第7話 タグア掃討
朝7時、街は既に目覚め始め、いつもの活気が戻ってくる。心地のよい鳥の囀りが聞こえる。こんな気持ち良い朝に起きられない人間が一人、いるわけで……
「本当にこんなことしてもいいんですか?」
「それくらいいいでしょ。朝食まで寝てる奴が悪いんだから。」
「それはそうですけれど……」
朝からこんな会話をしているのは、サーリャとミリエラ。ミリエラはなぜか手に水鉄砲を持っている。そして、なぜか忍び足で慎也の部屋へと入っていく。
「それじゃあ、やりますか。」
ミリエラが水鉄砲を構える。その狙いを慎也に定めた。
ミリエラが引き金を引いた。ピュッという音と共に水が出て慎也の顔に水が掛かる。
「うわっ」
慎也がとび起きるとそこにはサーリャとなぜか水鉄砲を持ったミリエラの姿が。
「あんた何時まで寝てればいいの!?サーリャちゃんあんた起こしに行ったけど起きないからってこの部屋と一階を何回も往復してたんだよ。」
「だからといって寝起き水鉄砲はないんじゃないですか?」
「ここまでやらないと起きないあんたが悪い!」
ミリエラは有無を言わせぬ口調で慎也に迫る。これ以上やっても多分口喧嘩ではミリエラに負けると思い潔く負けを認めることにした。
「うん、素直でよろしい!」
「はぁ、そうですか…」
「慎也様すいません。なんかこんなことになってしまって。」
サーリャが申し訳なさそうに謝ってくる。
「いや、サーリャは悪くないから、心配しなくていいよ。」
「でも私が一階と慎也様の部屋を往復しなければよかったわけですし…」
「だからサーリャは悪くないから、大丈夫だから。」
謝り続けるサーリャをなだめて、二人を一旦部屋から追い出して着替える。一階へ降りると昨日と同じような朝食が並んでいた。
「慎也君、来るの遅いよ。いったいどれだけ寝てたの。」
「はぁ、すいません。」
朝から完全にボーっとしている慎也、しかし、寝ぼけていたとしても一応食事はしないといけないといけない。多分食べたら目がスッキリ覚めるだろうと思い、朝食にする。
「慎也様、今日はいったいどうすることにします?」
サーリャが話をきりだす。昨日はギルドの方が勝手に手配してくれたのだが今日は違うだろう。自分の身の丈にあった依頼を選び、それをこなさなければならない。まず自分たちの実力がどれくらいの位置にあるのかもよくわかっていない慎也と基本そういうことには最小限の口出ししかしないサーリャではそれは難しいことになるだろう。
「依頼選ぶので一時間も使ったら元も子もないもんね。」
「あんた達、それなら討伐依頼でも受けたら?そろそろタグア辺りだったら間引きの時期だし、簡単なのもあるかもしれないよ。」
モンスターにも生息数が多い時期と少ない時期がある。特にこの季節は子供だったタグアが大きくなって自分で獲物を取り始める季節なのだ。それにより人や家畜などに被害が出ても困るのでこうして島のいたるところで間引きの依頼が出る。タグアはもともと生息数が極めて多いのでこの時期になると依頼が殺到するのだ。
アンナの提案に乗っかり、今日はタグア掃討の依頼を探してみることにした。朝食を食べ終わり、以来へ行く準備を始める。まあ、持っていくものは昨日と同じなので準備にはあまり時間がかからない。しかし、炎の書も一応持っていくことにした。弱い奴相手に練習できたらいいなと思ったからだ。
準備を終えて一階に降りたら、サーリャが椅子に座って待っていた。
「じゃあ、準備できたし、そろそろ行こうか。」
「そうですね。欲しい依頼が誰かに取られるっていうのは困りますしね。」
「何回も言うようでしつこいと思うけど、生きて帰ってきてよ」
アンナに見送られ、ギルドへ向かった。
ギルドは相変わらずの盛況ぶりだった。しかし、よく見てみると普通はDランクレベルの依頼がEランクやFランクに降りているなど、結構人手が足りないということが分かる。Fランクの依頼カウンターへ向かった。昨日と同じ人だった。
「いらっしゃいませ。ギルド登録証をお見せください。」
昨日と同じ言葉だった。慎也はギルド登録証を渡す。
「はい、Fランクですね。確認しました。では、どのような依頼を受注されますか?」
「簡単なタグアの掃討ってありますか?」
「はい、たくさんございます。」
そう言ってから受付嬢は依頼のリストを慎也たちに手渡した。そこには討伐目標数や場所などで分けられたたくさんの依頼があった。しかも、そのほとんどがタグアの討伐だ。
「こんなにあるんだね。タグアの討伐依頼」
「大量発生って恐ろしいですね。」
その大量の依頼の中から10匹程度の討伐依頼を探すのに5分くらいかかってしまった。
「すいません。これでお願いします。」
と言って慎也が選択した依頼はリストの中でも簡単な方の10匹くらいのタグアをここから1時間くらい行ったところにある平原で狩るといったものである。
「かしこまりました。それでは、こちらの方にサインしてください。」
と言って出されたのは受注書。二人はそれぞれサインをする。
「はい、ありがとうございます、これで受注完了となりました。初の掃討依頼みたいですけれど頑張ってください。」
受注カウンターを出て、いつもの出発口へ向かう。出発口への道の途中にある消耗品などを売っている店はいつもどおり活気がある。出発口を出てからは幾つか分かれ道があり、それをまっすぐ進む。
その時サーリャが
「今日は15番出入り口って書いてありますけれど、さっきまっすぐ進んだ分かれ道に15番って文字があったのですけれど、道間違えていませんか?」
ちょっとの間のあと、慎也は地図を確認する。あれ?ここ、行きすぎてない…
「えっと、なんでそんな肝心なことすぐ言ってくれなかったの?」
「なんか色々と考え事していたみたいでしたので。声をかけない方が良いかなと思いまして。」
午前中では当然戻ってくる人より出発する人の方が多い。なんとなく道間違えたというのが恥ずかしいのに…しかもここはまだ広い通路だ。ああ、道をすれ違う人の視線が痛い…
しばらく戻っていくとサーリャが言っていたとおり15番出入口という表示を見つけ、そこを曲がる。曲がってからしばらく行ったら頑丈そうな扉があった。
「ここが出口みたいですね。」
サーリャが扉を開ける。昨日とは違って結構軽そうに扉を開けていた。見てみるとこの扉、なんか厚さ10センチくらいしかないんですけれど…という感想を抱いてしまった。普通の扉ならそれくらいでいいのだろうが街を防衛するために設置された扉だ。大きなモンスターが体当たりでもしてきたら間違いなく壊れてしまうだろう。
草原まではギルドに支給された地図もあるし、途中までの道のりは街道を通っていく。
街道とはなにやら特殊な結界が貼られているのでモンスターが出現する心配も少なく安全らしい。そのため、多くの人々が行き交う道になっている。
しかし、財政の問題でこの街道は途中で途切れる上、行き先もそこまで大きい街とは言えないみたいなので街道を出て、獣道を進むまでには結局一人の行商人にしか出会わなかった。
街道の出口に差し掛かり、とうとう戦闘態勢を整える。
「さてと、そろそろ本番だね。」
「ご主人様。準備できましたか?」
「うん、行こうか。」
街道を外れ、人一人が通るのが精一杯の獣道を行く。森の中ではないため日は差し込んでいるものの一メートルくらいの背丈の植物が群生しているためその中を進むのは難しい。その中をしばらく歩いていくと視界が開け始めて目的地の平原にたどり着いた。
「うわぁ。綺麗なところだね。」
そういう慎也の目の前には色とりどりの花と一面に広がる黄緑色の絨毯みたいな草原が広がっていた。普通に観光資源の一つにしてもおかしくないレベルである。こんなところでピクニックでもしたら気持ちいいだろうな。
「そうですけれどなんか変じゃないですか?こんな綺麗なところに他のモンスターが一匹も見当たりませんよ。」
言われてみればそうだ。あくまでタグアみたいな肉食のモンスターがそれこそ10匹もいるのだ。捕食対象の生物がいないというのもおかしいだろう。餌となるモンスターがいなかったら捕食者のタグアもどこか別の場所に移ってしまうなぜだろうと考えていた時、向こうの方に灰色の影が見えた。タグアだ。
「いましたよ。どうします?」
「後ろから気づかれないように行こうか。」
二人は極力音が出ないようにタグアへ近づく。幸い、地面が柔らかい土という地形も手伝って気づかれないまま10メートルくらいまで近づけることができた。3匹のタグアが一匹のベスチアを狩ろうとしている。よい連携でベスチアを追い込もうとしているところだ。
「今だ!」慎也はこちら側から一番近い位置にいた一匹のタグアに狙いを付け、剣で斬りかかった。タグアもそれに気づき威嚇する。
「おりゃ!」振り下ろした一撃はタグアのしっぽに毛に命中した。しっぽの毛は何本か切れて落ちていく。その時に
「ギャー!」
しっぽの毛が切られたタグアが鳴き声を上げる。その声に他のタグアも気がついて威嚇をはじめた。鋭い目付きでこちらを睨んでくる。その隙にというわけか攻撃が中断されノーマーク状態となったベスチアは一目散に逃げ始めた。しっぽを切られたタグアは向きを変え、飛び掛ってきた。が、そのタグアの頭に氷の塊が命中した。サーリャがきれいに決めてくれたようだ。
「慎也様!とどめ!」
サーリャが言う。慎也は剣をタグアの首元に刺した。すぐに動かなくなったので一匹は仕留めた。そこに二匹のタグアが一斉に襲いかかる。まずい、逃げ道が無い。
「慎也様!そこから思いっきり滑り込んでください!」
サーリャの指示に従い、滑り込む。そこには氷が張られていて見事に飛びかかってくるタグアの下を滑り込んで攻撃をかわすことに成功した。
「さて、どうしたものかな」
と悩む慎也。ここで火を使ってしまったら草原は一瞬にしてただの焼け野原へと変貌してしまうだろう。 それはまずい、となると自分は剣しか使うことができないことになるのだ。サーリャがいるからまだマシなものの、タグアのターゲットは完全に慎也だ。
「ギャー」とタグアが再び鳴き声を上げる。しかし、威嚇とはどうも違う鳴き声だ。二匹が鳴き始めた隙に剣を一匹のタグアに突き刺す。急所にあたったようでタグアはそのまま倒れた。剣を引き抜き次のタグアへ攻撃する。サーリャも剣を構えこちらへ向かってくる。
その時、数匹のタグアが現れた。まずい、さっきのは仲間を呼ぶための鳴き声だったのか。慎也の顔には焦りの色が伺える。
「どうします、囲まれそうですよ。」
「一匹殺して突破口を作るしかないよね。」
一番小さかったタグアに狙いを定め、一斉攻撃する。慎也の剣は右を、サーリャの剣は左をそれぞれ攻撃する。
「この状況じゃ埒があきません。一回引きましょう。」
サーリャが言う。慎也は当然納得しタグアの群れから離れた。しかし、簡単には逃がしてくれないようで2匹のタグアがついてきた。
「付いてきやがったよ、あのタグアたち。」
「私に任せて下さい。」
サーリャは狙いを定めると氷の塊を2匹のタグアに放った。狙いは的確で両方とも外すことなくタグアに命中。二匹はそのまま倒れた。しかし、倒したのではなく昏倒させただけだろう。
「追撃が来るかもしれないのでさっさと行きましょう。」
「それはそうなんだけど、いつのまにそれ詠唱なしでできるようになったの?」
「いつのまにかできるようになっていました。」
慎也はそのとき思った。負けた。完全に実力でサーリャに負けた。自分はまだ炎をまともな攻撃技にすら出来ていないのに……
近くに川を見つけ、そこで作戦会議を兼ねて休憩することにした。
「完全に大群になりつつあると思うんだけれど、どうしたら勝てるかな?」
「一気に焼き払ってしまったらどうですか?」
「いや、それじゃあここ焼け野原になるだけでしょ。」
「こんなにあるんですからちょっとくらい焼け野原になっても誰も気にしませんよ。」
「多分誰か気づくと思うけれど。」
「えっ、そうですか?こんな所誰も来ませんって。」
そんな冗談(サーリャは本気にしてるかもしれない)を挟みつつ、結論としては結局
『焼き払ってみましょう』という結果になった。慎也は「焼け野原に変わる」と反論したのだが、サーリャが
「じゃあ、そこに私の氷ぶつけたらいいんじゃないですか?氷って溶けたら水になるみたいになりませんかね。それ以外に方法思いつきますか?」
その言葉で慎也は折れ、再びタグアを探すことになった。しかし、さっき戦闘を行なった場所に戻ってみてもタグアは居なかった。でも足跡が残っていたためそれを追うことにした。
しばらく歩いていくとタグアが生肉をほおばっていた。どうやら捕食に成功したみたいだ。捕食中ほどよい攻撃機会はそうそうないだろう。なにせ人間にせよモンスターにせよ食事中というのはどうしても警戒心が緩むものである。慎也は右から、サーリャは左からそれぞれ間を詰めていった。5メートルくらいのところで慎也が火を放つ合図を出す。サーリャの了解のサインが見えたところで攻撃を開始する。
「荒ぶる炎の神よ、今ここに小なる炎を起こしたまえ!」
慎也は詠唱を始めた。「大きな炎」にしても良いのだがそれ一発はなってすぐバテてしまうというのは困る。エネルギーの消費量がわからない以上、消費量がだいたいだがわかっている技の方が汎用性が高い。その詠唱の声にタグアが一斉に慎也の方を向く。しかし遅かった。振り向いたところは慎也の炎技によって火の海となった。
「サーリャ!鎮火!」
サーリャが氷を炎にぶつける。結構大きな氷をぶつけたのだろう。一発で水蒸気があがり日は消えた。
火が燃えていたところには5体のタグアの焼死体があった。これで合計7~8匹のタグアを討伐したことになる。
「あと二匹かぁ。」
慎也がつぶやいたとき、大きな獣の遠吠えが聞こえた。
「慎也様!何か来ます。」
その気配は慎也も感じていた。向こうのほうから灰色の毛のモンスター。いや、タグア位のサイズではないだろう。明らかに普通のタグアより大きい。
「グアァァァ」
完全に姿を現したそのモンスターは普通のタグアでは無い、タグアの群れを率いる群れの長。ギルドで念の為と説明は聞いていたから名前だけは知っていた。
「うそ、ビッグタグアかよ」
慎也はつぶやく。慎也が見ている先にいるのは、体長1メートル半ほどのタグアより明らかに強そうなモンスター、ビッグタグアだった。
相変わらず意味不明な戦闘シーンでしたらすいません。
戦闘シーンがこんなにも難しいとは……完全に甘く見てました…
次は、まあ、土曜日くらいになると思います。
感想や改善点等のご指摘、是非お願いします。ド素人なので自分ではあまりどこ直したら良いのかわからないので。