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四つの島  作者: ぎあん
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第6話 納品

 行きと同じ道を一時間ほど歩いて街へ帰ってきた。その道中にはなぜか一体のモンスターの出現もなく、順調だった。流石に荷物が重かったため、昼食を食べた泉で一休みして今、向こうの方に『第10番出入口』と書かれた扉が見えてきた。ようやく帰ってきた気分だ。

「はぁ、やっと街の入口に着いたね。」

「はい。今日は疲れました。早くと納品と報告して帰りましょう。」

と、かなり疲れている表情を浮かべているサーリャ。途中に休憩した泉のところでサーリャの持っていた木を持ち上げてみたのだが、平気で10キロ位ありそうなほど重かった。

 一応彼女には「なんでこんなに持ってきたの?多分こんなに要らないと思うけど。」とは質問してみたが、サーリャの回答は「もう半分くらい来たのですからいいじゃないですか。」というものだった。答えになっていない気がするが、まあ気にしないことにした。

 早速扉を開け、中へ入る。今日の朝に通ってきた通路を歩く。通路が広くなってきた時に後ろから

「お!アンタら10番から来たということは初依頼か?どうだった?」

という声がした。振り返るとひとりの冒険者がいた。多分依頼の帰りだろう。

「はい、ちゃんと泥はもって帰ってきました。あなたはどんな依頼で?」

「ああ、俺は単なるタグアの掃討だよ。」

「タグアってあの灰色の毛のモンスターですか?」

「おお、よく知ってんな。」冒険者は感心する。

「ええ、そりゃ、5匹ほど倒しましたもの。」

「はい!?タグア出たの!?しかも五匹も。よく生きて帰ってきたな。」

冒険者の人は驚いた表情をする。タグアってそんなに強かったっけ?サーリャの方を見ると「そんな強いモンスターでしたっけ?」と耳元で囁いてきた。

「あんたたちついてないね。タグアが出ることなんて滅多にないんだけど、もし出たときの死亡率3割。まあ泥の依頼は超初心者専用だから対応できないのも仕方ないのかもしれないけれど。」

死亡率3割……その言葉に背中が凍りついた。死ななくてよかったぁ。

「そういえば、なんで泥なんて採ってくる必要があるんですか?」

慎也が泥の採取をしているときから疑問に思っていたことを聞いてみた。ちなみにこの疑問について泉でサーリャと討論したのだが出てきた案は「草の生育に使う」だとか「泥遊びするための泥の不足」だとかまともな答えが出なかった。最後の意見は絶対にありえないと思うが。

「ああ、それはあの泥にはなにやら美容効果があるらしくてギルドが独占的にその泥を売っているんだ。で、その売り物を入荷するためにこの依頼が出るわけ。どうせ片道1時間ちょっとで沼まで行けるんだし。ギルドが依頼主だからこの依頼には違約金がないんだよ。ギルドが今補充しなければ品切れの危機なんて時までこの依頼出さないわけがないから。」

「へぇ、そうなんですか。」

 なんだか謎が解けてスッキリした気分。そのままどうでもいい世間話をしながら歩くこと約10分。ギルドの出入口にたどり着いた。あぁ、荷物が重かった。

「じゃあ、あんた達はFランクカウンターだろ。こっちは一応Dランクだから、それじゃあこれからも頑張れよ。」

 さっきまで話していた冒険者と別れ、Fランクのカウンターへ向かった。今度は結構空いていた。多分窓口が多いからだろう。カウンターへ向かうと受付嬢がニコッとした営業スマイルをしてきた。

「ギルド登録証と報酬カードをお見せください。」

「あっ、はい」と慎也は登録証をカウンターへ置く。そのあとカバンの奥の方に入っていた報酬カードをカウンターへ置いた。受付嬢はカードを見る。

「はい、確認しました。それでは納品をお願いします。」

やっとこの重さから解放される!と思いながら慎也は泥の入った袋をカウンターへ置いた。そのあとサーリャの方を振り向き、

「その木、持とうか?」

「いいえ。大丈夫です。ご心配なさらず。」

 この状態で男である慎也は持たないとまずいと思い聞いたのだが…まあ本人がいいって言っているしいいか。

「はい、納品された泥の方を確認しました。依頼は完了です。ですので、初報酬の200リラを入金しておきます。」

 報酬200リラ。確かサーリャに付いた売値が300リラだったから、200リラが高いのか300リラが安いのかどっちなのだろうか。と考えるとあの奴隷商人のムカつく顔が頭に思い浮かんでしまった。今街で出会ったら間違いなく殺してしまうだろう。それほどムカつく人間だったのだ。

「あと、依頼の道中いろいろ採取したりしたんですけどどうしたらいいんですか?」

 慎也が剥ぎ取ってきたが入った袋を示しながら言う。

「そちらの方は自由に使っていただいて結構です。それで何か作るのも良いですし、ギルドの方へ売っていただくのも良いです。あと、売っていただく場合はギルドの売却カウンターへ行ってくださいね。そこではランク等関係ありませんので。それではギルド登録証と報酬カードをご返却します。」

 処理が終わったため二人はカウンターを出た。

「取りあえずこれ邪魔なので売っちゃいましょうか。案内図によるとそのカウンターは二階みたいですよ。」

「この建物って2階あったんだね。」

「そうですね。私もさっき知りました。なにせ昨日はあまり建物の案内図を見ていなかったので。」

「そうだね。そういえば昨日は次の食事にも困っていた状況だったからね。」

 2階へ向かう階段を見つけ上がる。1階は冒険者のためのスペースが多く賑やかだったのだが2階は会議室等ギルドの運営や事務に関わる部屋が多いのだろう。1階と比べると非常に静かだ。また、この階にはあまり立ち入って欲しくはないのだろう、売却カウンターの場所を示す張り紙が非常に多い。この静かな雰囲気に少しだけ緊張してきた。

 しかし、カウンターの周囲は他の冒険者も二,三人居てなんとなく安心した。

「いらっしゃいませ。売却カウンターです。今日は何をお売りになるのでしょうか?」

係員はマニュアルを読み上げたかのように言った。慎也は素材のはいった袋を台の上に置くと

「これをお願いします。」

と袋の中を開けた。確認するのだろう。

「はい、かしこまりました。時間がかかりますのでそちらでお待ちください。」

 示された方には何台かのソファーがあり、どこかの小さな駅の待合室みたいなものになっていた。二人はそこに腰掛けて座る。

「ご主人様、向こうに無料のドリンクコーナーがありましたよ。何かいりますか?」

「うーん、じゃあお茶でいいよ。」

「はい、分かりました。」

 サーリャはドリンクコーナーへ向かっていった。一時間半くらい何も飲んでいなかったので、結構喉が渇いている。しばらくするとサーリャがコップを二つ持って戻ってきた。

「ご主人様、どうぞ!」

渡されたコップには紅茶が入っていた。なぜにコップで紅茶?せめてコップじゃなくてカップで飲みたかった。でもそんなこと言っても仕方がないので飲むことにした。ほどよい苦味があって美味しい。

「はぁ、落ち着くね。」

とのんびりしている時に「片津慎也さん、換算が終わりました。」という声が聞こえた。もうちょっとゆっくりしたいのだが待たせるわけにはいかないのでカウンターへ向かった。

「それではこちらを全て150リラで買い取らせていただきますがよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします。」

「分かりました。それでは報酬カードをお願いします。」

慎也は報酬カードを出す。ここでも使えたんだ、これ。納品カウンターではどのように入金される仕組みになっていたのか分からなかったのだが、ここでは手元が見える。貯金のしくみは単純で増減される金額を記入して何か特殊な技を使って確定するみたいだ。

「ありがとうございました。今後ともごひいきに。」

 係員は報酬カードを慎也に返してなにやら帳簿みたいなものをを付け始めた。

「終わったみたいですし、そろそろ帰りましょうか。」

「うん、今何時くらいかな?」

「そこの時計は6時を示していますよ。」

「あ、そう。結構時間かかったんだね。」

階段を降り、ギルドを出る。さっさと宿に戻ってゆっくり休もう。

 20分ほどかかり、宿についた。店の前ではミリエラが忙しそうに夜からの開店準備を進めていた。ミリエラが気配を感じたのか、こちらを振り向いた。

「あっ、お帰りあなたたち。よかった、生きて帰ってきたんだね。」

ミリエラはなぜか感動したような口調で言う。

「初日から二人とも死んでたら何のために冒険者になったんですか。」

 慎也が冗談半分で言う。ミリエラも「そうだね」と返す。その時にアンナが「ミリエラ、何サボってんの!もう」と言いながら店から出てきた。そして二人を見てから。

「お帰り、あんたたち。7時には間に合ったね。ちょっと早いけどご飯にしようか。取りあえず入った入った!」

 アンナに急がされるように店の中へ入った。今朝朝食を食べたテーブルを見てみると、そこにはなぜかごちそうが並んでいる。

「なんでこんなごちそうが並んでるんですか?」

「わからないのかい?あなた達二人の初依頼成功記念だよ。」

というアンナ。どこからかクラッカーを取り出してきて鳴らす。そんなアンナにミリエラが耳元で

「お母さん!いつまでサーリャちゃんに木を持たしておくつもりなの!?」

「あっ、忘れてた。」

 すぐにアンナは何もなかったかのような顔でサーリャから木を受け取って奥に持っていった。ミリエラに聞くとどうやら奥の裏路地の方に一個倉庫を借りているそうだ。

 しばらくしてアンナが戻ってきた。3人は既に席に座って待っていた。

「さあ、食べよう。」

その声を皮切りに夕食が始まった。メインはターキーの丸焼き。それに他にも豪華な品が並んでいた。

 食べ始めてから20分くらい経ったときアンナが

「じゃあ、そろそろ開店だから先に失礼するよ。二人はまあ、ゆっくり食べてていいから。」

 そう言ってアンナは席を立つと店先に置いてある札を準備中から営業中に変え、早速一人の客が流れ込んできた。昨日炎の書をくれた人だ。

「ああ、ジン、珍しく早いじゃないの」

「今日は一日中街にいたからな、おっ、昨日の坊主もいるじゃないか。初任務行ったか?」

慎也はいきなり振られて少し困ったが「はい、成功しました。」と答えた。

「で、いくら貰えた?」

この質問に対し、サーリャに

「ねぇ、いくら貰ったんだっけ?覚えてないんだけど……」

「200リラだったと思いますけれど。」

「だそうですよ!ジンさん!」

「聞こえるか!で、いくらだ?」

「200リラです。」

ジンの突っ込みに対してサーリャが丁寧に答える。

「えっ、そんなに貰ったの。よくそんなにもって帰ってこられる余裕あんな。いや、二人だからそんなのものなのか?」

「え、値段って量と比例するんですか?」

「ご主人様、いくらなんでもそれは当たり前だと思いますけど…あと、報酬の金額くらい覚えておいてください……」

「えっ、そう?」

 自分ではあまり覚えておかなくてもいいのかなと思っているのだが、そう言われるとは……そのうち金銭感覚が無いと言われるのも困るし、今度からはちゃんと覚えよう。

「まあ、南島が豊かだっていうのもあると思うんだがな。」

「へぇ、そうなんですか。」

「ああ、でも南島も山脈超えると急に貧しくなるしな、西島と東島なんてもっとひどいぞ。だからそんな豊かではない所からここに身売りしたり冒険者になったりして南島に来る人が多いんだよ。」

「そういえば、サーリャってどこの出身なの?」

「私は一応西島の田舎の方ですけれと…」

「あっ、ごめん、聞かない方がよかった?」

「いいえ、とんでもない。」

「あんたたち、なんか入りにくい雰囲気を作らない!」

ミリエラがこの微妙に二人だけの世界になりつつあった雰囲気を変えてくれた。ありがたい。

「まあ、そういうことだから坊主もどっか行くときはその前にこの街でたんまり稼いでおけよ。そうすればしばらく困らないから。」

 ジンはそう言うとカウンター席に座りビールを注文する。店の扉が開いて客が入ってくる。どうやら昨日飲んでいた客が勢ぞろいしたようだ。

「おっ、サーリャちゃん。お酌してよ、お願いだから。」

「私でいいわよね。」

 ミリエラが客に向かって尋ねる。多分この質問にははい、またはYESという選択肢しかないだろう。「いや、サーリャちゃんが良い」という言葉の直後に後ろのほうで衝撃音とそのあとに少し血の匂いがしたのは気のせいということにしておこう。

「じゃああんた達、明日はどうするんだい?」

アンナが聞く。と、言われてもまだなにも考えていない。

「おーい、そういえば最近タグアが大量発生してるそうだぞ。」

「タグアはまだ早いんじゃないかね…」

「いや、人手が足りないんだとさ、それで10体程度だったらFランクでも依頼回ってくるらしいよ。有名な冒険者の噂も最近聞かなくなってきたし。」

「へぇ、戦争か何かが始まらないといいんだけれどね。」

 確かに不安だろう。この国では50年前くらいには戦争が起きていた。その負担を強いられるのは貴族ではなく一般市民だ。この国では戦争を負の歴史として二度と行なってはならない愚行としているらしいが、ほかの国が仕掛けてこれば話が変わってくる。

「それは困るからな、戦争となると冒険者はどこかの軍に入らされるんだろ、そんなしょうもないことで命を落としたくはねえからなぁ。」

「ほんと、この生活が続くといいんだけれどね。」

アンナがため息混じりに言う。

「じゃあ、慎也って言ったか?坊主も何か飲めよ。ビールだったら俺がおごるぞ。」

「いや、未成年なんで、お酒はちょっと…」

「酒以外何かあるだろ。酒以外でも俺がおごってやるから。」

「それでは、適当にジュースでも」

「はいよ」というアンナの声が聞こえた。向こうの方では復活したおじさんたちによってまたサーリャが絡まれるということになっていた。ミリエラが「鉄パイプ取ってくる」といって奥の倉庫の方へと走って行った。慎也はそれを止めに入る。それを見て笑うジンとアンナ。

「いや、面白くなるっていう予想、大当たりだね。」

アンナの一言にジンが「そうだな、今夜もうるさくなりそうだ」と答えた。

皆さんこんにちは、ぎあんです。

今回は、なんだか地味な回になってしまいました…

次はまた、へたくそな戦闘シーンです。たぶん木か金には投稿できると思います。

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