第五話 第三の猫、参上! ……あんた、どこから来た?
「りゅうたろう、痛いってば! よつば、それ食べちゃダメ!」
次の目的地に向かって出発した私達は、途中の森でテントを張って休んでいた。
目的地といっても具体的な場所が分かっているわけではない。
世界はやっぱり広いし、猫達は自由に移動しまくっている。
女神様にも把握しきれないらしい。
それでも猫の近くまでいけば、テイマーである私には気配が分かる。
多分、こっち……? という女神様のあやふやな情報にもとづき、オパール王国から東に向かっていた。
「東の方には海があるんだねぇ」
コーヒーを飲みながらマップを確認する。
りゅうたろうは私のひざの上に座ってくつろぎ、よつばはまた食べている。
……まさか、無限収納の中のご飯まで食べ尽くす気じゃないだろうな。
「さて、そろそろ出発しましょうか」
翌朝、テントをしまって再び歩き始めた。
森の中には魔物がいるかもしれないので、りゅうたろうには虎くらいの大きさになってもらっている。
よつばはキャットハウスの中だ。
無限収納とは別のスペースなので、よつばも好き勝手に食べたりは出来ない。
ちなみに、女神様はよつばのもふもふにまたしてもメロメロだ。
……その猫、あざといんだから騙されるなよ!
しばらく歩いたけれど、まだ当分森の中を抜けそうにない。
りゅうたろうを警戒しているのか魔物達も全く姿を見せない。
森の中なので、見えるのはうっそうと茂った木のみ。
「……平和だ」
平和すぎて、暇だ。
……もしかして、私、スローライフ向いてない?
少し休憩を取ろう。
「あー、もふもふ最高」
横になった大きなりゅうたろうのお腹にもたれかかり、私はだらっと座った。
自分が腕枕されたいりゅうたろうは、この状況に少しだけ不満そうだ。
「なんか、眠くなってきた……」
うとうととした瞬間。
「ぐえっ!?」
お腹の上に衝撃を感じ、私は目を覚ました。
「え、何?」
りゅうたろうはまだスピスピ寝ているから、魔物が襲ってきたわけではないだろう。
周囲を見回すと、とてとて足音を立てながら走り去っていく黒猫が見えた。
ビミョーにお腹が出ている中年太り風の体型。
何より、あのブサイクな走り方は。
「福助!」
思わず叫ぶと、黒猫はびくっとして振り返った。
瞳孔がまん丸くなっている。
「福助、おいで」
落ち着いて呼ぶと、福助はとてとて戻ってきた。
顔がいいのと性格が素直なのが福助の取り柄なのだ。
……ほかの事は、まぁ、あれだ、うん。
「良かった、無事だったんだね」
差し出した私の手を、福助がぎりぎりと噛んだ。
「痛い!」
子猫の頃、しばらく自力で食べられない状態だった福助に私は手でご飯をあげていた。
だからだろうか、大人になった今でも福助は私の手に執着している。
「痛い、離して!」
私が悲鳴のように叫ぶと、しぶしぶと福助は噛むのをやめた。
これは相当お腹を空かせていたようだ。
無理もない。
よつばではあるまいし、ましてや福助だ。
いくら森の中とはいえ、自力で食糧を調達など出来なかったのだろう。
「……あれ?」
りゅうたろうに寄りかかって休む前に確認したはずなのだが、猫の気配は近くになかったはずだ。
「福助、あんた、どこから来たの?」
「?」
福助はきょとんとした顔で私を見上げている。
まぁ、いいか。
「ご飯にしようか、福助」
そう声をかけると、福助は嬉しそうに私の手を噛んだ。
たから、私を食べようとするんじゃない!
スキルを確認すると、福助は風魔法が使えるらしい。
「へぇ、風魔法か……」
私には魔法スキルは一切なかったけどな。
つーか、〈猫じゃらし〉レベルMAXって何だよ、私のスキルは。
この世界で何か役に立つのか。
「そうか、ふぅん、風魔法か……」
……さては猫達に先にスキルを授けやがったな、アホ女神。
「まぁ、それはいいとして」
うん、いいことにしておこう。
しばらく猫達の動画は送ってやらないけどな!
涙にくれながら、己の所業を反省するがいい!!
「次は、どこに向かえばいいのやら……」
多分、女神様が言っていたのは福助の事なんだろう。
見つかった以上、ここには用はない。
「……とりあえず、森を抜けようかな」
木ばかり見ているのにも飽きてきてたところだし。
しばらく歩いて行くと、りゅうたろうが立ち止まった。
耳を伏せて警戒している、いわゆるイカミミだ。
魔物か!?
慌てて周囲を見回しても、何の姿も見当たらない。
……隠れて様子をうかがってるのか?
いくら大きくなったりゅうたろうが無双状態でも、不意討ちをくらったらマズイ。
「福助!」
「?」
私に呼ばれて、福助がキャットハウスから出てきた。
「〈風魔法〉で、この辺の木をなぎ倒して」
見晴らしさえよければ、こっちのものだ。
りゅうたろうの ぷちっ! をくらうがいい!
「にゃ!」
福助が張り切って、一声鳴いた。
へえ、猫が魔法を使うってこんな感じでやるのか。
……って、ん!?
福助の起こした風は、あり得ないほどに大きく強かった。
「待て、待て、待て!」
りゅうたろうにさらに大きくなってもらい、慌ててその下にもぐり込んだ。
そうでもしなければ、吹き飛ばされそうだった。
そうだった。
福助は常に全力な猫だった。
……つまり、手加減など無理。
さっき突然現れたと思ったら、さては自分の使った風魔法に巻き込まれたな?
「ちょっと、これ、どうするの!?」
私を振り返った福助が無の顔になった。
なるほど、つまり無理だと。
なら仕方がない。
って、達観している場合ではない。
「よつば、〈風魔法〉を〈解除〉!」
よつばがキャットハウスから出てきて、ちょいちょいと前足を動かした。
とたんに、ぴたりと風がやむ。
「助かった……」
りゅうたろうもご苦労様。
頭は撫でられないので、足の先を撫でてやる。
通常サイズに戻ったりゅうたろうが、肩に飛び乗ってきた。
うん、頑張ったもんね。……痛いけど。
いいよ、我慢するよ。
ふと見回せば、私達の周りには森どころか、一本の木すら生えていなかった。
あ、向こうに海が見える……。
『……つまり、福助さんが森一つキレイに消し去ってしまったという事ですか?』
「そうです……」
『……』
女神様がスマホの向こうで絶句している。
すみません、うちの猫がまたやらかしました。
女神様が呆れるのも無理はない。
世界が滅びるのを止めてくれと言われていたのに、地形を変えてしまったのだから。
このままいけば、魔王ルート一直線だ。
『……素晴らしいです!』
は?
『そこまで出来るのは、人間やエルフにもなかなかいませんよ!』
「……」
『お顔が凛々しい上に魔力まで強力だなんて、素敵すぎます!』
「…………」
『つかささん、動画撮っておいてくれなかったんですか?』
「………………」
そうだった。
こういうやつだった。
『森じゃなくなったのなら、新しく名前を考えないといけませんよね。福助高原とか、いや、もっと、こう、福助さんの凛々しさが伝わるような……』
スマホの向こうからぶつぶつ呟く声がする。
世界が滅びるのを止めなきゃいけないんじゃなかったのか、アホ女神!!




