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子午線の下で―私の時間を見つける物語―  作者: 明石竜


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第四章 一人の星時間

 観望会の翌朝、柚月は少し遅く目を覚ました。


 昨夜は興奮してなかなか眠れないかと思っていたが、布団に入ると、意外なほどすぐに眠りに落ちた。

 夢は見なかった。ただ、深く、静かな眠りだった。


 縁側に出ると、朝の光が庭に落ちている。

 昨夜見上げた星空とは、まるで別の世界だ。


 湯を沸かし、簡単に朝食をとる。

 特別なことは何もしていないのに、身体の奥に、まだ夜の余韻が残っている気がした。


 柚月は縁側に座り、スマホを手に取った。

 無意識に時計を見ようとして、ふと、その動きを止める。


 時間を確認しなくてもいい。

 今日は、どこにも行く予定がない。


 スマホを伏せ、縁側の板に置いた。

 それだけで、空気が少し変わったように感じる。


 午前中は、庭の手入れをした。

 伸びかけた雑草を抜き、落ち葉を集める。

 単調な作業なのに、不思議と飽きない。


 作業の合間、何度か空を見上げた。

 昼の空は、星の気配を何一つ残していない。

 それでも、昨夜あの場所に星があったことを、身体が覚えている。


 昼食を済ませたあと、柚月は押し入れを開けた。

 祖母の使っていた古い双眼鏡が、箱に入ったまま置かれている。


 子どもの頃、一度だけ使わせてもらったことがあった。

 重くて、うまく扱えなかった記憶がある。


 箱から取り出し、レンズをそっと拭いた。

 古いが、まだ使えそうだ。


 夕方、双眼鏡を持って庭に出る。

 椅子を置き、背もたれに寄りかかる。


 空が、ゆっくりと暗くなっていく。


 最初の星が現れた。


「あ……」


 小さく声が出る。


 昨夜、教えてもらった名前を思い出す。

 アークトゥルス。


 双眼鏡を覗くと、光は少し大きく、少し近くなった。

 それだけで、胸の奥が静かに満たされる。


 誰に説明する必要もない。

 正解を確かめる必要もない。


 ただ、見ている。


 それだけでいい。


 スマホが光った。

 通知だった。


 柚月はしばらく見つめてから、そっと裏返した。


 今は、見なくていい。

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