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ゲーム開始

ゲーム開始です

   ☆


 指定された場所はどうやら自分がいる階の中心あたりだった。

 宗治は指定された場所に行く途中、いくつか店の中に入った。

(部屋の壁や天井は埃だらけ……なのに道具や光源は真新しい)

 何か嫌な予感がする、と宗治は再び思った。

 ここまで来る途中、いくつか出口や上に上る階段のような場所を見つけたが、コンクリートで塞がれていた。

 そして窓が一つもないことから、ここが地下であるだろうことも予想していた。

(それにこのPDA、何を表示してるのかわからない部分がいくつかある)

 PDAの左下に表示された99という数字……宗治はこれに何か嫌なものを感じていた。

(よくは見ていなかったが、俺が初め見たとき、ここの数字は100じゃなかったか?)

 数字が減っている気がする……だが、そんな推測に確証を得る手段は、いまのところない。

(まあ今は置いておくか)

 自分で考えても結論は出ないだろうと宗治は判断し、他のわからない機能についても保留にしておくことにした。

(説明会で聞けばいいことだしな……しかし、この建物は広いな)

 歩き始めてから二十分、途中寄り道しているとはいえ、普通のショッピングモールならあり得ない広さだ。

(ショッピングモールだけじゃないみたいだな)

 複合施設、駅とか色んな会社の施設と一体化したタイプの施設みたいだ。

(地図的にはもうそろそろ着くはずだが……おっ)

 少し向こうから人の気配がする。宗治は少し急ぎ足になった。

(さて、俺のほかにどんな奴がここにいるのか……)

 宗治は少しの期待と大きな不安を感じながら、指定された場所に辿り着いた。

(ここは……広場か)

 宗治たちが集められた場所は広場のような場所だった。

 宗治は集められた人たちの顔をサッと見回す。

(ザッと見て、50人ってところか)

 何人かが宗治の方を見ており、目が合うとサッと視線を逸らしてしまった。

(やれやれ、いきなり情報交換とかは無理そうか……ん?)

 宗治は集められた人の中に、見たことのある顔を見つけた。

(あの子は、さっきぶつかりそうになった……)

 先ほど出会った女の子。誰かと話しているみたいだ。

(ここに向かっていたのか。せっかくだから話しかけてみるか)

 周りにいる顔も見たことない奴らよりは幾分話しやすい。宗治はそう判断して女の子に近づいていった。

「よっ、さっきは大丈夫だったか?」

「キャッ!」

 女の子は逃げ去ったときのように悲鳴を上げ、こちらに振り向いた。

「ええと、さっきは……」

 宗治が何をどう言おうかと思って口を開いた矢先、

「さ、さっきはごめんなさい!」

 宗治の言葉に被せるように少女の謝罪が飛んできた。

「え? ああ、いや。そんな全然」

 宗治はちょっと慌てて返す。

「別にそんな謝られるようなことはされてないし……」

「いえ、ぶつかりにいったのは私なのに、悲鳴を上げて逃げるなんて……」

 女の子は本当に申し訳なさそうに謝罪する。

(うーん、どうしたものか)

 宗治は対応に困った。さっきはよく見られなかったが、見た目からするとこの女の子は高校生くらいだろう。

 茶色の短めの髪に上は白いTシャツ、下はジーンズ。顔はよく見なくても整っていた。

 実は宗治、この年代の女の子とはあまり話さない。よく話すのは大学のサークル仲間の女子ぐらいだ。

 女の子は戸惑った宗治の様子を見てとったのか、さらに申し訳なさそうな顔になって頭を下げた。

「ほ、本当にごめんなさい! 私、あのとき頭が回ってなくて……」

 宗治はますます困って、とりあえずこの女の子の謝罪を止めようと思った。

「いいっていいって、そんな気にしてないし。こんな状況下だったら普通はああなるって」

 しかしそれでも女の子は顔を上げようとしなかった。

 参ったな、と宗治が思ったとき、女の子の隣にいた子が目に入った。

「あっ、どうも」

「………」

 宗治が挨拶するが返答なし。女の子はずっと無表情。視線だけが宗治の方を向いている。

 これまた困ったな、と宗治は思う。

 こちらの女の子も高校生ぐらいのようだった。

 長い黒髪のストレート。黒いセーラー服。恐ろしいぐらに整った顔立ち。

 セーラー服を着ていることから、高校生であることは間違いないだろう。

 俺の挨拶する声に、謝罪していた女の子が顔を上げた。

「あっ、こ、この子は皆元瀬那(みなもとせな)さん。さっきまでお話していたんです」

 凄いな、この子から名前を聞き出したのか、と宗治は思う。

 皆元瀬那、と紹介された女の子が会釈をした。宗治も慌てて返す。

「あ、あと、私の名前は花菱香織(はなびしかおり)って言います」

(花菱香織に皆元瀬那、ね)

 宗治は二人を見ながら考える。

(花菱って子は話が通じそうだな)

 問題は皆元と紹介された子の方か、と宗治は考える。

「あの、貴方のお名前は……?」

 花菱が遠慮がちに宗治に質問する。

「そういえば名乗ってなかったな。宮本宗治って名前だ。よろしく」

「あっ、よろしくお願いします」

「………」

 花菱は宗治に頭を下げ、皆元は依然、無表情なままだ。

(とりあえず、知り合いを作ることはできたな。あとは……)

「なぁ、君たちは、この状況とか、PDAとかについて何か知らないか?」

 花菱と皆元に質問をする。

「えっと、それが……私たち何もわかってなくて……ね、瀬那ちゃん」

「………」

 皆元は言葉は発しなかったが、小さな頷きを返した。

「そうか……」

 何も進展がないことに宗治は内心で歯噛みした。

「ご、ごめんなさい! でも、本当になにもわからなくて……」

「いや、こっちも似たようなものだし大丈夫だよ」

 宗治がフォローし、内心で溜息をついた直後、

 ピー、ガッ、ガガッ、ガー……

 天井付近に付いているスピーカーが突然、頭に響く不快な雑音を吐き出した。

 その音に全員の視線がスピーカーに集中し、全員が沈黙した。

 音が止み、しばらく待っていると、

『……皆様、聞こえますか』

 唐突に、スピーカーから若い青年のような、それでいてどこか歳不相応な落ち着いた雰囲気のある、感情のない声が流れてきた。

『説明会にお集まりいただきありがとうございます。この説明会の音声は、この施設すべてのスピーカーの付いている周辺ならばどこでも聞き取れるようになっております。故に、ここにいない方々も説明を聞くことが可能になっています』

 声は説明を続けていく。

『ではなぜここに集まっていただいたかといいますと、今ここにお集まりいただいている方々からは質問を受け付けることができます。ですが、質問されたとしてもそのすべてに答えることが可能かどうかはわかりません』

 宗治はここで周りを見回した。()()()()全員の顔がスピーカーの方に向いている。

『それでは、まずは皆様の今の状況をご説明いたします。皆さんは、我々が実験のために拉致させていただきました、実験台でございます。今回、その実験が主な主旨となって我々は動いております』

 ただ、スピーカーに顔を向けていない奴がいた。皆元瀬那。

『それでは次に、実験の内容をご説明いたします。今回の実験内容は、貴方方を閉鎖空間に閉じ込め、こちらの用意した獣と命の取り合いをしていただく、というものです』

 宗治はそこでスピーカーの方に視線を向けた。

『その獣がなにかはお教えできません。貴方方の獣に対する推理や特定までの道のりなども我々の実験に含まれております。獣を貴方方が見つけ、倒す、もしくは貴方方全員が獣に殺されるまで実験は継続いたします。

 もし貴方方が生き残り終了した場合、100億円の賞金を用意しております。100億を生き残った人たちで山分け、という形になります。もちろん、生き残った方全員を生きてお帰りいただけることを保障いたします。皆様には、この実験はゲームのようなもの、と認識していただいて構いません』

 宗治は話の半分も呑み込めていなかった。

 言っていることはわかる、意味は理解できる。が、それを呑み込み、()()理解させることができない。

 宗治は視線を(おろ)した。皆元瀬那がいなくなっていた。

『この実験にはこの施設の地下部分全て、ここは地下1階ですが、を使っていただいて構いません。置いてある道具もすべて使っていただいて結構です。ただし、地上部分に出ようとした場合、死んでいただくことになります』

 宗治は再びスピーカに視線を戻す。

『現在、既に一人抜け出そうとした方が死んでおります。皆さんも十分にお気を付けください。

 さて、次にPDAの使用方法と表記についてですが、こちらも貴方方自身に推理していただくことになります。こちらが説明できることは二つ。フレンド機能と生き残り人数の表記についてです。

 フレンド機能とは、自分のPDAと相手のPDAでフレンド通信、そういった項目が【機能】のところにございます、を行うことで、双方の位置が地図上に出る、さらにメールのやりとりが出来るなど、今回の実験で生き残るのにとても重要な役割を持った機能です。

 次に残り人数表記ですが、これはPDAの左下に常に表示されています。初めは100だったのですが、今は99に減っていますね』

 宗治はそこで自分のPDAに目を移した。確かに、表示が99になっている。

 と、見ている間に表示が99から98に変化した。

『おや、もうすでに獣の狩りが始まっているようですね』

 ドチャッという音が後ろの通路の奥から聞こえてきた。服の裾が誰かに引っ張られる。

 皆元瀬那だ。どこかにいなくなっていたはずだが、いつ戻ってきたのだろう。

 宗治は瀬那の手を振り払い、音の鳴った通路の奥に駆け出した。

 通路の角を曲がったとき、宗治はそこで歪んだ唇から吐瀉物(としゃぶつ)を出しそうになった。

 通路の奥には、血溜まりの中に沈む、無残な男の死体があった。

 目を抉り取られ、鼻と耳は削ぎ落とされ、口にはナイフが突き刺さっている。首元が切られている。たぶん即死だろう。

 血なまぐさく、()えた臭い。さらに吐き気が襲ってくる。

 後ろから宗治と同じように状況の確認に来た人たちの悲鳴が聞こえる。

『さて、だいたいの説明は終わりましたね。何か質問はございませんか?』

 誰も質問することができない。誰も言葉を発することができない。

『質問はないようですね。もし何か質問したいことが今後できれば、ここに来てください。話せる範囲でお答えします』

 誰もその言葉に反応することができない。目の前の光景から意識を逸らせない。

『それでは説明会を終わります。皆様、どうぞご健闘を』

 音声が切られる。あたりが静寂に包まれる。

 スピーカから流れる雑音の混じった音声が、耳にこびりついていた。

『さあ、楽しいゲームの始まりです』

 感情のない声の主が、楽しそうな声で、そう言った気がした。


 生存者、残り98人。


気が向いたら…続き書きます

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