007 - 殴って蹴り飛ばしとにかく逃げて現れた
「シエルちゃん」
「承知。だがすでにもう一人の勇者の位置は把握できておる」
「どこ?」
「貴様が召喚された洞窟……つまりは、城の地下じゃのぉ」
「道は?」
「……貴様、覚えておらんのか? まあ、よい最短且つ安全な道を教えてやる」
頼もしいぜ! んじゃ、道案内はシエルちゃんに任せた……勇者の初仕事とにかく行くぜ!
先ずは……どこに行けばいい?
「右から城の裏へ回れ」
うんうん、と心の中で相づちを打つ地を蹴る。さっき飛んだ時に気付いたが一度蹴り込むごとに10メートルくらい一気に進むことが出来る。自分で言うのも何だけど、とにかく速い。風になる、という言葉が似合う。
そうだ私は風になったんだ! ハハハハハハ!
「…………」
「ゴホン、ここだよね? シエルちゃん」
「……ああ」
もうマジで嫌だ……一方的な「私の心、アンロック」はさ……、今は消えてるけど感じるんだシエルちゃんの危ない人を見る目で私を見てるって。泣きそうです。っつかアレ、おかしいな……目から汗が出てきた……。
「アホぉが泣くな。ほら、そこに扉があるだろ?」
「うん……ああ、入るんだな」
ドアノブを回しドアを開けると――槍が頭を目掛けて飛んできた。
「っ!」
やべえ、殆ど無意識に頭ごと体を後ろに倒す。そのまま後方倒立回転とびかブリッチを決めたいところだけど、突然の攻撃でそこまで頭が回らず地面にゴォンと頭をぶつける。
いってえええええええ、頭を抱えるがそんな暇はない。
殺気を感じて横に転がり立ち上がると、自分が先ほど倒れていた場所に槍が刺さっていた。
少しでも回避するのが遅れていたら串刺しになっていた……考えただけでもっつか考えたくない。
「扉をあけると魔物がいるから気をつけることのぉ」
「遅いわァァァァァ! 私、危うく死にかけたんだぞ!?」
「ほれ……モタモタしておるから後ろからも」
「はい?」
後ろ振り向かず直感だけで足を器用に動かして体を右に回す。剣を上から下へと切り落とす影は、簡単に(偶然)それを避けた私を睨みつける。そんなに睨まれても私は困る。
刹那、横から襲いかかる殺気に向けて蹴りを放つ。当たったのは槍だ。魔物の手から蹴り落としたのだ。勢いを崩さず手刀で剣を持ち上げようとした魔物の手首を叩き剣を離させる。落とした武器を蹴り飛ばして遠くに投げる。
よし、これでオーケー。攻撃して来ないうちにさっさと扉に入りましょうか。
「貴様」
「ん?」
裏の扉から城内に侵入し洞窟に向けて走っているとシエルちゃんが声をかけてきた。何だが凄く不機嫌そうな感じに……。
「なぜ魔物共に止めを刺さなかった?」
さっき裏口前で相手をした二人(?)の魔物か……確かに武器を取り上げただけで殆ど何もしていなかったな。
でも当たり前じゃねえか。トドメを刺すとかアホらしい……。
「シエルちゃん……私は宣言したはずだよ。守るって」
「つまり魔物も守る対象だと言うことか?」
「ああ」
私は魔物の事を何も知らない。だから、だよ。
知らない相手を一方的に攻撃するなんて……逃げていると同じ。
それにもしかしたら魔物には魔物の社会っていうのがあると思うんだ。友達がいて、仲間がいて、家族がいて……人と変わらない当たり前な世界が。知らないという理由でそれを壊すなんて私には絶対に出来ない。
「なるほど……では何故に話しかけない?」
「…………」
「怖いのか?」
「……っ!」
だって……全身影なんだよ! 剣とか槍とか振り回しているんだよ? 怖がるなぁーっつー方が無理に決まってるんじゃん!
シエルちゃんは私を誰だと思っている!?
「……ヘタレな主だ」
「……ごめんなさい」
「まあ、よい右に曲がれ」
おう、っと壁じゃんか……壊せってことか、任せろ。ニカッと笑いシエルパンチを壁に叩き込む。ゴロォンと暴力的なやり方で道が完成。
って何だ、ここ? 変な部屋だ……。
「この下が洞窟の入り口だ」
「よっしゃァァァァァ」
右足を頭上高く上げてから勢い良く床にラメールキックをぶち込む……が壊れない?
あれ? 何で?
「どうやら、あれのせいじゃのぉ」
「……なにあれ……? って言わないで、言わなくてもわかるから」
私が壊した反対側の壁を壊し魔物が入ってくる。しかし、他の魔物とは違いとにかくデカイ。
三メートル前後くらいあるのは確かでしかも筋肉モリモリの肉体。右手の代わりに義手のような斧、左手の部分には連射銃を着けている。
さて……読者さんもどういうことかお分かりですね? ハイ、そうです!
これが噂の「ここを通りたければ私を倒していけ」で有名な中ボスってやつです!
「他の雑魚どもが来る前に片付けて置きたいのぉ……3分で終わらせろ」
「……はい?」
「3分じゃ」
拝啓、バグちゃん(仮)、チートくん(仮)、リアル写輪○ちゃん(仮)……未知の存在から人間を守りたいけど、未知の存在も守りたい。そんな私はどう戦えばいいのでしょうか。
みんなを守りたい……私は最後まで信条を曲げたくない!