prologue.02
朱犂との生活を初めて既に5年の月日がたっていた。あまり裕福とは言えない5年間だったが、それでも2人の生活は笑顔が絶えず。まるで姉さんと暮らしていた頃に戻ったような感覚だった。
「クロ~♪ おっ仕事の時間だよぉ~!!!」
黒影の朝は、我が娘にダイブされて起きるのが、ほぼ日課になりつつあった。
朝食を食べてこなかった黒影としては、貴重な朝の睡眠時間を奪われるのは辛いところではあるのだが、起きないと朱犂にマウントで殴られるのが明白になってきたので渋々とだが重い体を起こす。
時計を見ると時刻は朝6時。我が娘は今日も早起きでお父さんは嬉しいよ……
歯を磨き、顔を洗っているとキッチンのほうから香ばしい臭いが鼻につく
飯は基本的に独り暮らしを初めたときから自分で作っていた黒影なので、そこそこの腕をもっている。
しかし、黒影が朝食を食べる習慣がないことを知った朱犂は朝食だけは自分が作ると言って聞かなかったので朝食だけは朱犂の仕事ということにしてやった。
居間に戻るとルンルン♪と鼻歌を歌いながら小さなおケツでリズムをとる朱犂にアドバイス。
「朱犂……たぶん焦げてんぞ?」
「うそっ!? きゃぁ~真っ黒だ! ハハハッ」
「ったく……」
黒影は苦笑いをしながら椅子につくと朱犂がフライパンから真っ黒の物体X(目玉焼き)と少し焦げ目のついたパン、マグカップに珈琲をいれてテーブルまで持ってきてくれる。
「は~い♪ お待ちどうさん!」
「ありがとう」
「今日はお仕事早く帰ってこれそうなの? クロ?」
「クロって呼ぶのを辞めなさい。はやく帰ってこれるぞ?」
「なら、今日は美味しい晩飯にありつけそうだ!」
「…別に炭が好きってわけじゃなくてお父さん安心」
「ムキィー! 私だって気をつけてるの! 仕方ないじゃん! いっつも勝手に焦げるんだよ!? 本当ならミシュランもビックリの料理人なんだからね♪」
「それを周りでは料理が下手と呼ぶんだよ。確かにミシュランもビックリするかもな……サラダってどうやったら不味くなるの?」
「えぇー!? サラダもダメなの!? 今日は頑張ってドレッシングまで作ったのにぃ~!」
「あっ、それでか」
「どーゆーことさぁー!」
黒影と朱犂は笑いながら朝の食卓を終わらせる。
朝は黒影が先に仕事に向かい、朱犂が少し遅れてから小学校に通うことが日課となっており、黒影は先に家を出る。
「んじゃー、行くけど。戸締まりと不審者、あとは火事に気を付けるんだぞ?」
「はーい!」
「んじゃー、行ってきます!」
「いってらっしゃーい!!!」
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黒影は土木建築の仕事を辞めずに続けており、今では現場責任者を任せてもらえるようになっていた。
「あっ、雲英! ちーっす!」
「おっ、加藤さん。どーもっす。」
加藤さんは昔はヤンチャの化身みたいな人だったんだが、高校時代に黒影とタイマンをはり。それ以降は仲の良い先輩と後輩という関係を気づいたのだった。黒影に土木建築の道を紹介してくれた人も加藤さんなので黒影の頭が上がらない人だ。
「あっ、聞いたか? 今回の現場の近くに最近良く噂になってる黄昏坂あるんだってよ?」
「黄昏坂っすか?」
「あっ、知らないん? 失った人にもう一度会えるチャンスを与える坂? だったかな?」
「へぇ……」
「まぁー、しょせん噂だけどな」
「その噂が本当なら朱犂を姉さんがたに会わせてやりたいもんだよ。ハハハッ」
「あぁー、それは確かにあるよな。あんな美人の姉さんとか中々いねーし……朱犂ちゃんにもう一度会わせてやりたいよな」
加藤さんは朱犂の小さい時によく遊んでくれたり、プレゼントをくれたりしているので朱犂とは仲が良かったりする。
「でも、お前は本当によくやってるよ。まさか朱犂ちゃんがあそこまで成長するまで育てちまうなんてよ。マジてすげぇーよ」
「まぁー、自分で決めたことですしね」
「そんなお前らにプレゼントだ! お前、今週末は休みだったよな?」
「えっ? そうですけど」
「じゃーーーーん!」
そう言って加藤さんがポケットから出したのはネズミーランドという遊園地のチケットだった。
朱犂が一度で良いから行ってみたいとボヤいていたのを聞いたことがある。しかし、中々高価で簡単には手がだせる代物ではなかったのだ。
「加藤さん……これって!」
「まぁー、あれだ。優しい先輩から朱犂ちゃんへのプレゼントだ!」
「本当に良いんですか!?」
「気にすんじゃねーよ! 俺とお前と
朱犂ちゃんの仲だろ♪」
「本当に……ありがとうございます」
「とりあえず、さっさと今日の現場終わらせちまおうぜ! 責任者さん!」
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「はい!!!」