第一話:電話は聞かれていて
こんにちは、魔狗羽です。今回この小説のジャンルは『推理』としましたが、推理というよりも種明かしに近いので、あしからず。
そう、俺は聞いてしまっていたんだ。
ある日の夜中、喉が渇いたからリビングに行ったんだ。意識は完全でなく、まだぼーっとしていたこともあって、詳しい時間なんかははっきり覚えていない。
そしたら、リビングでは母さんが電話していた。多分話の内容からして、別居中の父さんとだろう。暫く俺はリビングに入ることが出来ず、ドアの前で突っ立っていた。
「いや……そ……ことしなく…も………は……できる……」
母さんが小声で話しているからなのか、ドア越しだと何を喋っているかわからない。まぁ、別に聞く気は無いが。
しかし、話が進むにつれ、母さんが感情的になってきたのか、少しずつ声は聞こえやすくなっていく。そして段々俺の顔は蒼白になっていった。
「……私が……を殺せば…………てくれるって……の!?……」
何……?殺すっ……て?
「…俊人を犠牲にし…まで……ようっていうの!?」
は?俺が…犠牲って?
「………………わかった。私 が 俊 人 を 殺 す 。だか……………」
あの日は、一晩中一睡も出来なかった。母さんの声は、とても冗談だとは思えなかった。
「はい、じゃあ授業終わり。次回はもう一段階詳しくやってみるぞ」
そう言って、俺や学校の友達が多く通っている的浜塾の数学教師、陌川先生は教室を後にした。
「はぁーっ!疲れたぁ!なぁ俊、ライブモンスターズやろーぜ!もう新しいデッキ出来たんだろ?」
ライブモンスターズとは、最近この的浜塾で流行っているカードゲームのことだ。
「あぁ!陸也対策で、天使族のモンスターで固めといた」
「マジかよ!?俺負け決定じゃん!」
「甘い甘い。何個がデッキは使い分けてないと」
……どんなに『殺される』の五文字が頭から離れられなくても、皆の前では明るく振る舞ってた。明るく振る舞ってなければいけないと思った。
そしてその晩。俺は決定的なことを聞いたんだ。
俺は毎晩何か母さんが喋っていないか確かめる為に、ずっと寝ないでばれない程度に母さんを見張り続けていたのだ。そうでなくても恐怖で寝られない。
その日はまた父さんらしき人と電話していた。
「え?明日!?そんないきなり……せめて一週間後にして!」
俺はびくっとなった。明日?何が?「私にも心の準備が……必要よ!それに埋める場所だって……」
まさか……。
「え……もう決まって…るの?高丸山の……中…?……わかった。でも…ほんとにあと一週間はちょうだい……えぇ、ありがと…………わかってる、それなら新しい包丁買っといた……」
間違いない、俺の…ことだ。
俺は急いで自分の部屋に戻って、ベッドに入った。
一週間後。高丸山。包丁。
三つの単語が頭から離れなかった。そして俺はこの状況で、自分が生きることを最優先にしたんだ。