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人間不信とませた子供のおはなし

作者: カニカマ

 初めにいっておくけど、僕は人間不信症という病気だ。そうわかったのは高校を辞めてから少し経って、他の人と話すたびに最悪のビジョンが浮かびはじめてきたことからだ。

 原因は分かっている。高校2年目の春、入学したころから気になっていた女子生徒に話しかけられ、その生徒を昔から狙っていたという不良生徒とその仲間に呼び出され、集団リンチ。その頃はその女子生徒も加担してたのではないかということで人を疑い、そのまま信じることができなくなった。

 今では全く関係がなかったということもわかったが、一度人を疑い始めるとすべてが嘘に見えてくる。それをどうすればいいかと自分の担当医に相談したところ、移住を進められた。ちょうどその担当医も転勤が決まっており、僕のカウンセリングができなくなったところだったのでこの人以外に信じられる人がいない僕にはうれしい申し出だった。人と接することの少ない飲食店の清掃などのバイトを掛け持ちしていた僕はお金の件で不安になったが、両親と担当医の人と僕とで少しずつ出せば問題ないといってもらった。

 東京の郊外に住んでいた僕は、その年のうちに引っ越し先である福岡へ移動した。担当医の人の住むマンションの隣ということで近隣の住民の方々にも一緒にあいさつに行くことができ、多少の安心を覚えることもできた。

 でもそんな僕が、もう一生に絶対に体験しようとも思わない事件が起きた。引っ越してきて3年目の春。担当医の人以外にも多少は信じれるようになった、僕が19歳のころの話だ。








「・・・・あれ?」


 その日のバイトを終え、バイト先の飲食店の賄を袋に入れてもらい自宅であるマンションに帰宅していると、入り口の前に何かが転がっているのが見えた。大きさとしては130cmほどの布の塊みたいだ。

 近寄ってみると、それが少しだけ動いているのがわかる。丸まった布の下からは黒い髪の毛が見えることから人間のようだ。


「これってまさか、行き倒れってやつなの?」


 布を少しめくってみるとそれは泥まみれになった少女で、下に服も何もつけないまま布を巻いただけの状態だった。

 明らかに栄養が足りていない細い腕に似たような頬を見ると、数日間は何も食べていないということがわかる。このまま放置するのは危ないと思い、少女を抱え上げると、3階にある自分の部屋へと向かった。

 僕の部屋にソファーはないので布団を敷き、少女には悪いと思いながら薄汚れた布を取り去り少し汚れを落としてから布団に寝かせる。それが終わると少女がいつ起きても大丈夫なようにバイト先の賄から消化によさそうなものを数個選んでレンジで温め始めた。


「あ、雄二さんにも連絡しとかなきゃ」


 雄二さんというのは僕の担当医で、爽やかなお兄さんといった感じの精神神経科という精神病などを担当する医者だ。今日は遅くなるとは言っていたが、せめてこの状況をメールだけでもしておいたほうがいいだろう。

 温め終わったグラタンやリゾットをレンジから取り出し、風呂をためる。僕だけならシャワーでもいいが、あの少女は見た感じ長い間家にも戻ってなさそうだったから当然風呂にも入っていなくて疲れているだろう。

 そんなことを考えながら風呂を洗っていると、リビングのほうで物音がした。少女が起きたのかと思いリビングへ戻ってみると、案の定少女が目をさまし、食卓の上においておいた料理を口に詰め込んでいた。


「ははっ、そんなに急がなくてもいいのに」


 声をかけると少女は驚いてのどに詰まらせたのか胸を叩き始めた。僕もそれに慌ててキッチンで水を注ぐと少女に手渡す。少女はそれを怖がりながらも受け取り、一気に飲むことでどうにか詰まったものがとれたようだった。


「驚かせてごめん。僕は遠田 雅紀、うちのマンションの前に倒れていたのを運んできたんだ」

「それはありがとうございました。それとさっきはお騒がせしてすみません。何せ家から追い出されてから3日間何も食べてなかったもので。わたしは有明(ありあけ) (ゆう)といいます」


 よくできた子供だ。と僕は思った。身長から換算したが、この子くらいの年ごろは、年上に話しかけられても無視か緊張して固まるかのどちらかが多いというのに。それなのにこの子は臆することもなくきちんとしたというのかはわからないが、敬語で年上に対応している。


「追い出された、というのはどういうことなの?」


 さっきの言葉の中で、気になったところを聞いてみると、少女はそのままの意味ですと答えてくれる。

 要するには育児放棄だ。昔ネットで見た育児放棄はここまでひどいものはなかったが、親が育児の義務を放棄しているので間違ってはいないはず。僕は少女に食事の続きを促すと、遠慮もなく温まったグラタンをほおばっている。


「行き場所がないのなら、僕のうちにいない?やましいことはないんだけど、この通り一人暮らしだからね、話し相手がほしいっていうか・・・・」

「わたしとしてはありがたいですけど、雅紀さんとしては迷惑でありませんか?血縁者でもないわたしが一緒に住んでいると、あらぬ疑いをかけられたりとかは」


 血縁とか難しい言葉よく知ってるな。などと考えながら、由の言ったことを考えてみる。たしかにこんな少女と一緒に暮らしていたら、疑いはかけられるかもしれない。でも放置しても自分の良心というか、人として大切な部分を失ってしまう気がした。


「それに関しては問題ないよ。僕自身が世間では精神病患者って呼ばれるものだし、それに隣は知り合いの医者が住んでるから、最悪その人に頼ればいい」


 本当は雄二さんにはあまり迷惑はかけたくないのだが、少なくとも後見人のような立場に人間は必要になる。それに僕には信用できる人もいないから、そもそも雄二さん以外には任せられない。


「それでは雅紀さん。不束ものですが、よろしくお願いします」

「ははっ、それじゃ夫婦みたいだよ」

「///」


 人間不信の青年と、成長しすぎた少女の物語の始まりだ。


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