LAST - 私達の戦いはこれからだッ!
閃光と共に放たれた数え切れないほどの弾は容赦なく私の体にぶち込まれた――。
十、
百、
千、
万!
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……でもね、負けられえ!
私には……オレには……僕には!
叶えたい夢があるんだあっ!
撃つのを止めた巨人の魔物が明らかに何発放っても倒れない僕を見て驚愕している。
僕の背は……オレとシエル、世界中の笑顔を背負ってるんだ。
何度も何度も攻撃を受けたとしても……私は絶対に倒れない。
そして”私たち”は勝つっ!
「シエルちゃん! 力を貸して!」
僕は高らかに呼ぶ。
弟の名を受け継ぐ相棒。
オレの半身。
もう一人の私の名を。
「漸く妾と貴様が一つになるという意味を理解したようだのぉ」
「ああ」
僕の夢は弟の夢だった。弟が居たから皆を守りたいと思える今の僕が居る。
兄弟二人で一人の夢。だから僕は前へと進める。
力も同じ。オレが居てシエルちゃんが隣にいるからオレは全力で戦えるんだ。
誰かがオレを後ろから隣から支えてくれるからオレはオレでいられて本当のオレでいられる。
――二個で一個の存在。
支えてくれる誰かを忘れてしまったら私は私だけで本当の私ではない。
どこに行けばいいのか?
なにをすればいいのか?
どうしたいのか?
なにをおもうのか?
全く分からなくなり全てを見失う。
巨人の魔物と対峙した時が良い例だ。
隣りに立つ存在を忘れてしまいシエルちゃんを感じられなかった。
焦りや恐怖で自分の信条が塗りつぶされる。
故に支えてくれた者を忘れて一人で戦っていた。
でもそれじゃダメなんだ。
怖いって思ってもいい……かと言って私が信じる事から身を逸らしてはダメ。
無理だとか怖いとか思えば真っ先に頼る。
二個で一個の存在なのだから。
「……シエル、ちゃん」
「何も言うな。こやつの力はわかっておる……ただの高速移動じゃのぉ」
「え? 透明化じゃなくて? しかも透明になると物理攻撃無効! 的なインチキ効果じゃねーの?」
「うむ。目では追えないほどの移動速度」
シエルちゃんは言う、
「全魔力を一点に集め放出せねば軽い一撃も防御できぬとは……辛いのぉ」
「勝てる見込みは?」
「貴様だけだと限りなくゼロに近い」
「……」
うっ……分かっている。私だけだと巨人の魔物の移動にも付いて行けないし攻撃を当てられないし防御も出来ない。
ギリギリの所で回避しか……。もっとも回避だけなんて明らかに負けフラグ過ぎる。
「だが」
「?」
「あくまでそれは貴様だけが戦う場合だのぉ。妾と一緒になり戦えば勝率は五割に跳ね上がる」
「いいねぇー。で、どうすれば?」
「先ずやつの行動を目で追うな。殺気を感じろ。攻めて避けろ。とにかくやつに撃たせろ」
了解、と返事をして巨人の魔物に突っ込む。
シエルちゃんが何を考えているのか分からないが私は彼女を、相棒を信じるのみ。
左手で作った拳を放つが私の視界から消える。
一瞬、目で追いかけられるが目を瞑り第六の感覚に意識を集中させる。
――右だ!
相変わらず早い攻撃。
足に魔力を溜めて距離を取ろうとするが、
「視覚に頼るな。殺気を感じろ!」
「!」
敵の攻撃が放たれた中、私は再び目を瞑る。
感じる――敵の流れが。
右足で一歩、左足で一歩だけ前に進みギリギリの所で攻撃をかわす。
まだだ!
左足を軸に魔力で加えて体を右回転させて飛ぶ。
「ラメェェェェェル、キックゥゥゥゥゥ!」
巨人の魔物の頭をめがけて蹴りを放つ。
が、敵の移動速度は僕のカウンター速度を上回っていた。
頭を狙ったつもりが空気を蹴ったのだ。
チッと舌打ちが出た。もう少しだと思ったのに……でも行ける。
避けるだけは無理だけどカウンターを合わせれば勝てる。
なるほど流石シエルちゃんだぜ。
「気を緩めるな。来るぞ」
今度は後ろ。
縦ではなく横からの一振り。
それを飛び上がることで回避する。
更に後方転回の要領で宙で体を回転させ、もう一度蹴りをぶつける。
いわゆるオーバーヘッドキックだ。
「またかよっ!」
これも避けられた。っつかどんだけ反射神経がいいんだよ!
攻撃直後のカウンターを二回もかすりもしないって移動速度より反応速度の方がチートじゃねーか。
このままじゃヤバイと歯を食いしばる。
移動速度と反応速度と攻撃力は巨人の魔物の方が上。私があいつに勝るのは回避力のみ。
頼みの綱であるカウンターもヒラリとかわしちまう……。
――つまり体力勝負。
しかしそれだと不利なのは普通に私だ。斧による重い打撃と銃からの連続射撃を受けて体力も魔力も殆ど残っていない。
立つだけで辛いのに、僅かミリ単位だけでも動くと体が悲鳴をあげる。
持久戦はダメだ……何が何でも次は当てないと私たちがヤバイ。
「言ったのぉ? なら守れ、全力で耐えろ」
「え?」
刹那、前方から私から数十メートル離れた場所から感じ取った殺気の発生源を見る。
左腕と一体化し左手となった連射銃の標的を私に向けていた。
ヤバイ……体が震えた。恐怖心ではない。理解したからだ。
――勝利へのルートを。
「貴様、これがラストチャンスだと思え」
「ああ」
シエルちゃんの言葉に短く返事を返し直ぐに防御の姿勢に移る。
瞬間、魔力で体を覆い尽くす。
私がやるべきことは攻撃に耐えること――。
――衝撃っ!――
閃光と共に再び放たれた無数の弾が容赦なく私を襲う。
――十、
まだだ!
――百、
頑張れ私!
――千、
耐えろ!
――万っ!!
真っ黒な闇が私の視界に広がっている。
体全身が感じる苦痛の二文字。
だけど休んでる暇はねえんだ。
カッと開いた双眼で顔を驚きに染めている敵を見据えた。
「ニヒヒヒッ! 今だ!」
同時、巨人の魔物をめがけて飛ぶ。
これがシエルちゃんと私が見つけた答えだ。
宙を駆けながら何回も何十回も体を回す。
そしてその勢いを利用して思いっ切り拳を放つ!
「シ、エル、パンチィィィィィ!」
名一杯、力を込めた拳で巨人の魔物を数十メートル吹き飛ばす。
壁に衝突し、そのまま気絶したことを確認した。
「……やった、倒したんだ……」
「あまり嬉しくないようだのぉ」
微妙なところかな嬉しいけど嬉しくない。だって中ボスレベル……だぞ?
勝てないと思っていた敵に勝利を収めるのは悪くはないがもしかしたら巨人の魔物レベルの敵がまだいるかもしれない。
一匹だけ相手にするだけで体力と魔力を残り一割までに減らされている。
しかもこうしているうちに騒ぎに気づいた魔物たちがこちらに向かってきているし……。
流石に全員がコイツみたいな戦い方をするわけでもないから、なぁ……。
「つまり全員がやつみたいな戦術を取るのなら勝てると?」
「無理です!」
即答する。これはこれで厄介なんだよ。っつか一対一なら大丈夫だ。今みたいにすぐにカウンター入れればいい。
多勢に無勢だとオレがあいつらにボコボコにしてやんよ! されてしまうから無理。
巨人の魔物の戦い方はメッチャシンプルだ。とにかく避けて撃つ。シエルちゃんがいなかったら気付かなかったが巨人の魔物も魔力を使って体を強化したりしている。だが私とは違い魔力の消費が激しいのだ。圧倒的な攻撃力を持ちながら私が攻撃を仕掛けた時しか反撃してこないのはこの為だ。一撃放つたびに大量の魔力を消費する。だから戦闘中に魔力を補充して溜め込んだエネルギーを全て連射銃に注ぎこむのだ。最初、私がそれを防いだときに明らかに有利だったはずの巨人の魔物が驚いたのは連射銃で決めるつもりだったのだろう。だけど僕が何度も何度もシエルパンチやラメールキックを使い移動と攻撃に魔力を消費したせいで十分な威力が発揮できなかった。更に連射銃は全ての魔力を注ぎこむので暫くの間、高速移動など行えない。まあ、一人だけなら突っ込んんで突っ込んで攻撃してきたら全力で防御してからそこを叩くという戦法は通じる。
だが仮に二体いて二体とも同じ戦い方をするのなら?
ハッキリと言おう。勝てるはずはない。
「ならどうする? 逃げ出すか? 奥には確かに貴様と同じ勇者がいるが、こやつと似たような力も幾つか感じる」
今から行く場所には巨人の魔物並の力を持った敵がいるのか……。
まあ、私の答えは最初から最後まで一つだけ。
「行くか」
「……本当に行くのか? 今なら逃亡という選択も可能だがのぉ?」
「逃げたらさ約束を破ることになる。逃げたらさ皆の笑顔を守れなくなる。私はここにいる、戦える力を持っていてさ……もしかsたら世界を救えることも出来るかもしれないんだよ。それが仮にゼロパーセントに限りなく近くてもゼロじゃない。っつかゼロなら一パーセントに変えてさっさと一人でも多くの人の笑顔を守る。それだけ」
進むよ。バグちゃん、チートくん、リアル写○眼ちゃん、シエル……行ってくる。
僕にしか出来ないことをやりにね。
「妾……主と共に」
「ああ、行こう」