第八話 女神の神殿。
次の目的地に向かう途中だから、ついでだから、と女神様に懇願されて私達は神聖王国クリスタルに立ち寄った。
女神様の神殿があり、そこに行けば直接会えるらしい。
……女神様、さては猫動画だけじゃ物足りなくなったな。
まぁ、一度くらい顔を出してやるとするか。
「立派な神殿だ……」
神聖王国クリスタルの首都。
その街外れにある坂の上に女神様の神殿はあった。
「こんな遠くからでも見えるんだ」
神殿を遠くに見ながら私は呟いた。
神殿へと続く坂はけっこうな長さだったので、前の私なら行く前に諦めていたかもしれない。
身体が動くというのは、いい事だ!
私は肩乗りサイズのりゅうたろうを連れて、女神様の神殿に向かった。
坂の麓には店が立ち並び、参拝客で賑わっていた。
大陸中から人が集まっているらしい。
そんなに人気なのか。
あの女神様が……。
神殿の奥には女神様の像があった。
多くの人が祈りを捧げている。
「うーん……」
確かに女神様は美人だったけど、こんなにスタイル良かったかなぁ。
……特に胸の辺りとか。
まぁ、人の事は言えませんけど……。
「りゅうたろうちゃん! お久しぶりです!」
女神様の像を見ながら内心でぶつぶつ言っていると、像の中からするりと女神様が抜け出した。
「大丈夫でしたか? お怪我はありませんか?」
女神様は満面の笑顔でりゅうたろうに話しかけている。
私は無視か!?
いや、そんな事より。
「女神様が降臨なされた!!」
「1000年ぶりの奇跡だ!!」
「ありがたや、ありがたや」
「ところで、女神様が話しかけられたあの方はいったい……」
「……猫?」
この騒ぎをどうする気だ、アホ女神……。
「よつばさん、もふもふ。福助さん、凛々しい。チャビさん、ふかふか」
女神様が、感極まった様子で叫ぶ。
「お会いしたかったです!!」
はい、はい。
はしゃがない。
「女神様、コーヒーと紅茶どっち?」
「紅茶でお願いします」
あのあと、騒ぎにようやく気付いた女神様は、私達を神殿の裏にある泉へと招き入れた。
初めて女神様が降臨した場所で、女神の泉と言われているらしい。
……あの人達聖域とか言っていたけど、私達が入ってしまってもよかったんだろうか。
泉のほとりにテントを張り、猫達を呼び出した。
女神様がはしゃいでいるのを横目で見ながら、お茶を淹れる。
「紅茶、どうぞ」
「つかささん、りゅうたろうちゃん達におやつあげてもいいですか?」
女神様はお茶どころではないようだ。
まぁ、うちの猫達は可愛いからな。仕方がない。
「許可を取るなんて、どうしたの?」
「勝手に食べさせてはいけないって、怒られてしまいまして」
……誰に?
まぁ、そろそろ何か食べさせようと思っていたからかまわないけど。
「りゅうたろうはカリカリしか食べないから」
「大丈夫です。りゅうたろうちゃんには、別で用意してありますから」
女神様が、すちゃっと取り出した。
……準備のよろしいことで。
うちの猫達に会うのをすごく楽しみにしていたようだ。
私には、女神様がとっておきだという、捧げ物であるお菓子を出してくれた。
お茶にお菓子。
そして、猫。
どこかで見たような、と思っていたが。
うん、猫カフェだな、これ。
「そういえば、女神様に聞きたい事があったんだけど」
「はい、何でしょう?」
よつばのもふもふボディに手をうずめて、女神様はご満悦の様子だ。
人間嫌いのよつばだが、女神様は大丈夫のようだ。
……一応、神様だから平気なのか?
「私は向こうの世界でアレして、こっちに来たんだよね?」
あまり、はっきりは覚えていないのだが。
「何で元の姿のままなの?」
普通、赤ん坊に生まれ変わったりするものだと思っていた。
「あー……」
私の言葉に、女神様の目が泳ぐ。
……正直に吐いちまいな。
「当初の予定では、辺境貴族の娘さんに生まれてもらう予定でした」
なるほど、それだと飯テロか領地経営みたいな感じになるはずだったのかな。
けっこう好きなジャンルだ。
しかし、それがどうしてドタバタ珍道中に……?
「猫さん達はご存命だったので、そのまま、こちらに来ていただいたんです」
「うん」
「つかささんが成長するまでの間、猫さん達が自分の身を守れるようにとスキルを授けたのですが……」
そこで、女神様は言い淀んだ。
「ですが?」
何やらかしたんだよ、女神様。
「魂だけとはいえ、つかささんの気配があるので安心したのか遊び始めてしまって」
まぁ、猫だからなぁ……。
「そうしたら、よつばさんが結界を〈解除〉してしまいまして。皆さん外に出てしまわれたんです」
……女神様の結界を解除するとか、どんだけチートなんだ。
「前にお話しした通り、このままでは世界が滅んでしまうので、急遽つかささんに元の姿になってもらったんです」
「は?」
「成長するまで待っていたら、手遅れになってしまいますし」
「……」
「ちょっと手を加えて、転生前のお姿まで一気に成長させてもらいました」
「…………」
つまり、全部あんたのせいか、ぽんこつ女神!
……どうせなら、もう少し若くしてくれたらよかったのに。




