表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四つの島  作者: ぎあん
2/21

第2話 裏路地の出会い 奴隷の少女

 慎也が歩いていた路地にバシッという乾いた音が鳴り響いた。そして悲鳴が響く。

 慎也は何事かと思った。静まり返っている裏路地に悲鳴が聞こえたのだ。すなわちそれは人がいるということにも繋がる。

 二回目、三回目と乾いた音と悲鳴が聞こえる。慎也はどんな形でも人に会えたら良いと思った。そして、音のする方へと向かった。

 そこの角を曲がれば音の発信源まで辿り着けるだろう。その時、声が聞こえてきた。

「このクズが!お前のせいでせっかくの上客を掴むチャンスが台無しじゃねえかよ!奴隷のお前がどう責任取るつもりだ!客が多少可愛いんじゃねえかって言ってるからということで大目に見てきたが、お前みたいなゴミはさっさと処分しておくべきだったんだよ!商売の邪魔しやがって、死にたいのか!」

路地に男の怒鳴り声が響いた。明らかに怒りの感情をあらわにしている。

奴隷?この世界はそのような制度まであるのか。だとしても止めさせなければ。慎也は決心して角を曲がり声のする現場に向かった。

「おい、何してんだ?」

 慎也は自分でも驚くくらいの低い声で言った。その声で鞭を持った一人の男が振り返った。おそらく低い声の主はこの男だろう。その男は40代くらいで中年太りと言えるレベルではない、まさに脂肪の塊ともいえる男だった。おそらく日々、暴飲暴食を繰り返しているのだろう。その男がムチを振るう相手、海老反りの体勢で柱に吊らされているのは、慎也と同じ16歳位の雪のような白銀色の長い髪にサファイヤを思わせるような綺麗な青い目をした少女だった。顔は人形のように美しく、まさに『美少女』という言葉がそのまま当てはまる少女だ。まだ多少幼さが残っているが、それがまた少女を可愛く見せている。

 しかし、その白い肌にはいくつもの痛々しい鞭の跡が刻まれていた。所々皮膚が破れ、出血している。また、少女の体も多少だが汚れているようで綺麗な髪は整えられてはおらず乱れていた。また、奴隷だからだろう、首には首輪をはめていた。

「なんか文句でもあるのか?」

男が口を開く。顔には笑みを浮かべている。人に鞭打つのを楽しんでいるのだろうか。

「文句もクソも、そんなところで鞭持って何してるの。」

「見てわからないか?不良品の処分中だ」

「不良品?それって一体なんのこと?」

だいたい検討はついていたがいるが、一応慎也は尋ねてみた。一秒くらいの間の後

「このクソ奴隷に決まってんだろ!この商売の邪魔をしたゴミだ!」

と言って再びムチを少女にふるった。少女の口から悲鳴が漏れる。二回、三回と男はムチをふるう。

 慎也はとうとう戦闘態勢に入った。この男を止めるには強硬手段しかないと考えたからだ。柔道だけで大丈夫かなとも思った。このくらい大きな相手となると投げ技も無理だし、第一相手が帯を締めていない。柔道では圧倒に不利な状況であった。しかも、男が何か武器を持っていないとは限らない。現に、今男は鞭を持っている。

慎也がそう考えている時、不意に男の口が開いた

「それともお前が買うか?この不良品を?そうすればお前のモノになるぞ」

太った男は言う、瞳には金儲けしか映ってないようだ。その憎たらしい顔に思わず蹴りを入れたくなる。 男は、少女の腹に2、3発の跳び蹴りを加えた。それも熟練者みたいに一箇所を的確に狙った正確な蹴りでもなく、素人のように『当たればどこでもいい』というもので狙いが適当だ。肋骨にでも当たってしまったら骨が折れてしまうかもしれない。少女の口から「うっ」という苦しそうな声が漏れる。

 本当に殺してやろうかと思った。しかし、ここは冷静に

「買うって、いくらだ?」

男は攻撃を中断する。しかし、こめかみには血管が浮かんでいる。かなりお怒りのようだ。

「やめて…ください…もう…いいですから」

少女が囁くような小さな声で言う。しかし、男の「お前は黙ってろ!」の声ですぐに黙ってしまった。

 男は置いてあった鞄か冊子を取り出す、おそらく奴隷売買の相場表だろう。

「不良品認定奴隷だからな、300リラでどうだ?まあ、買わないっていうのもありだがな。」

 300リラと言われてもイマイチというか全くわからない。そもそもこの世界の金の単位を初めて聞いたのだ。もちろん『リラ』なる単位の金など持っていない。

 慎也は考えた。そんな金持っていない、いっそこの男を気絶させてこの子を助けるか?いや、この世界に警察みたいな組織がないとは限らない。おそらく奴隷制度が認められている以上、犯罪者になるのは自分だろう、もちろんものを売る余裕も売れるのもない。楓から借りたメダルはあるけれどそれを売ってしまうわけにわけいかない。しかし、この少女を見殺しにはしたくない慎也は心の中で葛藤した。

 慎也が困っているのを察した男は心の中で思った。この契約の主導権は完全に握ったと。男はここからは強気な態度をとることに決めた。このガキから搾り取れるだけ搾り取ってやろうと。

「あれあれ、どうした?まさか、金がないとか言わないよな。ここまで人の邪魔をしておいて。」

「その通りです...」慎也はうなだれる。

 その言葉に男は何がしたいんだ...と考える。金がないのに奴隷を買おうとしているのだ。売り物の状態が拷問に等しい状態なのでそれを救いたいとでも思っているのだろうか。

「この子を売ってください。お願いします。」

慎也はそう言うと頭を下げた。こんな人間に頭を下げるのは慎也にとって屈辱以外の何物でもなかった

 男は早速困り始めた。奴隷の死体の処理を考えればタダになってしまうがこのガキに与えてしまったほうが楽か。頭を下げ続けている慎也の前で男の頭の中のそろばんが弾かれる。交渉開始から1分くらいした時に男は口を開いた。

「仕方がない。その不良品を特別にくれてやる。おい、不良品、この新しい飼い主に感謝するんだな。」

そう言って男は再び少女に鞭をふるった。少女の口から声が漏れる。慎也は男を投げ飛ばそうとする。それを見た男は

「おっと、俺に変な事すると契約は中止だぞ。この不良品には色々と迷惑をかけられたからな。少しでも憂さ晴らしをしないと。おい坊主、ゴミだけど一応奴隷のこいつをただでくれてやるんだ。礼はどうした礼は。」

慎也は一瞬考えた。しかし、ここで自分の意地やプライドを優先すると本当に少女が殺されかねない。慎也は唇を噛んだ。苦い顔のまま

「ありがとうございます。」

と、男に向かって一礼した。ここでは特に問題を起こさずに男を激高させない。慎也は方針を固めた。本来こんなこの世のカスに等しいこの男に礼をいうのは屈辱だった。しかしここで「やっぱり契約は破談。このゴミを処分する」と言われたらおしまいだ。

「おい、じゃあ契約書にサインしろ。」

 男から渡されたのは奴隷契約書とかかれた紙だった。この紙を見て慎也は戸惑った。この書類にサインをしたその瞬間、慎也は奴隷の売買、もとい人身売買に加担したことになるのだ。普通の人間が抵抗するのも無理はないだろう。しかし、この少女を助けることが先だと思った。

「こいつがお前のものになったことを証明する紙だ。いいから早く書け。それとも、この話はなかったことにするか?」

それは困るため、書類の記名欄に片津慎也と記入し、男に言われるままその書類に拇印を押した。男が少し書きこんで契約は成立した。

「じゃあそいつはお前のものだ。そんなクズで自分の性欲でも満たす気か?まあ、好きに使え。」男はそう言い残し笑いながら裏路地のさらに奥の方へと立ち去っていった。

 残された慎也は立ち去っていく男をこのまま後ろから刺し殺してやりたい気持ちに囚われた。しかし、そんなことをする前にやることがある。少女の救出だ。

「大丈夫?」と慎也は少女に声をかけた。紐をほどこうとするが紐は固く結ばれていて解ける気配がない。少女はぐったりしていた。海老反りというのはその体勢だけで腕や足に負担がかかる。

「なにか紐を切れるようなものはないかな…」

 慎也は辺りを探し始めた。しかし、そんなに都合よく見つかるものでもない。その時、一枚の窓ガラスを見つけた。慎也はそれを踏みつけて割る。そして、そのガラスの破片で縛ってあった紐を切って少女を縛っていた紐を切った。少女はそのまま地面に落ちてしまった。慎也はすぐに首についていた首輪を外して、少女に話しかけた。

「ありがとう…ございます……ご主人様。」

「お礼はいいから、その傷治さないと。」

 慎也が出血している傷口に手をかざした瞬間、深夜の手から緑色の光があふれ出て少女の体の傷がみるみるうちに治っていく。その回復ペースは非常に速く、1分ほどで全快した。


「本当にありがとうございました。」少女は頭を下げた。

 しかし、人の傷を癒す能力?この世界はいったいどうなっているの?そしてなんでこんな力を持っているの?と自問自答して戸惑っているのは技を使った本人、慎也。

「あれ?どうかなさいました?」と少女が不思議そうに尋ねてくる。さて、とりあえずどうすればいいんだろうか。なんかこの少女を買っちゃったみたいだし……

「そっちこそ大丈夫?あと、名前なんていうの?」

「私はサーリャと申します。で、ご主人様のお名前はなんとおっしゃるのですか?」

 慎也はそういえば名乗ってなかったなと思いながら

「僕は片津慎也。」

「分かりました、ご主人様」

「いや…慎也でいいよ。ご主人様って呼ばないで。」

「分かりました、慎也様。」

「できれば、様付けして欲しくないんだけど……」

「私は奴隷ですから、呼び捨てなんてできません。」

少女は頑なに様付けをやめることを拒む。慎也はもう諦めることにした。

「それはそうと、なんであんなことされてたの?」

と慎也は尋ねる。

「実は……売られる事が決まっていた子供の奴隷を逃したんです。その契約者はかなりのロリコンと有名でしたから、どうしてもその子達に辛い思いをさせたくなくて。」

「はあ、なるほど。」

慎也は相槌を打つ。そして、そろそろ色々と聞きたい事を聞いていくことにした。

「ねぇ、で、僕、一文無しなんだけど…これからどうしたらと思う?そしてここはどこなの?」

 慎也の不安要素はここではまず、金の取得、そして最低限のレベルでも生活できるようにしないとならない。変な世界に来ていきなり餓死うえじにして終わりましたなんてしたら笑い事では済まされない。この世界で死んでしまったからといって元の世界に戻れる保証は一切ないし、こんな人生の終わり方をしたくはなかった。

「一つ目の質問はよくわかんないんですけれど……二つ目の質問は答えられます。ここはピリャック、南島4代都市の一つです。それと、慎也様って、ギルドの方に登録されていますか?」

ギルドなんじゃそりゃ。南島?それはどこだ…言われてもわからない。完全に

「ごめん、登録してないし、第一ギルドっていうものも全く分からない……」

慎也は申し訳なさそうに言う。なぜかサーリャが謝ってきたのでそれをやめさせるのにちょっとだけ手間取ってしまった。サーリャがそのあとすぐに説明に入る。

「はい。ギルドというのは依頼の紹介を行う場所、らしいです。私は奴隷ですので行ったことないからあまり説明できないですけど。」

 行ったことないのは当たり前だろう。むしろ説明してくれただけありがたい。

「じゃあさぁ、なんでそこまで知ってんの?」

「私、路地に捨てられている雑誌とかを読むのが趣味だったんです。でも、捨てられていることって少ないので奴隷商人にバレないように何冊か隠してあったんです。まあ、結局バレて処分されましたけれど。その中の一冊に『ギルドの案内』という冊子があったんです。」

若干サーリャの顔が曇った。まずい、なんか辛い思い出でもほじくり返してしまったか。この話はするべきではなかったか。慎也はどうにか話題を変えようとする。

「まあ、じゃあ一応ギルドってところに行こうか。で、それはどこにあるの?」

「3番通りってところを街の中心の方へ行けばいいそうです。」

「わかった、じゃあ3番通りへ出ようか。」慎也とサーリャは歩き始めた。


 しかし、30分ほど歩くと

「で、いったい3番通りはどこなの?」

「ここが裏5番通りですから、もう少し東へ向かったらいいのだと思います。」

サーリャは答えた。さっきからずっと東へ歩いているのだが、3番通りの3の字も出てこないのだ。

「この街は簡単なようで難しいね。」

というのも無理はないだろう。この街は表1番から始まり、中1番、裏1番、表2番の順のように南北に通っている通りと北1番、南1番、北2番の順に東西に通っている通りがしかもまっすぐではなくクネクネ曲がって交差している。初めての人が迷うのは当然だろう。

「そうですね。あ!向こうに自警所がありますよ。道を聞いてきます!」

 サーリャは走ってその自警所というところに向かっていった。自警所?まあ交番みたいなところだろうか。すぐ近くにベンチがあったので座って待つことにした。待っている間も正直暇なので、この通りは多くの人が通るようでちょっと観察してみることにした。見てみると髪は赤、青、金など多種多彩である。服装から見て通っているのは主に町人だろう。ほとんどの人が麻の服と思われるものを着ていた。

 10分ほどでサーリャが嬉しそうな顔で戻ってきた。手には一枚の紙が握られている。

「ご主人様!やりましたよ。自警団の方に地図を書いてもらってきました。どうやらあともう一本先の通りを右折したらいいようです。」

サーリャは嬉しそうに言った。おそらくこの街という迷路から抜け出せると思ったからだろう。慎也は立ち上がり、ギルドへの道を歩きはじめた。歩き始めてすぐのところでサーリャが不安そうに尋ねてきた。

「ご主人様、私って役に立っていますか?」

弱々しい声だったので聞き取るのに苦労したが。

「もちろん。すごく役に立ってるよ。」

慎也は多少顔を赤らめながら答えた。

本日二回目の投稿になりました。ぎあんです。

相変わらず下手くそですが、読んでいただきありがとうございます。

感想等や訂正点などのご指摘、どんどんお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ