今いる場所
人の死とか血とかグロに弱い人はご遠慮ください
―――ピリリリリリリ……
どこかで無機質な音が鳴り響いている。携帯の着信音だろうか。この着信音は自分の携帯のものではない。
音に導かれるように、ゆっくりと目蓋を開く。光が目に入ってくる。
蛍光灯がもたらすなんの変哲もない白い光。眩しい。目覚めたばかりの体には少しきつい。
まだ音は鳴り続けている。かなり近くから聞こえる。
どうやら音は自分のポケットから出ているようだ。
ぼんやりとした意識のまま手をポケットにやり、そこでふと気づいた。
(ここは、どこだ……?)
見慣れない天井、見慣れない光源。
普段寝ている自宅の部屋ではない。知り合いの部屋でも、ない。
(昨日、俺は自分の部屋で寝たはず……)
昨日の記憶を思い起こしながら、周囲に意識を向ける。
どうやらここは自分の部屋ではなく、どこかの店の座敷のようだった。
(酔い潰れて寝ていた……? いや、昨日は酒は飲んでいないし、こんな店に入った記憶もない)
そう、こんな埃まみれでしばらく誰も使っていなさそうな店に。
彼、宮本宗治はゆっくりと体を起こし、自身の体調と身なりの確認をし始めた。
(体に何か変わったところはない……体調も良好、これといって問題はない)
宗治はゆっくりと立ち上がり、自分の周辺の確認をしようとした。
その時、またしてもポケットから音が鳴り始めた。
(そういえばさっきも鳴っていたな。だが、俺はこんな着メロを設定していただろうか……)
疑問に思いつつ、ポケットから音を出しているモノを取り出す。
「なんだ、これ」
ポケットから出てきたのは、一台の真っ黒なスマートフォン……いや、PDAだった。
そのPDAはかなり薄く、表面の下のほうにボタンが三つ付いていた。
(俺の携帯はこんなのじゃない。俺の携帯はどこにいった)
自分の携帯を探そうと宗治が動こうとしたとき、PDAの画面に映る一文が視界に入った。
【メールを一件受信しました】
先ほどの音は、PDAがこのメールを受け取った時に鳴ったものだったのだろう。
宗治はその一文を見たとき何か嫌な予感がした。携帯を探す手を止め、PDAのメールの確認を優先することにした。
PDAの操作の仕方はすぐにわかった。少しぎこちない動作でメールを開く。
(なんだ、これは……)
そのメールの本文には、以下のようなことが書かれていた。
『おはようございます、皆様。
早速ですが、本題に入らせていただきます。
本日、説明会を開催いたします。
説明会では、現在の皆様の軽い状況説明、ルールの説明などを行います。
このメールが届いてから一時間以内に、添付した位置情報が指定したところに来てください。地図は皆さんのPDAに入っています。
どうぞ、奮ってご参加を』
メールはそこで終わっていた。
宗治はわけがわからなくなっていた。だが、この説明会には行かねばならないと感じた。
自分の置かれている状況の把握、これは今の自分にとってとてつもなく重要なことのように思えた。
(拉致なのか、またそれとは別の犯罪に巻き込まれているのか……そういえば、地図がPDAに入ってるって言ってたな)
今いる場所がわかるかもしれないと思い、宗治はPDAの画面に地図を表示させた。
地図上には、光点があった。
(青い点の表示……俺が今いる店の間取りから考えて、これが俺であるのは間違いないな。となると……)
ある程度今自分がいる建物の予想がついていたが、確信を得るために、今いる店を一度出ようと宗治は思った。
と、一歩店から出たところで
「キャッ!」
「おっと」
危うく女の子とぶつかりそうになった。
「っとと、おい、大丈夫か?」
すぐに体勢を立て直し、ぶつかりそうになった女の子に声をかけた。
「ひぃっ!」
女の子は怯えたように体を竦ませた。そして、そのまま走り去ってしまった。
(なんだったんだ……ああ、そうか)
宗治はそこで女の子が逃げた理由に思い当たった。
(そりゃぁ、こんな状況で出会った相手なら、犯人の一人だと思われてもしかたないよな)
しかし、さっきの女の子は突然のことなのに叫ばなかったな、と宗治は思いつつ、周囲を見回した。
(やっぱりな……)
周囲には、様々な店が並んでいる。いわゆる、ショッピングモールだ。
(地図を見たときから予想はしていたが、どうやら当たりだったようだ)
宗治は自分の予想が合っていたことにほくそ笑んだ。
(さて、いつまでもボーッっとしている場合じゃないな)
宗治はPDAを取出し、先ほどのメールを開いて、指定された場所を確認した。
そして、周囲の店を観察しながら、指定された場所に向かって歩き出した。
気が向いたら続きを書く予定です