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四つの島  作者: ぎあん
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第5話 初依頼

 外はもう明るくなっていた。朝が来たのである。雲ひとつないほどの快晴。外からは活気のいい声と鳥のさえずりが聞こえている。しかし、そんな中起きられない人がいた。

「慎也様!起きてください!朝ですよ!」

慎也はその声でうっすら目を覚ます。「うーん、もう朝?」と寝ぼけた声を発しながらゆっくりと体を伸ばす。

「早く起きてください!」

その声で慎也が完全に目を覚ますと目の前にサーリャがいた。一瞬慌ててしまったが、すぐに冷静になる。

「なんでサーリャがここで俺を起こしてんの?」

「アンナさんから起こしてくるように言われたのです。もうすぐご飯ですよ。早く着替えて1階へ降りてきてください。」

 サーリャに急がされるまま着替えて一階へ降りた。服はアンナにこの街での標準的なものを用意してもらった。流石に制服姿で依頼を受けに行くというのはちょっとマズイであろう。着替えている時も眠気が取れなかった。慎也の遅刻グセはこの朝の弱さが原因なのだ。しかし、昨日は寝た時間が10時くらいということで結構スッキリ起きれた。普段なら平気で日付が変わる頃まで起きていて、翌朝起きられないという現象が続いていたのだが。

 一階へ降りると、美味しそうな朝食の匂いが漂ってきた。

「おっ、やっと起きたのかい。全く、寝坊するってことは夜寝られなくなるってことだよ、それで次の日も寝坊する。その悪循環のはじめを作っちゃダメでしょ。」

アンナがスープを取り分けながら言った。アンナに「おはようございます」と返して(話をごまかして)席へ向かう。

「慎也様、遅いですよ。何時まで寝てれば気が済むんですか。」

サーリャが呆れ顔で言う。そこにミリエラが「そうだよ!遅いよ」と追い打ち、いつのまにここまで仲良くなったのだろう。

「じゃあ、準備できたし、そろそろ食べようか。」

 アンナが食事の並んでいるテーブルに向いながら言った。テーブルの上にはパンにスープにサラダ、目玉焼きというオーソドックスな朝食が並んでいた。この人に出会えなければおそらく今朝の朝食はご模箱の中の残飯と公園の草と水道水のスープになっていただろう。ああ、アンナさんに出会えたことを本当に感謝しなければ。

 四人が椅子に座ったところで

「それでは食べようか。」

 アンナの言葉で食べ始める。料理は居酒屋の店主が作ったものとあってとても美味しい。慎也は申し訳なく思ったがアンナが「いいよ、これくらい」と言ってくれたことで少しだけ気が楽になった。

 話は今日の予定のことに変わっていく。アンナが話し始めた。

「そういえば、あなた達は今日どんな依頼をするつもりなの?」

「簡単な依頼をこなすつもりです。」

慎也は答えた。個人的には半日くらいで終わるようなものがベストだと思う。その時、ミリエラが慎也に向かって話し始める。

「じゃあ、多分泥の採取になると思うから、帰りにちょっと木を拾ってきて欲しいんだけど、いいかな。」

「木?そんなのいるんですか?」

ミリエラの言葉に首をかしげる慎也、

「泥沼の近くの木は結構質がよくて燃やすときによく燃えるの。でも、それだけのために依頼を出すと、そっちのほうが買うより高くつくから、とってきてくれる?」

「分かりました。こっちも居候みたいなものですから。で、どれくらいの量がいるんですか?」

「お母さん、どれくらいいると思う?」

「30本位あったらしばらく持つとおもうよ。」

「そう、じゃあ30本位お願いね。そこまで大きくなくていいから。」

慎也は頷くとスープを飲んだ。うん、これとても美味しい。

「ミリエラさん。他には何かいりますか?」

サーリャが尋ねた。

「いや、それくらい。それよりあなた達ついでに技の練習でもしてきたらどう?」

「はい、そうすることにします。」

「技の練習もいいけど夜の7時には帰ってきてよね。ご飯にしたいから。」

朝食を食べ終わり、ギルドへ向かう支度を整える。昨日貰った剣や技の書、薬草などをカバンに詰め込んで

「それじゃあ、行こうか。」

「はい、そうですね。」

「あんたたち!お弁当作っといたから現地で食べてらっしゃい。」

と、アンナが二人分の弁当を持って来た。朝から作っておいてくれたのだろう。慎也は弁当を受け取ってカバンにしまった。

「お弁当ありがとうございます。」

「大丈夫だと思うけど生きて帰ってきなよ。」

アンナの言葉に見送られ二人はギルドへ向かった。ミリエラに書いてもらってきたギルドまでの地図を確認しながら進む。

 20分ほどでギルドに着いた。昨日と相変わらず賑わっている。

「で、その泥の依頼ってどんな物なのでしょうかね。」

「うーん、よく分からない。」

二人は取りあえずギルドの受注カウンターへ向かった。10個位の窓口があり、そこでFランクカウンター、Eランクカウンターというようにそれぞれのランクでカウンターが分かれているようだ。混んではいたが、結構受注処理というのはスムーズに進むようでほとんど待たずに慎也たちの順番が来た。

「いらっしゃいませ、ギルド登録証をお見せください。」

慎也はギルド登録証明書、約してギルド登録証を受付嬢に提示した。

「はい、慎也さん、ですね。で、今日が初依頼ということでよろしいでしょうか?」

「あ、はい、そうです。」

「分かりました。では、初依頼ということで依頼やシステムなどに慣れていただくためにこの街の北側にある泥沼から泥を採取してくるという依頼になってしまうのですが、そちらでよろしいでしょうか?ちなみにこの依頼は失敗した際の違約金は発生しませんのでご安心ください。」

 受付嬢が依頼の受注書を見せながら説明してくる。サーリャはさっきから昨日貰った氷の書を読んでいた。頼むから説明聞いておいてくれよと思う。

「はい、それでお願いします。」

「分かりました。それでは、こちらの記名欄にお二人のサインをお願いします。」

と言って慎也にペンを渡してきた。先に慎也が記名し、そのあとにサーリャが記名した。

「はい、ありがとうございます。これで受注完了となります。依頼の完了報告と納品は報告カウンターでお願いします。」

と、言って受付嬢は袋を深夜に手渡した。

「こちらの方に目的地までの地図、依頼の案内と出現が予想されるモンスターの詳細な情報が書かれた冊子が入っております。あと、依頼の品はその中に入っている袋に入れて持ってきてください。袋は防水になっていますので。出発はこのカウンターを出口の方へ進んでいただき、出発口からご出発ください。それでは、任務遂行を期待しております。」

 受付嬢はそう言うと「次お待ちの方どうぞ」と言って待っている人を呼んだ。この受注にかかった時間が約3分ほど、なるほど、これはスムーズにいくわけだ。

「さて、準備できたし、出発しようか。」

「はい、そうですね。」

と、いうわけで二人は出発口へ向かっていった。

 出発口からは結構長い通路が広がっていた、中は広くて馬車が4台並んで走ることができるだろう。なかにはこれから依頼に行くと思われる冒険者が数名。途中で幾つか分かれ道になっていた。渡された地図のとおりに歩いていくと『第10番出入口』と書かれていた。

「ここですね。」

「じゃあ、行こうか」

 ドアを開け、外へ出たら完全に街の外だった。後ろには街を囲んでいるレンガ造りの壁がある。これがあるから街はモンスターに襲われにくいのだろう。

「えっと、この道をまっすぐ1時間ほど行けば沼にいけるそうです。でも行くだけじゃちょっとつまんないし報酬もそこまで良くなさそうなので何かとって帰ったりしましょう。アンナさんに頼まれた木の事もありますし。」

「うん、そうしようか。」

 二人は歩き始めた。最初の依頼としてギルドが用意しただけあって、目的地まではきちんと道があった。しかし、整備されているわけではなく、単に今まで何百人もの人が通ったため草が生えない地ができたといういわばちょっと道幅の広い獣道の状態である。サーリャはそれなりに歩けてはいるが、慎也はしょっちゅう転びそうになる。元の世界では海にはよく行ったが山登りは一、二回しかしたことがない。慎也がそんな道に悪戦苦闘するなか。

「あ、向こうの木の陰になんかいますよ」

サーリャが指差す方にはなにやら茶色の角の生えたモンスターがいた。慎也はすぐに冊子を取り出してこのモンスターについて調べる。冊子にはこう書いてあった。

『ベスチア 主に体長1メートル位の生物。主に単独で行動している。攻撃力が低く、生息数が多いので初心者にオススメのモンスター。しかし、逃げ足が早いので注意。その角は装飾品へ、毛や皮は衣類などへ加工される安価な素材となる。』

まず、この世界はメートル法が使われているのかと慎也は思う。次に、ちょっと狩りの練習をしてみようと思った。

「じゃあ、まずこいつを狩ろうか。」

 慎也はカバンから鉄の剣を取り出した。技を試すのもよいがここで成功できるとは限らない。焦ると失敗するかもしれない。慎也とサーリャは後ろからゆっくりと、かつ慎重にベスチアへ近づく。距離が3メートル位まで縮まったところでベスチアはこちらを振り返った。

「今だ!」慎也はそう言うとジャンプしベスチアへ剣を振り下ろす。

 ベスチアは鳴き声を発したあと、ベスチアはそのまま後ろ側へ倒れた。慎也の顔に返り血がつく。おそらく後ろ足へヒットしたのだろう。

「隙あり!」慎也はベスチアの胸の辺りへと剣を突き立てる。「ギャー」という鳴き声の後、ベスチアは力尽きた。

「やった!初の狩り成功!」

「おめでとうございます。慎也様。」

喜ぶ慎也をサーリャは祝福し、この個体の解体へ入ることにした。

「で、どれで解体すればいいのかな?」

「剣でやっちゃえばいいんじゃないですか?ナイフみたいなものですから。」

 サーリャのこの提案に乗り、剣で解体を初めた。あたり一面に血独特の鉄臭い匂いが漂う。思わず吐き気がした。

「大丈夫ですか?慎也様?」

そう心配するサーリャはなぜか平気そうだ。

「ごめん、ちょっと休ませて。」

 慎也は匂いの届かない場所を見つけ、そこに座り込んだ。サーリャは一人黙々ベスチアの解体を進める。まず角を切り出し、次に皮を剥ぎ取った。作業は結局30分ほどかかってしまった。もう日は結構高いところまで登ってきている。

「ご主人様!今終わりましたよ!」

サーリャがベスチアの解体を終えて戻ってきた。しかし、彼女が持っていた袋の中にはさっき剥ぎ取ったばかりのベスチアの皮が入っていた。手には角を持っているし。

「じゃあ、先へ行こうか。あと、できれば手にもっているそれをしまって欲しいんだけど、いいかな……」

 慎也の言葉にサーリャは「分かりました」と言ってそれをカバンにしまった。自分でも冒険者になった以上これには慣れないと、とは思っているのだが、あくまで普通の高校生だ。こんなものを見て興奮したりするのは解剖好きの理系人間か何か特殊な趣味を持っている人くらいだろう。一回カエルの解剖実験をしたことはあるがここまで血は出ない。

「あともう少し行けば泉があるって書いてありますよ。そこで剣についた血を洗い流したりしましょう。」

 その言葉の通り、10分ほどで泉に着いた。二人は草の上に座って休憩することにした。慎也は30分ほど座っていたのだが、サーリャはずっと休んでいない。慎也は剣に付いた血を洗い流しに行った。すぐに用事が済んだその時

「ギャース」という鳴き声が聞こえた。まさか、とは思ったがもう一回、しかも一匹じゃなさそうだ。

「え、また?」慎也は率直にそう思った。その直後、数匹の灰色の狼みたいなモンスターが林から飛び出してきた。

「あれ調べている時間ないですからやりましょう。でも、肉食っぽいから気をつけてくださいね。」

その声を皮切りにモンスターは一気にこちらへ向かい走ってきた。

「ご主人様!下がって!」

サーリャの声が響いた。その後、サーリャは自分たちを取り囲んでいる水溜りに触った。みるみるうちにその広い水溜りが凍っていく。すると、一匹のモンスターがその凍った水溜りに足を滑らし、大きく体勢を崩した。慎也はその隙に冊子を取り出してこのモンスターについて調べる。

『タグア 主に集団で行動する。肉食で凶暴。集団で取り囲んで狩りを行う。しかし、その毛は衣類などに用いられる。』多分このモンスターだ。

 サーリャは足を滑らしたタグアの顔に剣を突き刺す。「ギャオー」という鳴き声のあと、一匹のタグアは倒れた。よし、俺もちょっとはやってみるかな?昨日ちょっと炎の書で読んだだけだから成功するとは限らないと思うけど。体にエネルギーを集め、一匹のタグアへ手の向きを合わせる。今だ!

「荒ぶる炎の神よ、今ここに小なる炎を起こしたまえ!」

 その時、慎也の手の先から炎が出た。炎は一直線にタグアの方へと向かっていった。「ギャー」というタグアの悲鳴。タグアに炎が命中したのだ。タグアが自分の体火を消そうと泉へ向かう。しかしそれを見ているだけという訳にはいかない。

「まてぇ!」慎也が剣を手にタグアを追う。しかし、4つ足のモンスターと人間である。どちらが速いかは明白だった。タグアとの距離がどんどん開いていく、しかし、

「世を凍らしき氷の神よ、その氷で裁きを下せ!」

サーリャが詠唱を始めたようだ。その直後、逃げたタグアの頭に氷の塊が当たった。タグアはすぐに昏倒し、意識を失ったようだ。ついでに他のタグアにも氷の塊が命中した。その威力は非常に高く、全てのタグアが昏倒した。

「ふぅ、終わった。」

慎也はその言葉の後すぐに燃えているタグアの消火を行なった。水を汲んできてそれをタグアにかける。すぐに火は鎮火した。しかし、そのあとには真っ黒になったタグアの死骸しか残っていなかった。

「はぁ、これじゃ素材として使えないね。」

「一応気絶していたタグアは全てとどめを指しておきました。今から剥ぎ取りますけれど、どうされます?」

「うん、今度は僕も手伝う。」

 そういうことで一匹のタグアの死体のもとへ向かった。流石にこれは練習しておかなければこれから困るなと思ってやることを決意したのだが死体のもとへ向かうとどうしてもためらってしまう。横を見るとサーリャが別のタグアの解体を初めているし。このままでは男としてのプライドが……

「よーし、やるか。」

慎也は決心し、タグアの解体を始めた。お、慣れれば結構上手くできる。そう思った。

「そういえばご主人様も技、使えるようになったんですね。」

「いや、サーリャのあの技の方が凄がったよ。氷の塊を飛ばすやつ。」

「いえいえ、炎の魔法も凄かったですよ。」

そんな会話をしながら解体を進める。全て終わった頃には太陽はもう南の空に真っ直ぐに登っていた。昼頃だ。

「お腹すいたね。」

「はい、そうですね。」

 泉のそばで気持ちがいいし、戦闘後で疲れたため、そろそろ昼食することにした。弁当箱を開けるとなかにはサンドイッチや卵焼きなどが入っていた。

「こういう昼食もいいね。」

「はい。景色がいいから気持ちがいいです。」

 もうおそらく1時頃だろう、そろそろ沼へ向かわないとまずいと思い出発する。この先の道中では特に敵のモンスターに遭遇することもなく30分ほど歩いたら沼についた。周囲1キロ位の小さな沼だ。沼の周囲には草木が生い茂っている。

「さてと、この沼から泥を持って変えればいいんだよね。」

「あと木も持って帰るのですよ。忘れていませんか?」

いけない……完全に忘れていた……でも、ここで忘れてたなんて言ったら後で笑いのネタにされそうなので。

「いや、忘れてはいないから。じゃあ、取りあえず手分けしない?僕は泥の採取をするから、サーリャは木を集めてくれる?そのほうが多分早く済むと思うから。」

「はい、分かりました。」

 二人は別れ、慎也は泥が取れそうな場所へ向かった。泥沼までは獣道が続いていたため場所がわかりやすかった。泥を持って帰るための袋を取り出し、泥を採取する。シャベルやスコップがないので素手で集めては袋に入れる、集めて入れる。その繰り返しだった。

「ふぅ。こんなものでいいかな。」

 30分位かけて集めた泥の量は3キロ位の重さになっていた。結構肩にずっしり来る。サーリャと別れた所へ向かうと、サーリャがちょうど木を集め終え戻ってくることだった。

「ご主人様!どうですか?」

「こっちは集まったよ。サーリャはどう?」

「はい、しっかり集めさせていただきました」

サーリャの手には紐で縛られた木の枝が握られていた。多分この泥の入った袋より重いだろう。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか。これ重いし、7時までに帰らないといけないみたいだしね。」

「はい、そうしましょう。」

サーリャの返事のあとに二人は再び獣道を街へと向かって帰って行った。

というわけで、初戦闘シーンとなりました。

本当に難しいですね。戦闘シーンって。

なんだか伝わりにくい内容になっていればすいません。

次話は火曜日位に投稿しようと思っております。

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