第4話 アンナの居酒屋
宿屋の中に入るとカウンターには数名の客がいた。客はみな男で常連の雰囲気を出していた。
「あ、お母さんお帰り!あ、そこの二人って誰?」
カウンターで接客に追われている女性がアンナに声をかけてきた。20歳位の金色のショートヘアーの元気そうな人だ。
「あ、そういえばあなたたち名前聞いてなかったね。なんていうの?」
アンナさんが聞いてきた。
「片津慎也っていいます。あと、こちらはサーリャっていいます。」
「だってさ、あと、あそこにいるのはミリエラ。私の娘それなのになぜか金髪なんだよねぇ。」
「おっ、そこの銀色の髪の子可愛いねぇ。おじさんにお酌して頂戴。」
カウンターにいた客の男が叫んだ。顔を真っ赤にして明らかに酔っ払っている。サーリャは顔を赤らめて「いいえ、私なんかには無理です。」と答える。
「あんたたちも何か食べなよ。なんでも注文していいから。」
とりあえず二人は空いていたカウンター席に座り、慎也はカレーを、サーリャはサンドイッチをそれぞれ注文した。
「今いろいろ注文立て込んでるからできるまで時間かかるかもしれないし、サーリャちゃんはお風呂でも入ってきたら?タオルとか寝巻きとかは娘のパジャマでサイズ合うと思うから。」
そういうことで、サーリャは風呂へ向かった。注文したカレーライスが来た時にアンナは心配そうに話を始めた。
「で、あんたたち武器持ってなさそうなんだけど、なんか技でも使えるのかい?」
「技?なんですかそれ?」
また知らないワードが出てきた。ここでは体も頭も休めると思っていたのに。
「あんた、技も知らないのかい…そんな知識でよく冒険者やってられるね…」
「えっ、それってまずいことでした?」
慎也は口をポカーンと開けているが、周りは(お前そんな感じで本当に大丈夫か?)というムードになっていた。一部からは(あの子俺によこせ)という目線が慎也の方に向いているが。
「ミリエラ、この子に技について教えてあげて。後は私がやっとくから。」
アンナの声でミリエラが奥の厨房から出てきた。
「で、技について教えるのね。まず、技は属性があるの。主な属性は炎、水、氷、雷、土、闇、光の基本の八属性と回復とかの補助属性、他にも一族だけで受け継がれている属性みたいなものもあるらしいけれどね。」
「おーい、風属性抜けてるぞ。」カウンター席にいた客から声が飛ぶ。ミリエラは
「えっ、言ってなかったっけ。言ってなかったなら頭の中でさっき言ったやつに風属性追加しといて。」
「へぇ、いろいろあるんですね。で、僕はどれが使えるかって分かりますか?」
回復が使えるのは分かっているが攻撃できる技がないとこれから苦しくなってくる。もし使えるなら覚えておくに越したことはない。
「その検査はあとでやるから。あと、技にもランクがあってGからAまでのランクがあるの。で、Dランクの技位までだったら自分の固有属性関係なく使えるんだけどそれ以上となると自分の固有属性にあっていないと使えないの。あと、技も使いすぎると死ぬから気をつけてね。」
「おい、坊主、わかったか?」
客の声がとぶ。客は皆ほどよくアルコールが回っているため陽気だ。慎也は頷いた。
「あんた、説明してないでしょ…」
ミリエラが呆れ顔で言う。酔っ払いの世話には慣れているといったところだ。
「俺にも可愛い後輩のお世話をさせろ!」
「俺も、あの可愛い子だったら手取り足取り教えてあげるのに。」
ミリエラの指示により、この客はしばらく無視しておくことになった。
「おい、技の出し方には2種類あって詠唱する方法とエネルギーを集中させて出す方法だ。覚えておけよ。」
「ってこと、詠唱する方は俗にいう魔法ってやつだから。」
慎也は頷く。そしてカレーライスを一口。思った以上に辛かった。
慎也は30分位技について教わった。その時、奥の方から
「すいません、今上がりました。」
声のした方へ振り向くとサーリャが風呂から上がってきたところだった。体は火照っているようで顔が少し赤くなっている。しかもパジャマ姿。と、いうことで
「うぉ可愛いじゃねえか!パジャマがウサギとかじゃなくて無地なのがちょっと残念だけど。完成度高いよ!おい!」
客から歓声が上がるわけであった。そしてサーリャに触ろうとした客はアンナの投げ飛ばした灰皿が頭にあたってよって即ノックアウトとなった。
「おいアンナ!ビール追加、サーリャちゃんって言うんだっけ、おじさんにお酌してよ、いやー、あの子見てると良い目の保養になるわ。」
この客にはビールに死なない程度の毒が入れられることになった。慎也はこの状況に苦笑いするしかなかった。
「はい、サーリャちゃん、サンドイッチ。でも、こんなんで足りる?」
「あ、はい、大丈夫です。」
「そう、じゃあ、ミリエア、説明の続き、してあげて。」
「はーい。」ミニエアはそう言うと奥の方から白色の綺麗な石を二つ持ってきた。
「これはユータス石っていって、その人の属性を調べることができるの。炎属性なら赤、水属性なら青っていうふうに色が変わるの、20秒くらい触っていれば色が変わってくるからやってみて。」
と、言うと、慎也とサーリャに石を渡した。二人はその石に触った。
30秒後、石の変色が完全に終わった。
「えーと、慎也君は赤色と緑色だから氷属性と回復属性。サーリャちゃんは水色と銀色だから氷属性と風属性だね。」
アンナさんがいう。回復はわかっていたが炎までつかえるとは。いきなりこの世界に来てこんな力を手に入れてもいいのだろうか。
「あんたたち二人とも混合属性かい、珍しいんだよ、大切にしなよ。」
「混合属性?」
慎也は首をかしげた。本日20回目以上の知らないワードである。
「混合属性は2種類以上の属性が使えること。ほとんどの人は一属性しか使えないから、二人ってことは結構強いチームになるよ。」
「おい、坊主、おまえ炎属性か!炎技の書物あるけどいるか?」
今まであまり会話に入っていなかった客から声がかかる。客の手には一冊の本。表紙には『Eランクまでの炎技の書』と書かれていた。
「お、あんた久しぶりにいいことするね。ビール一杯チャラにしとくよ。」
「おい、それはないだろ。これ一冊でもビール5本は飲めるぞ。」
「もともとあげるって言っといてビール一杯チャラにしてやっただけでもありがたいと思ってもらわないとねぇ。」
アンナが強気に言う。男は渋々了解して本を慎也に手渡す。少しだけ中を見てみるとなにやら小さい文字でいろいろ書いてある。これを読むのか……
「難しいでしょ。なんたって炎は3番目に技の数が多い属性なんだよ。」
アンナが言う。と、してもEランクの技まででここまであるなんて……
「おじさん。風の書か氷の書はないの?」
ミリエアが催促する。慎也はこれ以上搾り取らなくてもと、いうが。
「じゃあ、ビール一本でこのEランクまでの氷の書と交換、ミリエラ、どうする?」
「仕方がないわね。それでいいわよ。」
「キャッホー!今日はあと一時間位飲めるぜ!」
再び客から歓声が上がる。多分ここにいる客全員がこの人のビールを勝手に飲んで帰るのだろう。そう思うと少し気の毒になってくる。
一時間後、客が全員帰って、店の中にいるのは慎也、サーリャと店じまいの準備に忙しいアンナとミリエラだけとなった。
「じゃあ慎也君もお風呂入っておいでよ。来客用の浴衣用意しておくから。」
「すいません。ありがとうございます。」
そう言うと慎也は早速風呂場へと向かった。一方
「サーリャは何やってんの?1時間以上もそれ読んでいて分かる?」
ミリエラがサーリャに話しかける。かれこれテーブル席で一時間以上も氷の書を読んでいるのだ。
「はい、大丈夫です。早く技の一つや二つ使えるようになってご主人様のお役に立てるようにならないといけませんから。」
「へぇ、頑張ってね。応援してるから。」
しばらくして慎也は風呂からあがり、食堂へ向かっていった。
「おっ、風呂から上がったんだね。倉庫掃除してたら鉄製の剣が5本位出てきたけどいる?」
アンナは剣を手に取りながら言う。
「もちろん。アンナさんありがとうございます。」
慎也は剣を受け取る。思っていた以上に重くてずっしりしている。
「あと、回復用の薬草。これがないと生き延びられるものも生き延びれらないからね。多分慎也君が回復使えるからいらないと思うけれど念の為渡しておくね。」
ミリエラが薬草を手渡す。やっぱりこういう物ってどこにでもあるんだな、慎也はそう思った。感覚的には完全にゲームの世界なのだがあくまでここで負けることはゲームオーバーではなく死。準備は念入りにしなければ。
「3階に二部屋用意しておいたから。そこを使って頂戴。一応ベッドと机と椅子はあるから自由に使ってね。」
「それでは、おやすみなさい。」慎也はそう言ってから3階上がっていった。
「さぁて、私たちもさっさと寝る用意しようか。」
「そうだね、でも、これから賑やかになってくるんじゃないかな。」
二人しかいない店内に「ハッハッハ」というアンナの笑い声が響いた。
その頃慎也はベッドの中で今日のことを振り返っていた。今日は本当に色々なことがあった。新学期で久しぶりに楓に会って、乗っていたバスが事故を起こし、別の世界へ飛ばされて、そこでサーリャに出会い、ギルドの登録をして、ギルドでアンナさんに助けられて、ここでミリエラさんに出会った。
「さて、明日から早速初依頼か。」
慎也はそう呟くとゆっくりと目をつぶった。
こんばんは。ぎあんです。
本日二回目の更新ですが更新の時間が不定期になってしまいました。すいません。
この回だけ妙に短いです……この回、ネタあまりなかったもので…
尚、次は明日あたりに更新したいと思っています。