも自宅の近くにあるスーパーを使っており、店員さんにも知り合いが多く。朱犂の同級生のお母さんなどが働いていたりもする。


 なんか、客がザワザワしてるな?


 まぁ、関係ないか。そう自分に言い聞かせて黒影は大根や人参、鶏肉などを良く見て質の良いものを籠に入れていく。


 あっ、どーせなら。ケーキも買っていくか! スーパーのなかにあるケーキ屋に足を運び苺の乗ったショートケーキを二つ買う。


 朱犂はこの店のショートケーキが大好きで、まずケーキを食べる前に上にのってる苺を半分に切って食べてからケーキを食べ、食べ終わったら最後に半分に残った苺を食べるという不思議な食べ方をする。何故かと聞くと


「私はどーせなら最初も最後も好きなものを食べたいんだもん!」


 っと、言われたのを覚えている。我が娘ながら面白い子だ。確か姉さんも同じ食べ方をしていたのを思い出して少し顔がニヤけてしまう。


「あっ! 雲英さん! 大丈夫だったんですか!? ……良かった」


 後ろから声をかけられて振り替えると、そこには近所の叔母さんがいた。


 叔母さんは朱犂がまだ小さい時に、黒影が仕事が遅くなるときに、いつも朱犂の面倒をみてくれた黒影の頭が上がらない人その2だった。


「どうしたんですか? そんなに焦って……」


「朱犂ちゃんは? 朱犂ちゃんとはどこにいるの?」


「朱犂ならこの時間ならもう学校も終わってマンションに帰ってますよ? あっ、そうだ。今日の晩飯は鍋なんですけど良かったら叔母さんも一緒に……」


「そんな……あなたの家が火事になってるの! 急いで朱犂ちゃんに連絡してあげて!」


「……えっ?」


 人は不意討ちを食らうとどうなるか知ってるか?


 答えは目の前が真っ黒になって、力は抜けていき。なにも考えれなくなるんだよ。


 黒影はすっかり暗くなった夜空を切り裂くように照らしだす赤いランプの目の前で立ち尽くすしかなかった。


 消防士達の動きは迅速で、消防士達のお陰で火元は黒影が帰宅したときに、ちょうど鎮火したとこだった。


「放火らしいわよ? なんでも下からすぐに火元が広まっていって、上にいた人は全員……痛ましいわね」


 後ろから聞こえる野次馬の話し声に、心臓が握りつぶされそうになる。俺の家は五階だ……


 嫌な予感で頭がカチ割れそうになる。


 嘘だ、嘘だ!

 嘘だって言ってくれよ!?


 俺は気づけば、消防士達の制止を振り切って鎮火されたばかりのマンションに突っ込んでいた。


 ほぼ全焼になっていたマンションはボロボロで、黒影が階段を昇るだけで崩れ落ちそうになる。しかし、そんな状況でも気にしてなど要られなかった。


 いつもは長く感じる五階までの階段も今は短く感じる。


 すぐに自分の部屋までついてしまい。自分の家へと突っ込む。


 朱犂との思い出が詰まった部屋は原形すら残ってない惨状だった。


 居間には一つの黒い影。

 いや、あれは朱犂じゃない! 

 朱犂じゃないんだ! 

 ……でも、なんで朱犂がしていた髪飾りらしきものがあるんだ? 

 なんで、朱犂の背格好とおんなじなんだ?

 なんで…なんで…涙が止まらないんだ…よ


 黒影は朱犂だったものにそっと抱き着く。手元に朱犂が毎日のように書いていた日記帳が握られていた。日記帳は朱犂が抱きついて炎から守ったのか、煤けているだけで原形を留めていた。


 ページを捲っていくと、朱犂が黒影と暮らし始めた日から昨日までのことが書かれており。


 最後のページには



クロくんへ


たぶん、私はここで死んじゃうんだと思う。

下は凄い火が強くて降りられないしこっちのほうも火がスンゴイだよ?


あぁー、もっとクロくんと遊びたかったな。

夢もあったんだよ?

わたし。


学校の先生がお父さんと結婚はできないけど血の繋がってない人となら結婚できるんだって!


クロくんは本当のお父さんじゃないからおっきくなったら結婚してあげるつもりだったのに残念です。


朱犂がクロくんと過ごした五年は本当に楽しかったよ。


本当の本当に楽しくて、お父さんとお母さんがいなくなっても寂しくならないぐらい楽しかったんだ。


でも、これで終わり。

クロくんはこれからわたしとおんなじぐらいカワイイお嫁さんを見つけて、カワイイ子供を育ててください。でも…これだけは約束してください。


絶対にわたしのことは忘れないでください。

お願いします。


 最後のページは涙で濡れており、それがまた黒影の心を握りつぶす。


「守るって言ったのに……守ってやれなくてごめんな。本当に俺も……幸せだったんだぜ? 絶対に忘れねーからよ。目覚ませよ? もう晩飯の時間だぜ? マウントで起こされたいのか……よ……? 起きろよ……起きろよぉぉおおおおお!」


 黒影は消防士に見つかるまでそのまま朱犂を抱き締めたまま動けなかった。


                  next

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