第8話 タグアのボス ビッグタグア
「ご主人様、どうします?」
「逃げれられば逃げたいんだけれどそれじゃあ後で誰かが困るよね。…倒せるかな」
慎也たちの目の前にいるのは体長1メートル半位の化け物、ビッグタグアだ。普通のタグアが中型犬と同じくらい、大きくてもせいぜい1メートルあるかどうかなのに対して、ビッグタグアは平気で1メートルを超えているのがわかる。下手したら自分の身長より大きいかもしれない。もちろんその化け物は自分たちを睨みつけ、攻撃のチャンスを伺っている。
ビッグタグアが動き出した。慎也のほうへ向かって一直線に突っ込んでくる。まさに猪突猛進の勢いだ。慎也はすぐに横へ回避した。よけるのに成功はしたが、あとちょっと遅かったら確実に突進に巻き込まれていた、そう思うと慎也の背筋が凍った。
「巨大な氷の神、今こそその力を我に貸し与えたまえ!」
サーリャが詠唱を始めた。慎也もサーリャのカバーに入る。そしてビッグタグアの周囲に巨大な氷の壁が作られ、ビッグタグアはその中に閉じ込められた。
「今です!その氷の中に炎を!」
サーリャの声がとぶ。慎也は壁の内側を狙い炎を放った。しかし
「ぐああぁぁぁぁ」
ビッグタグアが体当たりで氷の壁を突き破った。炎を放ったせいで氷が少し溶けてもろくなってしまったのだろう。だが慎也たちにそんなことを考えている余裕などない。
しかも不幸は続く。さっきのビッグタグアの鳴き声を『自分たちのボスの危機』と感じたのか、4匹のタグアがどこからかこの戦闘に加わってしまった。しかもビッグタグアの指示の下慎也とサーリャを取り囲むように陣を敷いてきた。
「まずいね。どうやって抜け出そうか」
「私が右のタグアを抑えますから慎也様はそのうちにこの中から脱出してください。」
「いや、それだとサーリャが」
「慎也様は遠距離技があります。でも、さっきの壁でこいつらに氷が効きにくいのが分かりました。ですので、私が近距離で決めます。」
サーリャはそう言うとすぐにビッグタグアから一番遠い場所にいた一匹のタグアに狙いを定め、氷の塊をぶつけた。
「ギャッ」という鳴き声をだしタグアは倒れる。しかし当たった場所が急所ではなかったためすぐに起き上がってしまった。サーリャが応戦しているものの別のタグアが加勢しようとサーリャを狙っている。
もちろんこの状況では圧倒的に不利だ。その時にタグアが加勢したため陣が少し崩れ、一箇所だけガラ空きの場所を見つけた。
「サーリャ!こっち戻って!一箇所だけノーマーク!」
そう言って慎也はそこに向かって走り出した。それがタグアの巧妙な罠であると気づかずに。
走っていった慎也に別のタグアが後ろから襲いかかった。
「うわっ」慎也声を出す。タグアに倒されてしまった。すぐに剣を構えたが、タグアに完全に抑えられてしまった。脱けだせない。また、剣を握っている右手が動かせない。遠くの方ではビッグタグアがこちらへ向かっているのが見えた。まさに絶体絶命。このままタグアたちの餌になってしまうのだろうか…このまま死んでしまうのだろうか…自分の身に『死』という恐怖に満ちた言葉が近づいているという感覚にパニックになる。
抜け出せないことを悟り、覚悟しようとした瞬間、剣が何かに刺さるような音がした。そのあと「ギャー」という鳴き声が聞こえた
鳴き声を発したのは慎也を抑えていたタグアだ、タグアはそのまま怯んだ。その隙に慎也は抜け出す。すぐに離れてから様子を見てみると慎也を押さえつけていたタグアにはサーリャが使っていた剣が刺さっていた。おそらく彼女が剣を投げて見事にタグアに命中したのだろう。
「慎也様!逃げてください!ビッグタグアが迫ってます!」
慎也は我に返った。そうするとすぐそこまでビッグタグアが迫っていた。慎也はすぐに左へ回避を試みる。どうやら間一髪、助かったようだ。右肩にはビッグタグアの毛でこすられた跡がある。
「助かった。」
慎也はつぶやく。が、もちろんこのままでは追撃がくるのですぐにサーリャと合流しようとする。現に今サーリャは剣を投げてしまったため武器を持っておらず技で応戦するしかないのだ。そんな状況でどれだけ持つかはわからない。
サーリャのもとへ向かおうとした時に後ろからビッグタグアが迫ってきた。しかし、狙いは慎也では無い。サーリャだ。
「サーリャ!危ない!逃げろ!」
しかし遅かった。サーリャが応戦していたタグア3体が一斉攻撃の体制に入り、サーリャが囲まれてしまった。慎也は剣を取り、道を切り開こうとする。技を使うことも考えたが自分の技は炎技である。これを放ったら間違いなくサーリャにも当たってしまう。
サーリャの方もビッグタグアの接近には気づいたようで回避しようとする。が、すぐにタグアの群れに取り囲まれてしまう。
「どうしましょうか……」
サーリャは逃げるチャンスを窺う。しかし、タグアが道を開けた瞬間ビッグタグアが入ってきた。見事な連携だ。その突進のスピードについていけずにサーリャの回避が遅れる。しかし、ビッグタグアの攻撃の回避には成功したものの、回避したサーリャの足に一匹のタグアが噛み付いた。
「あっ」
サーリャは氷の塊をタグアの顔面に当てた。超至近距離での攻撃ということもありタグアは力無く倒れる。
サーリャはすぐに噛み付いていたタグアを外す。しかし、足には深い噛み傷があり出血もしている。サーリャはその痛みに悶える。
「あっ…くぅ」
サーリャが声を漏らしうずくまっていた。慎也はすぐにサーリャを助けに入る。しかしタグア数体の群れでも厄介なのにサーリャの周りにはビッグタグアまでいる。助けに入りたくてもそれは非常に困難な状況だ。
「サーリャ!大丈夫か!」
慎也は炎を使うことを決意した。多少コントロールすればどうにかサーリャには当たらず、タグアだけに当たるだろうと思ったからだ。一匹に命中すれば陣は崩れ、確実にタグアは一時離脱する。その時に救出できれば…
「いけ!当たってくれ!」
慎也は狙いを定め、炎を放った。その炎は真っ直ぐと一匹のタグアに命中した。タグアは鳴き声を上げ、その場でジタバタし己の身で燃え上がる炎を消そうとする。
「サーリャ!」
慎也はその隙にサーリャを抱きかかえ、離脱する。傷は多少深いが命に関わることはないみたいだ、しかし、出血がひどい。
「慎也様……来てくれたんですね….」
「当たり前でしょ。なんでサーリャを見捨てないといけないの?」
ビッグタグアは撤退を指示したのであろう。タグアの群れが引いていく。慎也は昼間休憩した川のところまで行った。サーリャを寝かせ、まず傷口の少し上の方を
「まず、消毒しないと、この薬草でいいのかな?」
といってカバンから薬草を取り出す。
「と、言ってもこれ、どうやって使うんだろ?」
慎也はこれを貰った時に使い方を聞かなかったことを後悔した。そのまま患部に貼り付けるのはありえないし、じゃあすりつぶす?それとも、茹でたりしてエキスでも取る?全く答えがわからない。そうこうしているうちにサーリャの足からは血が流れ出る。
「慎也様…回復技使えませんでしたっけ…」
その言葉に慎也はハッとなる。そういえば使えた。気が動転して忘れていた。すぐにサーリャの足に手を当て、念じてみた。回復技の出し方がわからない以上どうにか自分で考えるしかないのだ。初めてサーリャと出会った時みたいに念じてみる。
すると慎也の手から緑色の光があふれた。サーリャの傷が見る見るうちに癒えてきた。傷口が完全に閉じ、出血が収まったところで回復技の使用を止めた。
「ありがとうございます。慎也様。」
「いや、お礼はいいから。それより足の具合はどう?」
「はい、痛みも引いて結構いい状態になってきました。」
「そう、よかった。」
慎也はそう聞いて安心した。しかし、安心すると今までの疲れどっと出てくる。座り込んで再度、会議をはじめる。
「さて、どうする?タグア。一応討伐規定数は倒したからこのまま帰っても依頼は成功になるけど。サーリャも怪我したんだし、帰る?」
しかし、サーリャはその提案に首を振った。
「いいえ、ここであいつを倒しておかないと、最悪死んでしまう一般人が出てくるかもしれません。ここで狩っておきましょう。」
「いや、もっと他にランクが高い人もいるでしょ。その人たちに任せておいたら?」
慎也も内心は倒しておきたいと思っている。しかし、サーリャはこういう時に自分のことを我慢してしまう性格だとこの数日で知った。慎也自身の回復術も完全とは言えないのでちゃんとした所で診てもらったほうがいいと思っているだけだ。
「いいえ、こんなことでほかの人の手を煩わせたくないんです。ただでさえ人手不足なのにこんなところで高いランクの人が依頼を受けたらその人が受けられるほかの依頼で助けられる人が減っちゃうじゃないですか。それが嫌なんです。」
その言葉に慎也はとうとう折れることにした。
「わかった、じゃあ、どうやって狩ろうか。」
「あの、ちょっと試してみたい技がありまして。威力は高いんですけれど使えるのはせいぜい一回限りなので確実に命中できるように引きつけておいてくれませんか?」
「うん、さて、ビッグタグアを探しに行こうか。」
しばらく川沿いに行くとビッグタグアが群れを引き連れ、移動している最中だった。慎也とサーリャは音を立てないように近づく。
「それじゃあ慎也様、お願いしますね。」
サーリャが安全な場所に離れたのを確認すると慎也は小さな炎をビッグタグアへ向けて放った。ほとんど威力はないが、気をそらせるのには十分だ。ビッグタグアはすぐに慎也の方を振り向いた。子分のタグアたちはすぐに慎也を取り囲もうとする。お互い戦闘態勢は整った。
ビッグタグアは「ぐああぁぁぁ」という鳴き声を発した。結構離れていても非常に大きな音に感じる。
「ビッグタグア!勝負!」
慎也はビッグタグアに向かって突っ込む。ビッグタグアも慎也の方へと突進してきた。どんどん距離が縮まっていく。その時
「今だ!サーリャ!」
「世界を凍らせし氷の神よ、その氷の槍を召喚せよ!」
サーリャが詠唱した。その後、上空から落ちてきた数百本もの氷の槍によってビッグタグアが貫かれた。どうやら発動は成功してようだ。ビッグタグアは痛みのあまり大きな鳴き声を上げる。しかし、戦況は一気に慎也たちの方へ有利に傾いた。
「ビッグタグア!これが最後だ!」
血 まみれになり、足を貫かれて動くことのできないビッグタグアの体へと剣を突き刺す。そこから血飛沫があがる、しかし、傷口は浅い。抜いては突き刺す。そして切りつける。慎也の顔に返り血がつく。一回一回刺すごとにビックタグアは鳴き声を上げる。だがそれを繰り返すほどにビッグタグアの生気がなくなっていった。鳴き声もどんどん小さくなっていく。
胸に一撃を加えた時、1メートル半ほどの巨体はそのまま地面に倒れた。ドシーンという音が鳴り響く。タグアたちは今、するべきことが分かっているのか、一目散に逃げ出す。慎也はそれを見届けてから
「ヨッシャー、勝ったぞっ」
慎也にすごい達成感が生まれる。はっきり言って高校に受かった時よりその喜びは大きい。サーリャはこちらへ向かってきながら
「おめでとうございます。慎也様。」
という。足の方は大丈夫みたいだが明らかに疲れている。あんな大技を使ったんだから当然か。
「サーリャ、大丈夫?なにかすごい技使ってたみたいだけれど。」
「はい、慎也様こそあのあとの攻撃の時何かお怪我とかされていませんか?」
「いや、大丈夫。ところでサーリャはどこであの技使えるようになったの?」
「あの技ですか。あれは奴隷だった時に紙切れとして落ちていたのを拾って読んだんです。その時は技というものを知らなかったので軽く読んで終わりでしたけど。」
「へぇ、よく覚えてたね。」
「それより慎也様、ビッグタグア、剥ぎ取らなくていいんですか?」
「あっ、忘れてた。」
サーリャは刃物を取り出して毛を剥ぎ取り始める。慎也もサーリャとは別の場所を剥ぎ取る。流石にまだ慣れたわけではないのでペースは遅い。
「あれ?慎也様って血の匂いダメじゃないのですか?」
「あれだけ攻撃したんだよ。もう慣れたよ。」
そうですね、とサーリャは笑う。色々と話しながら剥ぎ取って一時間ほど経った。剥ぎ取った量は20キロ位にもなっていた。一人10キロずつ持つことにした。慎也は15キロ持つからサーリャは5キロ位、といったのだが、サーリャに反対されてあっさり折れてしまった。
「さて、帰ろうか。もうこんな時間だし。」
「7時に間に合いますかね、もう日が沈みそうですよ。」
「多分無理だと思うなぁ。アンナさんたちに心配されちゃうね。」
「ええ、そういうことなので、早く帰りましょう。お腹好きましたし。」
そう言って笑う二人の背中を夕日が照らしていた。
毎回毎回意味不明な戦闘シーンになってしまってます……
強引にラストの方に引っ張ってしまいましたし……
ちなみに、次ですが、明日か明後日には出します。
こんな作者の自己満足だけで進んでいっている小説ですが。今後ともよろしくお願いします。